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「私の官能小説」

「いい?ハチ。手は使っちゃだめ」

深夜0時。
お風呂上がりのバスローブ。
大好きなハチに、お似合いの下着を履かせて。
私はベッドに寝転んだ。

「ピアス、見つけられるかな?」

ベッドから少し離れた所で立ち尽くす彼の顔には目隠しの布。
静かに頷くその口元に、私の下腹部が熱くなる。

私はいくつも置かれたクッションに身を委ね、くねらせた胴体のまま片足を立てた。
何も知らず開始の合図を待つ彼に、愉快な気持ちで挑発する。

「私が眠っちゃう前に見つけてね、ほらおいで」

私の声と共に、ハチはその場にゆっくりしゃがみこんだ。
寝転んだまま投げかける私の声で、おおよその位置感覚を捉えているようだった。

ベッドの足先に目隠しされたハチの顔が見える。
口を結び、冷静に、感覚を研ぎ澄ませていく様を見ていると。
不慮の事故で目を失った敏腕スナイパーに狙われている、もしくは凶暴な肉食獣が透明になった獲物の痕跡を頼りに探し回っている、そんな姿を重ね、楽しくて仕方ない。

ゆっくり、ゆっくり。
ベッドに手をかけ、前進する顔が足先に近づいてくる。
元から嗅覚を頼りに生きてきた野生動物みたいに、確実に私の気配を嗅ぎ取り距離を詰めていく。
あぁ、もう届いてしまいそう。

「……」

ハチをかわすように、伸ばしていた足先を、90度に曲げてみた。
あら、伝わったかな。
ハチの動きも、ピクリと止まる。
静かな空間で、なぜか二人とも息を潜めて。
ハチ、あなたは全部丸見えなのに。
私は息を止め、ハンターとなったハチの動向を伺った。

「………」

再度、ゆっくりと前進してくる。
足の裏。あぁもうハチの鼻がついちゃう。

「……、」

ハチの鼻先が、私の存在を確認した。
そのまま流れるように、唇が足の裏に密着される。

「…、………、…」

土踏まずに隙間なく唇を埋め、足の裏全体を口周り、頬で確かめるよう接触させていく。
指と指の間に鼻先を入れ、指の付け根に唇をムニムニ、と押し付ける。

くすぐったいなぁ。そんな所にピアスは開けてないって。
余りにしつこいから、閉じられた唇を、足の親指でこじ開けてみる。
意思を持った指は、開かれた少しの隙間を縫い、ハチの口内に無事侵入した。
ところが、待ってましたと言わんばかりの歓迎具合。
ねじ込まれた親指は、ハチの柔らかな舌に出迎えられ、すぼめた唇でパクン、と口の中へ含まれてしまった。

「…チュ…、……ッ…」

視界を奪われた男が、心底丁寧に私の足を愛撫する。
私の全身を受け入れ、足の先から髪の毛一本まで愛おしむこの男を『犬』と呼び、『ハチ』という名をつけた。
専用の首輪をつけ、リードによって動きを制限される。
この“地上の楽園”は、事実以外の何物でも無い。そうだよね、ハチ?

「……ふぁ~あ…」

いつまで経っても足をしゃぶっている仕方の無い犬に、あくびを一つ。

“足ばかり、私はそろそろ飽きてきましたよ”

私の意図に気づき、仕方無さそうに咥えていた足を口から離す。
ハチの口から出された世界はひんやりと冷たく、なんだか少しだけ名残惜しい気持ちにさせられた。

足先と別れを告げたハチは、足の甲、足首、脛、脹脛と、順に探す位置を進めていく。
私の居場所を掴んだハンターには、もう余裕すら感じられた。
当初の私の目論見どおり、ハチにとってのピアス探しなどおまけのおまけで。
目的は、私の全身をくまなく愛す、自らの印をつけるように。
これは、そういう遊びなの。

太ももに差し掛かる頃、羽織ったバスローブがハチの行く手を邪魔する。
手を使いどかせばいいけど、今のハチにはそれが出来ない。
どうする?ハチ。

「………」

鼻先でバスローブの端を確認し、子猫でも扱うように、そっと口で咥える。
覆っていた布はゆっくり、ゆっくりと引き剥がされ、隠れていた肌が、露になった。
ハンターハチは、もはや、猛獣ハチに見えてくる。
獲物を食べやすく仕上げ、その鋭く獰猛な牙を、柔らかな皮膚へ食い込ませる。
ジリジリと力を加え、限界を迎えた肌はプツン、と破裂する。
そんなことを妄想し、舌舐めずりをする肉食獣みたい。
やっぱね、そうこなくちゃ。

まだお風呂上がりの湿度が残る内ももに、ハチが顔を落としていく。

「…、……」

柔らかく、ついばむように口づける。
粘膜は触れさせず、唇だけを使う、上品な愛撫。
自らの手は私に触れないよう、細心の注意が伺える。
もうすぐ下着に、とどく…

「…!」

あと一歩で鼻先が届く、ギリギリのタイミングでハチが上体を持ち上げた。

「…?」

何をするのか様子を伺っていると、私の身体の両脇に手を付き、のそり、のそりと顔の方へ接近してきた。
目が見えない彼は、やっぱり少し感覚が鈍くなってる。
もう私の顔が目の前にあることに、まだ気づけていないようだ。

大好きな喉仏。
じっと動かずに、私の位置を伺っている。
そーっと、全てがバレる前に近づいて。
ハチの首筋に、鼻先をこすりつける。

「……っ!」

ふふふふ。
乱れて。もっと。私で乱れてよ。
動揺して。普段のあなたなんか吹き飛ばして。

首から項、耳の裏に到着しそうな頃。
私のわざとらしい甘えから逃げ、リセットをかける。

さぁ、次はどうするの?
私は近くで見てるのよ。
ピアス、ちゃんと探すチャンスなんじゃない?

言葉にしなくても伝わる空気。
だってわかる。
ハチの気合いが、立て直されてる。

じっと見つめる私を前に、何かを嗅ぎ分けながら近づくハチ。

ほら、どうぞ?

顔を左に傾け、自らの首を差し出す。
髪の毛も垂れ下がり、耳は丸出し。
おいでハチ、 チャンスだよ。

数秒遅れで、空気の変化を察知した様子。
私の位置を想像し、進路を描く。

間近で見つめる私を知ってか知らずか。
意識が、隠された下にある視線が、確実にこちらを向いている。

ギシ……ギ、シ……

ハチが体重を移動させる度にきしむベッド。
きたきたきた…ほら、探して?

ゆっくり近づき、髪に触れ、皮膚に触れ、生身に触れる。
ハチの好きな私の香り。
肌に鼻を埋め、抱きしめるように吸い込まれていく。

「ッ……、…チュッ……」

息が漏れないように。
ハチのじゃれつきに、喜びがバレないように。
澄ました顔で、ハチの雄み溢れる猛攻を受け止める。

髪に、首に、耳に。
“あくまでもピアスを探しています”
そんなフリぐらいすればいいのに。

耳はあっさりと通過するあたり、端から狙いはここじゃないようだ。
首をつたい、鎖骨をなぞり、喉にたどり着く。
喉元に舌を這わせると、そのまま真下へ。
バスローブの胸元を顔でかき分け、身体の中心を真っ直ぐ、真っ直ぐ、と降りていく。

「……ふっ」

下に伝っていく感覚がくすぐったくて、思わず声が漏れてしまった。
バスローブの紐を越え、既にピアスが入ったおへそに到着したハチは、自分だけの主と主張するかのように、私のピアスを歯で鳴らす。

ここまで、一切ピアスを探す様子は無く、私の身体の上を自由きままに駆け回る、そんな様子だった。
けど、ここに来て、ハチの様子が変わる。
おへそを過ぎて、履いていた下着にたどり着いた。
口元に当たる布、一度目で発見し、二度目で確かめ、三度目で確信する。

ようやく来たね、遅いよ。
楽しい遊びも終盤、待ちくたびれた気持ちなど一瞬で溶けて消え去る。
ハチが慎重に位置を確かめている間、私はゆっくりと左の足を開き、愛犬の到着を迎えてやった。

「………」

開放的になった空気を読み取ったハチは、下着の上から、ゆっくり、ゆっくりと口づけていき、湿り気のある部分に唇を押し付けた。

―鼻が、当たる。

ずっと冷静さをキープしていたハチの吐息を感じる。
唇だけで、生クリームを食べるように、何度も何度もなぞられる。

正直、このまま押し倒し犯したい。
目が見えないハチに馬乗りになり、強制的に舐めさせたい。
唇を張り付けられたまま、私の体液を流し込みたい。
もう今にも暴発しそうなペニスを握りしめ、与えられた苦痛に発情し漏らしてしまうハチを慰め追い込みたい。
…なんて。そんなイメージに襲われるほど、私だってたまらない気持ちだった。

躾に甘く、堪え性のない主人は、静かに、腰で結ばれた紐を解く。
張っていた布はたるみ、ハチに選択肢が増えた。

右側からハラリと落ちて、申し訳無さげに乗っかっていた残りの布は、ハチの口によって丁寧に剥がされる。

この湿り気は、お風呂上がりだからだろうか。それとも私?
ハチには絶対わかっている、大好きな私の匂い。

隠すものが一つも無くなった私は、気を抜けば漏れてしまいそうなため息を飲み込み、ハチの動きをじっと、観察する。

―匂いを、嗅ぎ。
口を閉じたまま、両脇のぷよぷよと柔らかな皮膚に口を押し当てる。
じゅくじゅくと湿り気を帯びる部分に口づけられ、回数を重ねるごとに、少しずつ、開いてきたハチの口が目に浮かぶ。
貪ることは無く、静かな空間で、初めての経験みたいに。
慎重に、丁寧に、ゆっくりゆっくり、私を味わう。

「……っ」

皮膚のサラサラとした接触が続く中、急に感じるウェットな刺激。

“ヌルッ…”

思わず腰が浮いた。
不意に声をあげそうになった。

ハチの舌が、私を舐め上げたのだった。

ハチに舐めさせるのなんていつもの事だけど。
なんだか今日はやけに一段と、官能的な舐め方をしやがる。
ハチのくせに…

休む間もなく、次から次へ。

ペロ、…ペロ、…ペロ、…ペロ

一回ずつ完結させるその舐め方、本当に犬みたい。
恐らく、溢れた私の愛液で潤むソコを、一滴残さず舐め取っているのだろう。

「……っ、」

触れては離れる舌の感触に、くすぐったいような、心地いいような。
途絶える刺激の間隔で、常にリセットされる私のソレは、次第に、ゆっくりと上り詰めていた。

「……ハチ?………ねぇ、ハチ」

「 (ペロ、…ペロ、…ペロ、…ペロ) 」

「…ハチ。…そこにピアスが無いのわかったでしょ?……早く探しなさい…」

「……………」

執拗に同じ場所だけ舐め続けるハチに、ギリギリの指示を出した。
止まる刺激に、ほっと胸をなでおろす。
安心したのも束の間、またもや同じ場所に舌を這わすハチ。

「ちょっ…………!」

隙間なく、穴を塞ぐようにあてがわれた舌が、じっとりと動き出した。
息が止まるような空間で、集中せざるを得ない感覚が、鳥肌を立てる。

「………っ」

柔らかく密着していた舌は、だんだんと硬く、鋭く変形し、上へ、上へと移動する。
迫りくる強い刺激と共に、尖った舌先は、とうとう目的のピアスに到着した。

「…んっ」

まだ開けて数週間のそのピアスは、完全にホールが完成したとは言えず、普段の刺激を何倍にも高め私に襲いかかる。

ハチの舌先が、皮の中に隠されたピアスのボールで遊んでいる。
直接触れるには刺激が強すぎるその場所で、無邪気なハチの舌が、無機質なピアスを絡め取り、とてもじゃなけいけど、ジッとなんてしていられない。

「…ハチ、ねぇ、わかったでしょ?そこ」

「…………」

「ねぇ、ちょっと…」

「…………」

「…ハチ………あぁもうだめ」

全身に力が入り、ビクビクと跳ねてしまう私の腰。
足に両手を回し、ピアスのある部分に舌を差し入れたまま、舐めるのを止めない悪い犬。

「…はちぃ……ねぇ…もう終わり…ねぇ………ハチっ!」

「!」

声を上げ、やっとのことで押さえられていた両手が緩められた。
四つん這いのような態勢で固まるハチに近づき、感情の読み取れない目隠しをずらす。

「ちょっと、手使っちゃだめじゃない」

「……ごめんなさい」

「もう…すぐわかったんでしょ?ピアス」

久しぶりに目があったハチは、嬉しそうにニヤけたまま、私を見上げる。

「……まだわからないです」

そう呟くと、勢いよく私に抱きつき、力いっぱい甘えてきた。
やっぱり、大型犬用の首輪とリードが必要だ。

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あまね@ SM短編
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