「僕のちんこにピアス開けてください」10
「よし、そろそろ行こうか」
紗季さんが口を開き、話に夢中になっていた俺はハッとした。
紗季さんのカップは空になっていて、携帯を見ると一時間以上経っていた。
俺は2人分のカップを持ち、カウンターまで運んだ。
紗季さんとゆっくり会話が出来たからか、とても満たされていた。
外に出るとヒヤリとした空気が、俺に纏っていた暖気を一掃した。
さっきまでの夢のような時間は夢だったのかと思うほど一気に現実に戻された。
横を見ると、紗季さんは真っ直ぐ前を見つめていた。
店の場所がわからない俺は、紗季さんの半歩あとをついて行った。
「ここ、予約とか無いから、混んでれば待つよ」
無機質で、外観からでは一生かけても何の店か当てられないような店舗に到着した。
ドアを開けると店内には店員らしき男性が一人、カウンターに座っていた。
「いらっしゃいー、おぉ久しぶりー」
カウンターの男は紗季さんを見るなり、親しげに話しかけてきて、2人は知り合いだということがわかった。
俺は紗季さんに促されソファーに座り、店内をキョロキョロと見回す振りをしながら、2人の様子を盗み見てしまう。
「少年、開けたい場所決まってるの?性器でも色々あるけど」
開ける場所…何も考えてなかった。
紗季さんにピアスを開けて欲しい、それが無理なら紗季さんが見ているところでピアスを開けて欲しい、それだけだった。種類があることを今知った。
「いや、希望は特に無いので紗季さん決めてください!」
えー…、紗季さんはそう言い再度カウンターを睨みつけている。
おそらくメニュー表か何か見てるのかな。
紗季さんが決めてくれた場所に開けられるならそれが一番いい。
迷いなど一ミリも無く、とても満たされた、穏やかな気持ちだった。
泣かずに開けられたら褒めてくれるだろうか。
帰りにご飯誘ってみようかな。その時、次会う約束したいな。
その前に連絡先聞こう、さすがにもう直接やりとりしてもいいだろう。
「ちょっと少年、来て」
紗季さんに呼ばれ俺もカウンターへ行くと、やはりそこにはピアスがついた顔や身体のイラストと金額が書いてある表があった。
「どうする? さすがに自分で決めなよ」
「紗季さんに決めて欲しいです」
「いやいやいや、開けるのは君の身体だよ」
「だからです。だから、紗季さんに決めて欲しいんです」
目の前にいる男の店員は何も言わず、黒目だけを動かし紗季さんと僕の目を交互に見た。
俺のこと何だと思ってるだろう…
そんなことを考えていると、紗季さんが口を開いた。
「んー、個人的にはプリンスアルバートが可愛いと思う、けど自分が決めないと今後ピアスを見る度、思い出しちゃうよ」
「今日のことですか?」
「とか、全部」
全然いい、むしろ記念になって嬉しい。
二年間、俺は今日のために生きてきた。
紗季さんに言われたとおり色んな経験をする為、紗季さん以外の女性に痛めつけられてみたし、紗季さん以外の女の子と付き合い普通のセックスもした。
バイトも学校も、とにかく全て紗季さんのためだった。
言いつけが無ければ、俺はきっと大学にもまともに通わず、携帯の向こうのいるかどうかももわからない紗季さんを想い続けるだけの日々。
現実と妄想の境目が薄くなり、ゆっくりと狂っていく、人としてまともでは無くなっていたと思う。
「プリンスアルバートにします」
俺は目の前で様子を伺っている男に、そう宣言した。
「うん、そう。見た目の割に痛みはそこまでだし、最初にはいいかもね。じゃあ先にお会計ね」
俺はこの日の為に貯めたバイト代から会計を済ませた。
「じゃあ準備できたら呼ぶから、ちょっとそこで座って待っててね」
俺は元座っていた場所に腰をかけたが、紗季さんは横に立ったままだった。
不思議に思い声を掛けようとした瞬間、カウンターの男に呼ばれてしまった。
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