「同化」
それは雨の日。
傘の雫を落とし玄関のドアを開けるとお前がいる。
土下座で迎え、正座へ変わる。
フワフワに洗われたタオルを膝の上へ広げ、準備を整える。
お前の髪を掴みバランスを取ると、広げられたタオルの上に乗りあがる。
私の足はすぐさまタオルに包まれ、柔らかく水分が拭き取られていく。
それはそれは丁寧に。雨で冷えた私の足に、自らの体温を移すように。
お前の髪はいつも綺麗ね。
“私の為に、お前は常に清潔でいなさい”
いつだって私の気分が良くなるように。
臭い都会の空気に吐き気がし、雨に降られてしょぼくれて。
それでも、ここに帰れば鼻腔に広がる幸せの香り。
お前が発する桜の香り。常に新鮮に香るよう、オーデコロンにしたんだ。
私のためにサラサラと光る黒髪で、雨に濡れた腕を拭い、クラクラしそうな桜に浸る。
私は楽園へ帰還した。
それは脱衣所。
冷えた身体を温めるため、既に用意された湯船に向かう。
濡れた洋服が、皮膚にしつこくまとわり付く。
一枚ずつ身体から剥ぎ取ると、脱衣所に脱ぎ捨てた。
浴室のドアを開け、生まれたままだったはずの全身が、私を迎える。
それは自分と呼ぶには違和感があるものの、自分以外の何ものでもなかった。
全身の汚れを洗い流すと、足先から熱い湯船に沈んでいく。
身体に染み込む熱が精神までも消毒し、纏った皮膚は再生される。
ガラスドアの向こうにお前が見える。
四つん這いのまま、私の脱ぎ捨てた衣服を一枚ずつ口で咥え、洗濯機へ運ぶ。
脱ぎ捨てたままの下着は、私の体液が薄く染み付き、周囲を見張る。
お前は教えた通り鼻先を押し付けると、このまま卒倒するんじゃないかと思うほど、肺の奥深くまで私を吸い込んだ。
私は少しも視線を逸らさずその光景を見ていたが、目の前の大きな生き物含め全てが風景のように思えた。風景?映像?絵画?とにかく、何か作られた現実以外のソレに見えた。
湯気で煙る浴室の天井を見上げ、水滴の数を数えてみた。
集中すればする程、壁の色と同化した水滴は視界に溶けていき、一体何を見ているのかわからなくなった。
目がまわりそうな視界を脱衣所に戻すと、既に脱ぎ捨てた衣服を片付け終わったお前が土下座で私を待っていた。
細長く伸びた指先。骨ばった肩。一糸乱れず並ぶ背骨の玉がお前の繊細さを際立たせる。
今度、たまにはお前も一緒に…。
思い浮かべたものの、想像の中でもお前は浴槽の外で土下座をしていた。
なるほどそうか。気が変わった私は、風呂椅子の処分方法を浮かべつつ、もう少し長湯を楽しむことにした。
それは食事時。
私の足元、盛られたご馳走。
フルーツと野菜、それと少しの炭水化物。
お前のメニューに肉は無い。美しく香るお前が臭くなる。
四つん這いのまま、黒く輝く髪を揺らし、品よく綺麗に食べ進める。
背が高く、肌が白い。襟足は均一に刈られ、垂れる前髪が顔を隠す。
私は椅子に座り食事をするも、足元の気配を掻き回したい衝動に駆られる。
大人しく食べているお前の鼻先に足を近づけた。
動きが止まり、私の様子を伺う。
見つめられる視線にくすぐられながら、足先を使い、餌皿からお前の顔を引き離した。
薄皮まで丁寧に剥いてあげた文旦を、足指の付け根で挟みこみ、お前の口に運ぶ。
食べこぼさないよう、私の足裏へ一生懸命食らいつくお前は到底犬になんか見えず。
それは卑しく純粋で、世界の全てに取り残された出来損ないの人間にしか見えないよ。
こんなに美しい。お前に価値を与えられるのは、私だけ。
器用に果物を受け取り食べ終わると、私の足についた果汁を一滴残さず舐め取っていく。
指の間、付け根に舌を這わせて。伏せた睫毛が最高に艷やかだ。
私は足癖が悪いらしく、子供の頃よく母に怒られた。
反省したことなど一度もない。器用なのだ、何がいけないのか。
おかげでこうして、同じ食卓を囲めない愛するものに、直接食事を与えられる。
足癖が悪くてよかったよ、お母さん。
もう片方の足で餌皿に残ったメロンを踏み潰すと、指の間から熟した実がニュルッ、とはみ出した。
すぐに慣れた柔らかい感触が指先にペッタリと張り付き蠢く。
春の野菜は美味しい。
足癖が悪くて、本当によかった。
それは眠る前。
ベッドに横になり、お前を呼ぶ。
足先から行う口づけの時間。
今日もお前の唇が薄く柔らかく、私に想いを落としていく。
人としての尊厳を奪われ、毎日一人で私の帰りを待ち、私のために生きるお前。
…そんなことを考えているととても眠くなってきた。
ベッドに浅く座り直すと、お前はすかさず地面に降り準備を整える。
寝る前の決まりごと。
私の体液を、お前に分ける。
必要以上に汚さぬように、小さく確実に唇を這わせる。
何の障害もなく、極めてスムーズに吸収されていく私の水分。
全て出し終えると、お前はいつものように清浄綿を取り出し、私のソレを綺麗に拭きあげる。
「洗浄」
「はい」
お前に洗浄を命じる。
いつでも綺麗に、いい香りでいなさい。
決して私の体液が汚いわけではないけども、私の匂いにはならないで。
お前の無垢な匂いを守って。
「戻りました」
歯を磨き上げ、寝る支度を済ませたお前が戻る。
全裸に光る股間の金具。
少しも猶予を与えない、酷く美しい拘束具。
誘導することも無く、お前は自ら自分の部屋に入る。
部屋のすみに設置された、大型犬用の大きなゲージ。
中には専用の毛布をひき、身体を休めやすいようにした。
扉を閉め、外から鍵をかける。
「おやすみ」
目線だけで静かに見上げるお前のゲージに口づけをひとつ。
男の横では眠れない私だが、
お前がいるこの部屋では心から安心し、熟睡できるんだ。
おやすみ、私の✕✕✕。
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