「僕のちんこにピアス開けてください」9
電車が駅に入っていく。
スピードが落ちていくとホームにいる女性達の顔が確認できた。
もしかしてこの中に紗季さんがいるんじゃないかと思うと、一人一人の顔を目で追ってしまう。
「駅につきました、紗季さんは今どこですか?」
「改札出た所にいるよ」
「すいません、すぐ行きます」
早る気持ち落ち着かせ、足が絡んで転ばないように、一歩一歩と確実に歩みを進める。
改札を出る瞬間、一度だけ大きく息を吸い、顔を上げ人混みを見渡した。
溢れかえる人。直進するのが困難なほど。
その中で俺は、一瞬にして紗季さんを見つけらた。
初めから紗季さんの居場所を知っていたかのように、俺の瞳は紗季さんだけに吸い寄せられた。
景色と化した人々が、モノクロでスローに見える。
その中で沙季さんだけが鮮やかに見えた。
一歩ずつ、近づいていく。
「お、少年?」
俺に気づいた紗季さんが俺の方を見た。
「わー本物だねぇ、かなり雰囲気変わったね! でもわかったわー、目は写真のままだもん」
八重歯があるんだ。唇、綺麗な色だな。
「…どうした? 生きてる? おーい」
「…美しいです」
「お、ありがとう。照れるね」
「…会いたかったです」
「うん、そうらしいね」
愛しています、口から出たがる言葉を喉の奥に押し込んだ。
「えーっと、じゃあ行こっか。ピアス開ける前にお茶してこう」
「はい!」
紗季さんと並んで歩いた。
緊張からか、歩く地面がフワフワして無重力にでもなったかのようだった。
「お店どこでもいい?」
「はい!」
竹下通りにあるカフェに入った。
メニュー表を見ている紗季さんを見て気づいたが、背がとても小さかった。
存在の大きさ、包容力から大きく感じていたが、150センチちょっとしか無いように見えた。
「私ホットコーヒー、少年は?」
「僕も同じがいいです」
「苦いよ」
「はい、同じもので」
ふーん、と言いながら、紗季さんが慣れた口調で注文してくれた。
会計は俺がしたかったのに、年下を理由に払わせてもらえなかった。
「運ぶから、どっかいい席とっといて」
紗季さんに促されるがまま、席を探しに頼りなく店内奥へ入っていった。
店内を見渡すと隅に空いてる席を見つけた。座っていられずテーブルを拭いてみたりしているうちに、マグカップを二つ持った紗季さんが来た。
「なんかすいません、何から何まで」
「何が?」
会ってから何一つスマートに出来ない自分に落胆していたが、気にしているのは俺だけで、紗季さんは本当に何も気にしていない様子だった
紗季さんにとって今日は何てことない、普通の一日なんだろうな。
そう思うと、少しだけ胸が痛んだ。
席につくと、改めて紗季さんの顔をよく見てしまう。
恋焦がれた目は完璧な形をしている。
喋らなくても、目線一つで支配できる、そんな力をもった目。
マグカップを持つ手の筋、熱いカップにそっと口付ける時の唇、ツルンとした長い髪。
どれをとっても、今まで見たことが無いほどに、完成された女性。
「私に穴を開ける気かい?」
紗季さんは呆れたように言った。
やばい、俺はどのくらいの間見つめていたのか。うっかり見とれてしまう。ほっとけばずっと見てられる。二年間の穴埋めでもしているつもりなのだろうか。
「で、今日君はあそこにピアスを開けるわけだけど、本当にいいの?」
「はい!もちろんです!」
「怖くないの?」
「怖いです!だから紗季さんに手を握ってもらいたいんです!」
「おー…、そうか。うーん…。それでも開けたいの?」
「はい!」
「まぁ、それなら連れてってあげるけど、約束通り、泣いたら手にキスは無し。むしろ涙を溜めた時点でだめよ。あともう一つ、泣いたら、会うのは今日で最後よ。泣き虫に私は無理。約束できる?」
「はい!絶対泣かない自信があるので大丈夫です!紗季さんに会うまでに色んな女性とプレイをして、沢山身体に傷ができましたが涙は出ませんでした。たぶん僕痛いの平気なんだと思います。だから、針が刺さったぐらい余裕だと思います!」
紗季さんは納得してくれたのか、それ以上ピアスの話はせず、珈琲が無くなるまで俺の二年間の話を聞いてくれた。笑顔で、紗季さんは相槌を打ち続けた。
心地がよくて、俺は普段の何倍も喋った。紗季さんがいる空間は温かくて、ずっとここにいたいと思った。紗季さんが作る世界に閉じ込められて、完璧な幸せになりたい。
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