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「人間ベッド」2
「えっ!…いいんですか!」
こんな無垢な青年に、私ってば…
…なんて、自分の理性に反省してるフリして、頭ではやらしい作戦会議開始。
「いいわよ、なりたいんでしょ?じゃあ裸になってね、ベッドになるのに服はいらないんじゃない?」
変な理屈…自分で自分にツッコミを入れる。
「…そうですね、わかりました!」
納得するんかい…この子でよかったわ。
「じゃあ早速入ってもらうけど、マットレスに埋まった瞬間からあなたはベッドだからね、感情とか、欲望とか、人間らしい事は捨てなさい、わかる?」
「…はい」
「あと、本当にプレイをやめたい、って時は「緊急事態」って言ってね」
「…わかりました」
私はマットレスに埋め込んでた何枚ものバスタオルを引っ張り出し、これから彼が埋まる凹みを作った。
「はい、寝てみて、仰向けね」
彼を悪魔の凹みに誘うと、引き寄せられるようにすっぽりと収まった。
「何か最後に言いたいことはある?」
既に捨てられた犬みたいな顔になってる彼を覗き込み、終わりの始まりを告げる。
「…ありがとうございます、あまねさん…」
はぁ…クラクラする。こんな子を私は今からベッドにしようとしているのか。
地獄行きだな、まぁいいけど、天国なんて退屈そうだし。
息ができるように、軽いシルクのシーツを上にかけただけの、人間ベッドが完成した。
ふんふん、いいね。
彼の全身が見て分かる。
布に凹凸が出来て、まるでミイラでも飼ってるみたいだ。
まぁ、とりあえず私はソファーに座ってビールの続きを飲もう、ベッドの光景をつまみに…。
ベッドを観察していると、凹凸はピクリとも動かず、生きてるのか心配になるほどだった。
顔付近だってほとんど動かないで、呼吸までも集中しながら行っている事がわかる。
私は二本目のビールをすぐに飲み干してしまい、次はどうしようか考えた。
あ、歯磨こう。
洗面所へ行き、マウスウォッシュをしてから、お気に入りの歯磨き粉をつけた歯ブラシを持ち、部屋へ戻ってきた。
普段は洗面所で磨くが、今日はベッドを見ていたかった。
私は仁王立ちになり、まるで自分の寝床とは思えないベッドを見つめ、歯を磨いた。
そしてなんとなく、ベッドのマットレス部分を蹴ってみた。
「……」
ふふ、やるなぁ。
そうこなくちゃ。
静かに戦闘態勢の私は歯を磨き終え、携帯と水を持ってベッドへ向かった。
いよいよ…
誰もいないベッドでくつろぐ、ただそれだけ。
それなのにこの胸の高鳴りはなんだろう。
自分と遊びながら、ベッドにそっと足をかける。
ギシ…
彼の顔があるベッドの上部分の横から上がっていった。
彼を踏まないように、ゆっくり、でも自然に、歩みを進める。
目的地まで到着すると、その場に座り、ヘッドボードに背を預けた。
足は膝を立て開くと、ちょうど私の足の裏と足の裏の直線上に、彼の顔がある。
しばらく、彼に触れずそのまま携帯をいじっていたが、不意に開いていた足を閉じ、彼の可愛いお顔に、足裏を乗っけてやる。
ただ乗っけるだけ。それだけ。
たぶん…これは両目…頬だね。
真ん中の鼻がシーツにくっきりしてるもの。
でも、くっきりしてるのは、それだけじゃない。
少し目を上げると、ベッドの中間辺りに突起物。
もう興奮してるの…この子…。
私は全身の血が急スピードで身体中を巡るような、
今すぐこの子の胸ぐを掴んで首を絞め、色素の薄い肌が染まっていく様子を犯しながら眺めていたい、そんな衝動に駆られた。
頭の中で一つ深呼吸をすると、立てていた膝を伸ばし、ふくらはぎの筋肉をほぐすように、両足をパタパタと揺らした。
人間ベッドが揺れる。
ベッド、人間、一体となって揺れている。
どちらも馴染み、一つとなっている。
この頃から、ベッドに埋まっているこの凹凸は人形かのように思えてきた。
ただ置いてあるモノ…
さすがに形状の異様さから、家具とまでは思えないが、無機質な人型の、そんなようなモノに思えてくるのだ。
人の慣れとは恐ろしいものだ。
うっかり携帯のメールチェックに集中し、時間が経っていた。
存在を忘れかけていた無機質な彼を確認すると、それはやっぱりさっきと同じ、人形だった。
私は座っている事に疲れ、枕に肘をつき、うつ伏せになった。
とてもじゃないけど、くつろげない。
凹凸がこんなにも邪魔なものか。
彼の鼻は私の谷間あたりに位置し、口はお腹で潰された。
苦しいだろう。鼻だって満足に酸素を取り入れることは難しい。
「スーッ…、スーッ…、スーッ…」
さすがに鼻からの呼吸が聞こえてきた。
君の変化に気づいてあげるのは私の役目だけど、
君の変化に気づかないフリをするのも、私の特権。
ベッドという役割に縛られ、苦しくても、重くても、一切動かず、一切喋らず、ベッドになりきろうとする。
黙ったベッドの脳内では、人間のドロドロとした欲望が渦巻いてるくせに…
マゾのルール…任務を遂行したくて、一生懸命なのね。
ほんと、可愛らしい生き物。
このベッド、居心地が悪くて仕方ない。
落ち着く体勢を探して、モゾモゾ。
私の内ももに感じる突起物。
気づいてること、わかってるよね?
恥ずかしい? 気持ちいい?
意図して触ってもらってるわけじゃないけど、
ベッドの一部として感じる重み、触れる感触。
隠れてるつもりなのは、あなただけよ。
うつ伏せがしんどくなり、私は素直にベッドへ横たわった。
彼の凹凸に手足をかけるようにして落ち着くと、急に睡魔に襲われた。
…
あれ…寝てた?
私は携帯を手に取ると眩しい液晶を確認する。
え…10時?
2時間も寝ちゃってたんだ。
あ、そういえば人形はどうなった。
彼を確認しようと目をやると、うっすら声が聞こえてきた。
「…あまねさん…すいません…緊急事態です…」
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