「罵倒 ~裏~」
「どうして連絡を無視したの」
私は目の前にいる愛しい子を問い詰める。
「私の連絡を無視して何をしてたの?」
「今まで必ず返してたわよね?」
「そんなこと許されると思ってるの?」
愛しい子は、椅子に拘束され、俯いたまま。
足や腹、胸には痛めつけられた痕が浮かぶ。
「なんとか言いなさいよ!」
私は持っていた鞭で腹を打つ。
初めはプレイのつもりだった。
けれど、途中からそうでもなくなった。
愛しい子が頑なで、口を開かないのだ。
「この1週間…私からの連絡を無視して、何をしていたの?」
「……家にいました」
喋った。
私は愛しい子の声を聞き、全身の血がめぐり始めた感覚がした。
「ずっと?」
「…はい、仕事以外はずっと家にいました」
「じゃあ何で返事返さなかったのよ」
愛しい子が口をつぐむ。
もう言いなさいよ。
明日身体中痛くて動けないわよ。
「……僕にとってのあまねさんは、憧れの女王様なんです。でも、カウンターに座ってた男の人にマゾにされるって聞いて、僕色んなこと想像して、僕があまねさんに色々言える立場じゃないし…あまねさんは自由なんですけど…あまねさんがもしマゾになったら、もう、僕は、あまねさんの中に少しも存在できないだろうし、僕の憧れたあまねさんもいなくなってしまう…」
「…」
「そう思ったら、あまねさんから話をされるのが怖くて…」
私はただ立ち尽くして、愛しい子が呟く姿を、眺めていた。
それは永遠に続くようで、同時に、瞬きの一瞬で消え失せてしまうようにも見えた。
「…ねぇ、いいわけ?そんなことで私を失っても」
私は力を込めた指先で愛しい子の頬を掴み、視線を合わせる。
水を含んだように腫れた二重、濡れたまつ毛、赤い瞳。
このまま目玉を取り出し食べてしまいたい。
これ以上、私以外の何ものも知れないように。
「自らが手放したら、それで終わりなのよ?わかる?」
握る指先に、力が入ってしまう。
長い爪が、薄い頬にくい込んでいく。
「…わかってます!わかってますけど!…それでも、終わるかもしれないってわかってて…そのまま進めないことも、あります…」
こんなに強い口調を聞いたのは初めてだった。
口から声を絞り出すのと同時に、見る見る瞳が潤んでいく。
あっという間に目いっぱいの涙が溜まると、顔を伏せた拍子にボトボトと数的こぼれ落ちたのが見えた。
「ねぇ、あの日…どんな気持ちで見てたの?」
私は椅子に座ったまま拘束されている愛しい子の上に向かい合って座る。
後ろ手で縛られた彼の上半身を、私だけのものと包み込むように、両腕で抱きしめると、話を聞く準備を整えた。
「…お客さんが…あまねさんと距離が近くて…やだなって、でもその後すぐマゾになるって言って、2人で出ていっちゃって…どうしたらいいかわからなくて…でもその場にもいられないし、すぐに店を出て…見回したけど2人はもう居なくて…その時、一生の…後悔をした気持ちでした…」
愛しい子の髪を撫でながら、私は地獄行きであること確信した。
こんなに美しい人間を身勝手に傷つける生き物が、天国に置いてもらえるわけが無い。
愛しい子は天国で、何の恐れも無く、幸せに暮らしてほしい。
目を無くして、最後の記憶の、私だけを想って。
「それで、居なくなった私達はどうなってると思った?」
「…っ、…想像できませんでした…っ、…っ。僕の知らないあまねさんだから…っ、こんなに思ってても、僕は知らないあまねさんが多いことを知って、それを引き出すことも出来ないまま…、何にもなれ無かったことを、悲しみました…っ、…っっ…」
ダルマを連想していた。
あれは、究極だな。
憧れてるだけの私にはまだ無理。
この子からそこまで取り上げ、私で満たしてあげられるのか。
無駄にまともなんだ、幸せを願ってしまう。
「ねぇ…君は虫けらみたいなものじゃない?小さくてさぁ、役立たずで、困らせてばかりで、それでいてマゾだから、辛くても悲しくても、私を辞められない、私の側にずっとくっついてる…」
「…っ、…っ、…ひっ、…っく、…っ」
「…役立たずの虫けら、余計なこと考えるんじゃないよ。私から離れて生きていけるとでも思う?どうせ死ぬなら虫けららしく私の見える範囲でくたばんな」
「…っ、…っ、…はぁ、い…っ…」
愛しい子に頬擦りをすると、私の頬も濡れた感触がした。
私は一体、いつまで生かし、生かされるのか。
答えは出るまでわからない。
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