見出し画像

「高嶺の花」前編

【私の花】

行きつけのSMバー。

私はせかせかと荷物のチェック。

「あんた、酒飲んじゃだめよ。血出過ぎちゃうよ」

今日の主役、M男に忠告する。

「すいません、緊張しすぎて、さっき一杯飲んじゃいました…」

馬鹿ね。まぁいいけど。

今宵は私達のSMショーが行われる。

私が店員と打ち合わせをしている間、不安そうにちっちゃくなって隅に座っている。

そもそもこの子を、こうやって人目に晒したり、飲み屋に連れてきた事自体初めてだ。

肌が白く、睫毛が長い、唇は血色が良い。
あまり笑わず、常に伏し目がち。
筋肉質で、男らしい美しさも持ち合わせている。

そんな可愛い子を、みんなに自慢するつもりで連れてきた。ショー映えするしね。

本人はと言うと、実は自らが美しい男である自覚がある。

しかし自己肯定感が低い性格で、私が手を差し伸べて初めて、自分を認め、受け入れ、高めていくことが出来る子なのだ。

それならば、大勢の人の前で存分に可愛がり、輝く主役として、羨望の的にしてやろう、というわけだ。

引っ込み思案で人見知りのこの子がステージの上でどう輝くのか見物だ。

「じゃあ、時間になったら音楽かけてね」

打ち合わせも済み、M男の所に戻る。

「緊張してる?」
「はい、すごく」
「大丈夫、みんなが君の美しさに酔いしれるわ」
「いや、そんな…」
「あ、そうそう。ショーが始まったら声出してもいいけど“痛い”、“止めて”は言葉にしちゃだめよ。代わりに甘い悲鳴でみなさんを魅了しなさい」
「…わかりました」
「そんな痛いことしないから、君なら大丈夫よ」

ステージにはビニールシートの上に椅子が一つ。

これから始まるショーは針を使い、流血もある。

既に店に来ている客達は以前から今日のショーを告知されており、そういう類が大好物な人種ばかり集まっている。

女の子2人組がM男に寄ってきて何か話しているが、M男自体は目も合わせず早くどこかに行ってくれと言わんばかりの態度である。

「なんて言われたの?」
「頑張ってくださいって言われました」
「そう、あんたは私を見ていれば終わるわ。じゃあそろそろ時間になるから裏行くよ」

裏に着くと、M男のシャツを脱がした。
下には黒の革パンとブーツを履かせていて、白い肌の上裸にとても映えている。

「こっち向いて」

持ってきていた首輪を取り出した。

正面から手を回し装着している間、首を差し出して、じっと私を見つめている。

「はい、いいよ」

同じ高さにいるつもりが、いつの間にか見上げられている。

潤む瞳、何か言いたげな唇。

片手で頬を包み、親指で柔らかい唇をなぞった。

スタッフに渡していた音源が流れ始めた。

「さぁ始めるよ」

首輪に鎖のリードをつけ、ステージに歩いて行った。

M男も私の歩幅に遅れをとらないようにしているが、緊張や引っ込み思案の性格からか、モタモタと後から出てきた。

大音量で流れる音楽は、私の血の流れを早め、快感を煽ってくれる。

ステージに到着すると、鼻から一度大きく深呼吸をした。

吸い込まれる空気の一つ一つが快楽物質にでもなったのかのように、肺に流れ込む気体は私の内側を快感で震わせた。

スポットライトが眩しく客一人一人の顔は確認できないものの、皆の熱気が伝わってくる。

客側を目線だけで一往復し、とびっきりの笑顔を送る。

すぐに元の表情に戻すと、後ろにいるM男に向き直った。

持っていたリードを、上のフックに引っ掛けると、M男は少し苦しそうにしながら顎を上げ、直立した。

スポットライトに照らされ、身体の隅々まで鮮明に確認できる。

肩甲骨を寄せるように、手首を腰あたりで拘束する。

並んでいる道具から、ケインを取り、顎の先に当てる。

M男が大きく息を吸った。

そのまま、ケインの先を首、鎖骨、脇腹、臍と下ろしていく。

新たな皮膚に触れる度、荒れる息で身体が弾む。

ケインを軽く振り、乳首を打つ。

ビクン、と跳ねる。

ケインの先を乳首に当てる。

乳首からケインを離すと、息を吸い込み肋が浮かぶ。

パシッ

痛みから庇おうと身体を捻る。

M男は顔を上に向けたまま。
首はそこまで高く吊っていない。
顔を見られるのが恥ずかしいのね。

後頭部の髪を掴み、観客に無理やり顔を見せる。

見える?こんなに沢山の人が見てる。

持っていた柄の部分で、敏感になっている乳首をグリグリと押し付ける。

M男は口をギュっと結び、目は固く閉じたまま、全身に力を入れ、刺激を受け入れた。

首輪に繋いでいたリードを外し、首を吊っていたM男を椅子に座らせる。

前傾姿勢になって顔を俯けているM男に、大きなハサミを取り出し、顔の前で切る真似をする。

音を立てて刃を交差させると、たちまち状態を起こし背筋が伸びた。

私はM男の後ろに回り、頭を押さえると、黒いレースのリボンで目隠しのように結びつけた。

私の姿が見えなくなり不安であろうM男のことを思い急遽そうしたが、結果的にゴシックな雰囲気も出て個人的に気に入った

私はリボンで目隠しを施されたM男の後ろに立ち、道具台を引き寄せる。

私は少し前かがみになり、M男の寄せられた肩甲骨の背中の皮膚に一本ずつ注射針を刺していく。

左右均等に、美しく。

慎重に、かつ大胆に作業を進めるも、観客達の私の手元は見られない。

わかるのは、正面を向き座らされている、M男の反応だけ。

私からもM男がどんな表情をしているか見られない。

でも、背中だけでわかる。

ちゃんと反応している。

大音量の音楽がかかっていても、漏れ出る声が、私にはちゃんと聞こえている。

針先が皮膚の上に当たった瞬間、鋭い先端を差し込まれる恐怖が呼吸となって表れている。

左右4本ずつ、計8本を差し終えた。

後ろ手で拘束されている手は小刻みに震えている。

激しかった音楽が静かなパートに突入した瞬間、目隠しをしていたリボンを一気に解いた。

総レースのリボンは、この子の肌を想像し選んだものだった。細かなレースだが白い肌には綺麗に映る。

8本の注射針へ交互に引っ掛けていき、地肌への編み上げが完成した。

音楽が激しく盛り上がる瞬間を待ち、M男に半回転するよう促した。

完成した背中を観客に披露すると、歓声のようなざわめきが起きた。

M男の表情を見ると、特に熱は無く、冷静に一つ一つを受け止めているようだった。

首輪を掴み、再度観客側を向かせる。

私はM男の背後に立ち、上を向かせた。

次はさっきよりも少し太い針。

下唇を掴むと、下から内側に向け一気に差し込んだ。

M男が顔をしかめたと思ったら、目尻から涙が流れ落ちた。

痛いのだ。
太い針が痛覚を刺激し、涙が自然に流れてしまう。

あと、2本よ。頑張りなさい。

次に上唇を掴み、内側から針を差し込む。

最後に下唇。刺す度に涙がポロポロと溢れて止まらない。

しかし、M男は最初の一本以外、顔をしかめることはなかった。

終始目を閉じ、美しい寝顔のように、針を飲み込み、与えられる痛みを受け入れていった。

全て刺し終わった所で、次は縫い上げていく。

刺した注射針の中にテグスを通し、一本ずつ注射針を抜いていく。

18Gで太めなため、針を抜いた瞬間、テグスが通った皮膚から血が流れ落ちる。

下唇から2本、顎をつたい首に首に流れていく。

3本の縫い目で口を拘束した。

頑張っても薄くしか開かない口。

そろそろ背中の針も抜いてあげないと。

座っているM男の前に立ち、見下ろす。

私が唾液を落とそうとしている事がわかったようだ。

縫われている口を開けようとしている。

馬鹿だね、そんなことしなくてもちゃんと飲ませてあげるよ。

客に見えるように角度を立ち直し、M男の頬に手を添える。

もう痛みを感じていないのかと思うような冷静な目つきで私を見つめる。

上から狙いを定めて、何とか薄く開いた口に唾液を落とす。

スポットライトに唾液が照らされ、M男の口に入ったことがわかった瞬間、私の唇も落としてやった。

口の周りに流れる血をひと舐めし、その舌を伸ばしたままそれ以上開けないM男の口に、優しく口付けた。


--------------------

お読みいただきありがとうございます。

宜しければ、Twitterフォローお願いします。
主に新しい物語、SM、日常をぼやいています^^♥

::::::::::୨୧::::::::::୨୧::::::::::୨୧:::::::::::୨୧::::::::::
■Twitter
https://twitter.com/amanenoanone

::::::::::୨୧::::::::::୨୧::::::::::୨୧:::::::::::୨୧::::::::::


サポートいただけたら嬉しいです。 少しでも多くの癖を刺していきたいと思っています。 よろしくお願いします。