【考察】線維筋痛症の原因は『カルシウムホメオスタシスの異常』の可能性

線維筋痛症せんいきんつうしょうの主な鎮痛薬である『プレガバリン(リリカ)』は、神経細胞内への『カルシウムイオン(Ca²⁺)』の流入を阻害し、神経の興奮を抑えることで痛みを鎮めます。《*1》

このプレガバリンの作用から、線維筋痛症の痛みの原因はCa²⁺が何らかの鍵を握っているのではないかと考えました。

そこでCa²⁺と、その元であるカルシウムが、線維筋痛症にどのように関与しているのかを考察していきます。

◼️カルシウムの働き

カルシウムは骨だけでなく、筋肉や臓器などの収縮、神経伝達、免疫機能、ホルモン分泌、細胞の活動や生死など、ありとあらゆる生体機能に関わっているとされています。

そんなカルシウムは骨が99%を占めており、残りの1%は『細胞内1:細胞外(血液中)10,000』のバランスで保たれています。

このたった1%が生命活動にとって重要であるため、体内のカルシウムの濃度は厳密に制御されており、血中のカルシウムが減少するとカルシウムの貯蔵庫である骨から補充し、過剰になれば抑制するための機能が備わっています。

このように体内を常に一定のバランスで保つための働きを『ホメオスタシス』と呼びます。
カルシウムのホメオスタシスに異常が生じれば、様々な病気を引き起こすと考えられています。

◼️線維筋痛症との関与

線維筋痛症は名称に"筋"が付く通り、筋肉、腱、靭帯、関節などの『筋骨格系きんこっかくけい』に痛みが生じます。

私たちが身体を動かせるのは筋骨格系のおかげですが、その筋骨格系の働きに必要になる物質のひとつがCa²⁺です。

筋肉は収縮と弛緩しかんを繰り返すことで動きます。
細胞内の『筋小胞体きんしょうほうたい』と呼ばれる器官からCa²⁺が放出されると筋肉は収縮し、この放出されたCa²⁺が再び筋小胞体に取り込まれることで弛緩します。

しかし、何らかの理由によりCa²⁺の再取り込みが行えなくなることで、筋肉の異常な収縮に繋がると考えられます。

筋肉が収縮した状態が続くと筋肉は硬く凝ってしまい、凝りによって血流が悪くなることで更に筋肉が硬くなり、筋緊張(筋肉が常に強張っている状態)が続くという悪循環に繋がります。

筋緊張が原因で起こる代表的な症例がこむら返り(足のり)で、医学的に『有痛性筋痙攣ゆうつうせいきんけいれん』と呼ばれています。
文字通り、痛みを伴った筋肉の痙攣です。

線維筋痛症も筋緊張が要因になっているとするならば、こむら返りと同じく有痛性筋痙攣が起きているのではないかと考えられます。
全身が攣ってしまうと考えれば、突然の激しい痛みで身動きが取れなくなるのも腑に落ちます。

また、線維筋痛症は筋緊張状態が長期間続くことで、神経細胞の『ミクログリア』を介して痛みが引き起こされることが明らかになっています。《*2》
この研究結果からも筋緊張が線維筋痛症の要因であると考えられ、Ca²⁺の関与を否定できません。

◼️原因は何か?

線維筋痛症は筋緊張が引き起こすと仮定した場合、その原因となるものは何でしょうか。

・カルシウム・パラドックス

血中のカルシウムが不足すると、ホメオスタシスによって骨吸収が促されます。

この時、骨からの供給量を上手く調節出来ないため、カルシウムが過剰に溶け出してしまいます。
この過剰に溶け出したカルシウムが筋肉や血管、脳や細胞などに流入してしまい、筋緊張を引き起こします。

本来であれば細胞内に流入するCa²⁺の量は制御されていますが、体内のカルシウムのバランスが崩れると細胞にCa²⁺が入り込み、細胞内のカルシウム濃度が高くなってしまいます。

このように血中のカルシウムが足りなくなると、逆に細胞内のカルシウムが過剰になる『カルシウム・パラドックス』と呼ばれる状態が起こります。

細胞内は通常、電気的にマイナスの状態で保たれています。
プラスの電子を帯びたCa²⁺が細胞に流入することで、細胞内がマイナスからプラスの状態へと変化する『脱分極だつぶんきょく』が起こります。

脱分極が起こると、『興奮性シナプス後電位(EPSP)』と呼ばれる電気信号が発生します。
このEPSPが脳に届くことによって、神経細胞を興奮させる神経伝達物質が分泌されます。

カルシウム・パラドックス状態では脱分極が亢進されるため、EPSPが止まらなくなり脳や神経が興奮状態になると考えられます。

神経の興奮状態が続くと些細な刺激にも敏感になり、痛みや様々な感覚異常の原因に繋がります。
線維筋痛症は脳の感覚に異常が起きているのではないかと考えられていますが、脱分極に伴う過剰なEPSPによるものなのではないでしょうか。

脱分極はCa²⁺だけに限らずプラスの電子を持つ物質であれば起こり得ますが、線維筋痛症の場合はCa²⁺が要因であると考えるのが妥当だと思われます。

・ミトコンドリア機能不全

細胞内の器官である『ミトコンドリア』は、生命活動のエネルギー源である『アデノシン三リン酸(ATP)』を産生しますが、機能不全になるとATPの産生量が減り、身体に様々な支障をきたします。

ATPは筋肉の収縮・弛緩の際にも欠かせない物質ですが、ATPが不足すると十分に筋肉を弛緩させることが出来なくなり、筋緊張の原因となると考えられます。

更にミトコンドリアには細胞内のカルシウム濃度を調節する役割もあるため、機能不全になるとカルシウムホメオスタシスに影響が出ると考えられます。

また、ミトコンドリアは『アポトーシス』と呼ばれる細胞の死に関わる機能も担っており、この機能によって組織が正常に保たれています。
アポトーシスはミトコンドリアへのCa²⁺の流入によって誘発されます。

ミトコンドリアの機能不全によってアポトーシスが正常に働かない場合、細胞は炎症を伴った壊死『ネクローシス』を起こします。

線維筋痛症はリウマチなどの炎症性疾患の併発も多くみられますが、これらはネクローシスによる炎症反応が原因のひとつではないかと考えることが出来ます。

ミトコンドリアの機能不全と線維筋痛症の関与を示唆する報告や研究なども多く見られます。

・活性酸素

活性酸素は病原体などから身体を守るための免疫機能や、細胞間の情報伝達などの役割があり、適量であれば身体にとって有益な物質です。

しかし、免疫機能の異常や過度なストレスなどによって過剰に産生されると、今度は正常な細胞まで損傷させる『自己免疫疾患』を引き起こしたり、身体を酸化させる『酸化ストレス』の原因となり様々な害を及ぼします。

身体が酸化すると、体内のphを調節するために骨からカルシウムが溶け出し、血中のカルシウム濃度が上がります。
そして過剰になったカルシウムが細胞や筋肉などに溜まってしまいます。

酸化ストレスは先述のミトコンドリアの機能不全の原因にもなります。

・骨代謝の異常

体内で古くなった骨は常に新しく作り変えられており、
骨を壊す(溶かす)働きを『骨吸収こつきゅうしゅう』、
骨を作るための働きを『骨形成こつけいせい』、
これらの一連の働きを『骨代謝こつたいしゃ』と呼びます。

骨代謝は血中のカルシウム濃度を調節する際にも関わっており、普段は一定に保たれていますが、このバランスが崩れて骨吸収が骨形成を上回ると、どんどん骨が壊され血中にCa²⁺が溢れてしまいます。

これが骨粗鬆症こつそしょうしょうの原因であり、更に過剰になったカルシウムが細胞などに溜まることになります。

女性ホルモンの一種である『エストロゲン』には骨吸収を抑制する働きがあります。
閉経後の女性が骨粗鬆症になりやすい原因はエストロゲンの分泌の低下によるものですが、これが線維筋痛症患者の中年女性の割合が高い理由にも関与していると考えられます。

・栄養バランスの乱れ

カルシウムをはじめとしたミネラルやビタミンは、相互関係を築きながら作用しています。

その中でも『マグネシウム』はカルシウムの『ブラザーイオン』と呼ばれ、お互いの働きに欠かせない重要な存在です。
その反面、お互いを抑制し合う『拮抗きっこう作用』も持ち合わせています。

マグネシウムは神経伝達や筋収縮、酵素活性、エネルギー産生など生命活動と密接に関わっており、カルシウムと同様に不足すると骨から溶け出します。

マグネシウムの不足はミトコンドリアの機能不全の原因や、カルシウムの抑制機能の低下、細胞内のCa²⁺流入の増加などを招きます。
カルシウムの過剰は更なるマグネシウム不足を引き起こします。

『リン』もカルシウム・マグネシウムとともに骨の形成に関わっている重要なミネラルです。
カルシウムやマグネシウムと結合しやすい性質のため、増えすぎると血中のカルシウム・マグネシウム濃度が低下して骨吸収が亢進されたり、異所性石灰化などを招きます。

このようにカルシウム、マグネシウム、リンは影響し合っており、バランスが崩れるとホメオスタシスに異常が起きてしまいます。
このバランスを保つためにはそれぞれの適量の摂取とともに、ビタミンも必要になります。

ビタミンにはカルシウムやマグネシウムの吸収や働きを補助する作用があります。
そのためビタミンが不足すると、カルシウムやマグネシウムを摂取していても身体に吸収されず、結果的にカルシウム・マグネシウム不足になったり、上手く作用しなくなります。

ミネラルやビタミンは、摂取不足だけでなくストレスなどによっても不足してしまいます。
線維筋痛症患者を性別比でみると女性の割合が高いですが、女性は月経や出産などによって栄養不足になりやすいためではないかと考えられます。

線維筋痛症は実際に、マグネシウムやビタミンの投与で症状の緩和や、不足を示唆する報告もみられます。


上記で挙げた例は特に筋緊張に与える影響が大きいものですが、この他にもホルモンバランスなど様々な要因が考えられます。

そしてこれらは一見すると別々の原因のように思えますが、カルシウムホメオスタシスに異常が起きるという点で一致しています。

その結果、過剰になったカルシウムが筋緊張や脱分極によるEPSPなど亢進し、線維筋痛症を引き起こしているのではないかと考えられます。

◼️原因不明の謎

線維筋痛症は血液検査やMRI、心電図、エコーなど、どれだけ検査をしても異常がみられないのが特徴ですが、なぜ原因が見つからないのでしょうか。

・ホメオスタシスによる偽陰性の可能性

ホメオスタシスによって血中のカルシウムやマグネシウムなどの濃度が調節されてしまうため、実際は異常があったとしても検査では偽陰性になっている可能性があります。
これをどうやって見抜くかが課題です。

カルシウムの供給源である骨の検査(骨密度)によってある程度の判断が可能になると思われますが、あくまで補助的な判断材料であり完全とはいえないでしょう。

ホメオスタシスの限度を超えた高カルシウム血症や、低カルシウム血症などの場合にはそれに伴う別の症状があるため、そもそも線維筋痛症として診断されていない可能性があります。

・アポトーシスの影響

アポトーシスが起これば細胞自体が消滅してしまうため、細胞内に異常があったとしても証拠が残りません。

アポトーシス自体は正常な現象であり、カルシウムホメオスタシスの異常に関係なく普段から起こるため、検査で見抜くことは極めて困難であると思われます。

ネクローシスの場合は炎症が起こりますが、基本的に線維筋痛症は血液検査で炎症反応が出ないため疑問が残ります。
炎症がある場合はリウマチなどの他の診断になっている可能性が考えられます。

・一般的な検査では見つけられない可能性

細胞を調べるには特殊な検査が必要になるため、仮に異常があったとしても一般的な検査では見つけられない可能性があります。

また、細胞の採取や筋生検などは患者への身体的な負担が大きいため、容易に行えないのも難点です。

そもそも医師の間でも線維筋痛症自体の認知度が低く、検査で異常所見がみられない場合は精神疾患として心療内科や精神科の管轄になるため、原因を突き止めることは困難だと思われます。

これらの要素が相まって、原因不明となっていると考えられます。

◼️治療における課題

理論上、カルシウムホメオスタシスを正常なバランスに戻し、筋緊張状態を改善すれば治るということになります。

しかし、カルシウムホメオスタシスに異常が起きる原因は上記で触れたように実に多様であり、一概に決めることができません。
それぞれが複雑に影響し合っている可能性もあるため、特定は容易ではないと思われます。

更にこれらは個人差があるため、患者によって何からカルシウムホメオスタシスの異常を起こしているのかを突き止め、それぞれに合った治療を行う必要があります。

カルシウムが持つ特殊な性質が、原因の特定や治療の効果的なエビデンスの取得を難しくさせ、有効な治療法を確立できない要因でもあると考えられます。
これらをどうやって打開するかが治療における課題です。

◼️まとめ

カルシウムの観点から線維筋痛症を考察してきました。

その結果、カルシウムホメオスタシスの異常によって、過剰に筋緊張や神経の興奮などが亢進されることで、線維筋痛症を引き起こしている可能性があるという結論に至りました。

そしてそのホメオスタシスに異常を生じさせる要因が多岐に渡ることや、カルシウムの特殊な性質などから、今後の治療に向けての課題が残ることも見えてきました。

残念ながら、これ以上は私ひとりの力では到底解明できそうにありません。
様々なご意見があると思いますが、有識者の皆さまのお力添えを頂けたら幸いに存じます。

◼️おわりに

線維筋痛症は長年原因不明とされ続けており、それを理由に医療機関や公的機関にはまともに取り合って貰えず、耐え難い扱いをされる場面を、いち患者として何度も経験しました。

医師が治せないと言うのなら、自分で何とかするしかない。私はこの病気を治したい。
その一心で、自分なりに辿り着いた答えがカルシウムホメオスタシスの異常の可能性でした。

今後、カルシウムの観点から線維筋痛症の究明と治療法の確立が進むことを強く望むとともに、同じように苦しむ方たちにとって、この記事が少しでも解決のヒントとなることを心から願っています。

◼️参考文献
《*1》©️2009-2022 公益社団法人日本麻酔科学会:麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン 第4版, Ⅺ ペイン, 6.抗薬, プレガバリン ガバペンチン (p.597-599).

《*2》Koji Wakatsuki, Sumiko Kiryu-Seo, Masaya Yasui,Hiroki Yokota, Haruku Kida, Hiroyuki Konishi, Hiroshi Kiyama.
"Repeated cold stress, an animal model for fibromyalgia, elicits proprioceptor-induced chronic pain with microglial activation in mice"
Journal of Neuroinflammation 21, Article number: 25 (2024)

・日本線維筋痛症学会:線維筋痛症診療ガイドライン2017.日本医事新報社,東京,2017.

・藤田 拓男:カルシウムのすべて. 日本人間ドッグ学会誌:Vol.12, No.1, 39-42 (1997).

・藤田 拓男:副甲状腺疾患とカルシウム代謝異常, 日本内科学会雑誌:第88 巻, 7 号, 1181-1183 (1999).

・松本 俊夫:6.カルシウム代謝異常. 日本内科学会雑誌:第80巻, 第3号, 31-35 (1991).

・池田 恭治:カルシウム・骨代謝のトピックス. 医療:第52 巻, 4 号, 226-232 (1998).

・尾形 悦郎:1.カルシウム代謝異常と疾患ー血液カルシウム異常症を中心にー. 日本内科学会雑誌:第81巻, 第3号, 50-54 (1992).

・山本 武範, 山本 安希子, 篠原 康雄,渡辺 朗:ミトコンドリアのカルシウムイオンチャネル(カルシウムユニポーター)のCa²⁺取り込み制御機構. 生物物理:61巻, 3号, 157-161 (2021).

・羽根田 俊, 長谷部 直幸, 菊池 健次郎:4.マグネシウム代謝異常. 日本内科学会雑誌:第88 巻, 7 号, 1201-1205 (1999).

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