北の風10m
震えているのは
ぼくのささやかで深刻な欠落です
今日はとても風が強いから
取り繕いのバリアーも
秒で剥がされてしまうね
飛んで行ってしまう
あの日もこんなふうに
ちいさな僕は塀の蔭で震えていた
家には入れてもらえなかったんだろうね
あまりに寒いと人間は泣けないんだ
でも
何かを失ったのはその日じゃない
欠けたり割れたりというのは
べつに比喩とは限らなくて
文字通りにひびが入ることもある
そこから滲み出る血液とか何やらを
秒で気化させて風が運んでいくんだ
そうやって流されてくる誰かの傷を
風に逆らって呼吸するたびに
ぼくは吸い込んでいるのかもしれない
だから余計に悲しくなって
風のなかでは出ないはずの涙を
上下の瞼で一生懸命握りつぶしてる
この風はいつやむのかなあ
そろそろぼくは割れてしまいそうだ
これは比喩として
あるいは比喩じゃない本当のこととして
2022.01.21
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