小説 『窓』 no,39
グラビトン ホテルの展望レストランは 神戸の街を全て見渡せる様に設計されていました。
妹尾錠治は、その対岸のメリケンパークに隣接する 「ポートタワー」と「ホテル オークラ 神戸」の白いタワービルを見ていた…
その赤と白の重なりを一体として見ている光景を…、初めて見た 妹尾錠治には 新鮮に映っていたからである。
携帯電話の音が鳴る…
それは妹尾錠治の携帯電話の音では無かった。
妹尾錠治が、振り返り佐倉井に視線を向けると…
佐倉井が携帯電話に出ていた…
「なんだ、佐倉井の(携帯)電話だったのか…」妹尾錠治は思った。
暫(しばら)く、展望レストラン からの素晴らし眺めに見良(みい)いっていると…
佐倉井が近づいて来て…
佐倉井:『妹尾さん、(ちょうど) 神戸のパチンコ店「アーチェリー」の店長から連絡が掛かって来てて、神戸に来ているなら…何か 原因不明のシステムエラーが出ているので来て(見て)欲しいと言われているですが…これから、行って来ても良いですか?』
妹尾錠治は思った…、会社を出る時に事務所で神戸に行くと二人の行き先を伝え残して来たので…、たまたま以前に「集計マシーン コンピューター」を販売した顧客の店舗から連絡が事務所に入って 我々が神戸に来ている事を知った、その店の店長が佐倉井の携帯電話の番号を(佐倉井から)聞いていて 直接(ちょくせつ)連絡してきたのだろう…と
「集計マシーン コンピューター」とは、店内数カ所に置かれている「パチンコ玉」と「スロット メダル」の計算機から届く情報を 更に確認計算して(その計算機にフィードバックし)その計算機から出てくる印刷したレシートを お客様が係の店員から受け取り、(商品引き換え)カウンターで 景品を受け取る迄(まで)の過程(プロセス)で、総合的に不正行為が発生してないかを瞬時にチェックし、「売り上げ管理」資料の作成までを行ってくれる コンピューターシステムを搭載した 弊社自慢の「集計マシーンコンピューター」である。
佐倉井:『たぶん、「バク」が発生したのだと思います…』
妹尾:『そうか、直せそうか?』
佐倉井:『たぶん、大丈夫だと思います。』
妹尾:『分かった、お店側も大変だろうから…直ぐに行ってくれ!』
佐倉井:『終わったら、妹尾さんの携帯(電話)に連絡しますねぇ、』
そう、言い残して佐倉井が 展望レストランから出ていくと、すれ違う様に 久保社長が展望レストランの入り口に見えた…
何やら、簡単に佐倉井が事情を久保社長に説明している様子が目に入った 妹尾錠治は…
直ぐに、
久保社長のいる方向に 向かって軽く会釈(えしゃく)する、自分(妹尾錠治)の姿を見せて…この窓際のテーブル席を(久保社長に)アピールしていみせた…
久保社長が妹尾錠治のいるテーブル近くまで来ると…
久保社長:『相変わらず、忙しくされてますねぇ!』
妹尾:『佐倉井さん、本当に人気者(にんきもの)なんで…』
妹尾:『それに、僕と違って過去からの納品先の店舗の事を本当に良く記憶してて…佐倉井さんが いないと 私なんかぁ は、何(なに)の役にも立ちませんよ!』
佐倉井と久保社長との関係を気遣った、妹尾錠治が…これから二人で話しをする事になる、この「シチュエーション」の雰囲気を少しでも和らげておきたいと思い口にした言葉だったが…
それは倉崎聖士が堺署に勾留されてい現状では 事実でもあった。
久保社長:『その事は、佐倉井と一緒に仕事していた、私の弟(久保伸治)も言ってましたょ…』
妹尾:『そうでしたか!』
妹尾:『ところで、早速(さっそく)で申し訳ありませんが…久保伸治さんは 今、どちらにおられるか…ご存知ありませんかぁ…?』
久保社長:『知りません!』
妹尾:『そうですかぁ…、実(じつ)は 先日(せんじつ)伸治さんと一緒に会社を立ち上げられた、そこの代表をしている「赤井義晃(あかいよしあき) 」さん が 私のところに来られまして…、
久保伸治さんと連絡が取れなくて困っているとの事で(私に)相談されまして…』
久保社長:『妹尾さん、もう良いですょ!』
妹尾:『何が…でしょうか!?』
久保社長:『そんなに、かしこまらなくでも…もう、妹尾さんが 今日、(久保製作所に)来られた事の本当の ところは…そうでは無いことは私には分かってますから…』
その久保社長の言葉に 妹尾錠治は照れくさそうにしながらも、少し安堵(あんど)していた…
久保社長:『妹尾さんは、今回の三輪龍二の件では…どこまで関わっておられたのですか…?』
妹尾:『いぇいぇ、関わって いたって事は無いのですが…』
妹尾:『結果的には巻き込まれてしまったって感じで…』
妹尾錠治が、久保社長(久保克也)の質問に少し困った表情をしていると…
久保社長:『倉崎さんが 堺署に勾留されている事は、既に私のところにも堺署の刑事が来ましたから…、妹尾さんが大変な思いをされているのも想像できますょ!』
妹尾:『やはり、そうでしたか…』
妹尾:『でも、ここに居(お)られるって事は…久保製作所で「ブラック•スティック」は…、』
妹尾錠治は、ここまで話した瞬間(しゅんかん)…未だ「ブラック•スティック」の名称(仮の名前)は、久保社長が知らない事に気づく…と、
久保社長:『ブラック•スティック!?』
妹尾:『あ、ごめんなさい!』
妹尾:『いゃ、倉崎聖士が開発した…と思われている「非接触タイプのゴト具」なんですけど…名称が分からなかったので、私の方で、仮称として付けた名前なんですょ、』
久保社長:『あぁ、そうでしたか…』
久保社長:『作ってましたよ!』
妹尾:『えぇ、本当ですか…?』
妹尾錠治は 久保社長の今の発言に驚きは隠せなかったのである。
久保社長:『でも、警察には…三輪龍二から、何も(ゴト具とは)聞かされて無かったし、設計図面も三輪龍二が持ち込んだ図面を元に…少し(会社の方で)修正を加えただけ設計図を (警察が持ってきた設計図の写真を)警察から見せられて…その事の事情を(私が)話したら(説明したら)、工場と事務所の中を半日以上かけて調べて(から)帰って行きましたょ!』
妹尾錠治は 久保社長の淡々(たんたん)と話す様子を見て…
妹尾:『えぇ、その程度で終わったんですか…』
久保社長:『そうでしたょ…』
久保社長:『それよりも、倉崎さんの方が大変でしょう!』
その言葉に反応した妹尾錠治の顔に緊張感が走る…
久保社長:『だって、周りに防犯対策製品だと言って「ゴト具」を作らせた分けだから…』
妹尾:『そりゃ、そうですねぇ…』
妹尾:『…で、久保製作所で 製作された「ブラック•スティック」…、あぁ、すみません…』
久保社長:『「ブラック•スティック」 で 構(かま)わないですょ!』
妹尾:『すみません、それじゃ、「ブラック•スティック」で話しを続けさせて貰(もら)います…』
妹尾:『久保製作所の方で 作られた「ブラック•スティック」は…どこに有るのですか?』
妹尾錠治は、久保社長が淡々と話してくれる流れで…話しの本丸である部分に切り込んだのでした。
久保社長:『倉崎さんに全て納品しましたょ!』
妹尾:『えぇ、それ本当ですか…?』
久保社長:『はい、倉崎に頼まれたと言って来られた方にねぇ…、』
久保社長:『代金も、その時に全額現金で支払って貰ってますよ!』
その久保社長の話しを聞いた妹尾錠治は…驚いて返す言葉が見つからずにいた。
何故なら、既に 三輪龍二は 転落死した後で…更に倉崎聖士も勾留中で堺署にいるからである。
いったい、誰が 倉崎聖士に変わって「ブラック•スティック」を取りに来たんだろ…!?
そんな思いを頭の中で考えている妹尾錠治に…
久保社長:『妹尾さん、私からも聞きたい事があるのですが…、良いですか?』
妹尾:『何でしょう?』
久保社長:『倉崎は 三輪龍二を殺害したのですか…、妹尾さんは、どう思いますか…』
妹尾錠治の表情を見つめる 久保社長(久保克也)は、まるで堺署の山川刑事が (妹尾錠治に)取調室で見せた、その時の視線と同じだった…
…………………つづく…………………
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