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小説 『窓』 no,7

世の中には本当に『偶然』とか『奇跡』があるんだと妹尾錠治は思った。
『夢での出来事は 未来に起きる事だ 』とまでは 言えない事は 充分に分かっていても…(理解していても…)
夢から覚めた直後の現実の世界で起きた事が 彼(妹尾錠治)には『奇跡』であり、嬉しい驚きであったことは隠せなかった。

今、自分(妹尾錠治)の目の前に (昨日) 堺署で見かけた 美しい女性が立っている、それを考えるだけでも大変な動揺をしているのに会話するとなると…(それでも頑張って…)
少し震える声で…
『どうぞ、お入り下さい!』
とベランダの様な自宅のエントランスに招き入れた…

その時の移動する微かな風で彼女の髪が揺れて…
(微かに)ラベンダーの香りが 私の顔を撫(な)ぜたのだった。

彼女は『ありがとうございます』と言って、世間との境界線にある最初の出入口の無機質なドアを閉めて、私(妹尾錠治)の個人的エリアに入って来たのです。

『妹尾さん、昨日、堺署でお会いしましたねぇ』
『あぁ、えぇ…はい。』と、私は咄嗟(とっさ)に 応(こた)えながら…
かなり緊張している自分に 気付きました。
そして、その恥ずかしさを(私が)隠しきれないで困っていると…

それに気が付いた(のか) 彼女の方から…
『私の名前は、紡車(つむ)、紡車紫織(しおり)と言います』

『紡(ぼう)車(しゃ)と書いて…
「つむ」 と読みます。』と言って私の目の前に 彼女の名刺が差し出されたのです…

名刺の文字を見て更に動揺し…

(私は)更に『とどめの一撃「つむ」の響き』で 思わず 息を 本当に呑(の)んでしまいました。

その一瞬の私の様子を見逃さなかった彼女が…
さらに…
『珍しい苗字ですょねぇ…』笑みを浮かべながら…
(私の)驚きの表情の「本当の意味」を取り違えて…
『はい、この苗字の方は 全て私の親戚に成ります』
彼女が そう自分で話しながら…笑ってくれた。

大阪の…いや、関西独特の『自虐ネタ』の様に…
彼女自身が笑った…それは、私の緊張感を 少しでも和(やわ)らげる為である事は 痛いほど 私(妹尾錠治)には 理解 出来ていたのである。

しかし、それでも私は…
『 私は、笑えなかった 』

なぜなら『紡車』と書いて『つむ』と読む、上野の小料理屋を知っていたからである。

ましてや、その店は 私が大阪の堺に来る事になった、そもそもの原因(げんいん)の話し(話題)を 友人(倉崎聖士)とキャバクラの後で、一緒に食事しながら過ごした場所の『名』で あったからだ 。
そして…
私(妹尾錠治)にしてみれば 人生の大きな『ターニングポイント』の場所で…
今の状況や結果に繫がる重要な因果関係が存在する 小料理屋の暖簾(のれん)で見た、頭の中に鮮明に残っている『名』だからである。

その時 見た 暖簾(のれん)には、漢字で『紡車』と書かれた横に、小さく『つむ』と 「かなふり」 が されていたから、なおさら良く覚えていたのである。

『単なる店の名でなかったのかぁ…』
妹尾錠治は心の中だけで静かに呟(つぶや)き、心の動揺と彼女に本当に再会出来た喜びの動揺を少しでも落ち着かせようと必死に緊張感と戦って、戦って、やっとの思いで口から出た言葉が…

『何軒(なんけん)在(あ)るんですか…?』

妹尾錠治の「頭の中の別人間が彼女に質問しちゃった!」って感じの馬鹿な、そして余分な質問を彼(妹尾錠治)の口を使って言わせてしまった。

『そうねぇ、この間(あいだ)、親戚の従兄(いとこ)が結婚して独立したから、七軒(けん)かなぁ…』

なんと、彼女は真面目に応えてくれたのだった。

その御陰(おかげ)で、私(妹尾錠治)は冷静に成れたのである。
なぜなら、今度は 素直に彼女の言葉に対して、自分の驚きの言葉でかえせる言葉が直ぐに見つかったからである。
『たったの七軒(けん)!』
『はい。』
今度は 二人 同時に笑顔で笑えた。
私は嬉しかった、彼女と一緒に笑えた…この瞬間が…

彼女は 私が上野の(おそらく)親戚だろうと思われる一軒を知っていることは未だ知らない!

しょうもない、事だが…今の私(妹尾錠治)には その様な事ぐらいしか、彼女に対する(自分の)優越感を持ち合わせていなかったのである。
でも、それがあったから私は彼女の前で自分の冷静さを取り戻せたのだと感じていた。

私は貰った彼女の名刺を見て、彼女が 大阪府警の刑事である事を悟った。
『刑事さんだったのですねぇ…』

すると彼女は…
『すみませんでした、昨日は急に上司から堺署へ応援に行ってくれと言われまして…、(いろんな事で)忙しくしてまして、ちゃんとした挨拶が出来なくて、本当に申し訳ありませんでした。 』と…

とても丁寧な挨拶を 彼女が 私にしてくれたことで…

『さっぱりと 昨日の二人の刑事(山川と天野)から 受けた様々な屈辱的言動も、その結果の何もかも全て「箱根湯元の『幸住』の湯で洗い流したよう」に スッキリ 致しました 』
『こちらこそ、ありがとうございます』と…
妹尾錠治 が 紡車紫織( つむ しおり)に伝えると…
『箱根湯元の湯…!?』との、例えに 彼女は自然な笑顔になり、そして…
再び、二人とも同時に (少し)大声で 笑い合ったのでした。

『おい~!』
向かいで 鑑識調査中の警察関係者から、こちらに向かって 手を振りながらの声が掛けがされました。

「おそらく、二人の笑った声が 向こうまで 聞こえてしまったのだと…」

また、二人とも同時に悟(さと)り 今度は 二人同時に 気まずい雰囲気で 向こう側の非常階段から 手を振ってくる警察関係者( たぶん 鑑識官 )に 対して 軽くお辞儀して 応えました。

すると、直ぐに…その鑑識官と思われる人物が、紡車紫織に向かって自分(鑑識官)の携帯電話を左手で指差しながら、携帯電話をしっかり握りしめている右手で…(こちらの軽いお辞儀に対して、) 再び 応える様に 今度は 肩から大きく腕を振る様に返して来ました 。

そして 間もなく 紡車紫織( つむ しおり)の携帯電話が鳴り…
彼女が 直ぐに その電話に出ると…
『分かりました 』
と 一言 (電話相手に)伝えると…

(妹尾錠治は) 目の前の「彼女(紡車紫織)の顔」が急に 「刑事の顔」に変わる のを目(ま)の当(あ)たり に したのです 。
………………つづく………………………


前回までの内容は…⤵️

https://note.com/amanda0513hk/n/ncfcec0bf20b3





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