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小説『窓』 no,53

国際通りの「Hotel ポンタナ」からは、西側の海岸線「若狭(わかさ)」は 漁師街で 栄えた エリア である…

沖縄観光で、この若狭の街を訪れる観光客の多くは 沖縄の海の幸を使った料理を求めてやって来る…

そんな街の中心部に赤井義晃が妹尾錠治と待ち合わせした「居酒屋 磯子盛(いそごもり)」がある…

店主の 中 俊輔(なか しゅんすけ)は、奄美大島に先祖のルーツを持つ…
彼( 中 俊輔 )は日焼けした真っ黒の容姿で見るからに海の男って感じがする人物だった…

そして、彼は若狭海岸の北側の入江に小型のクルーザー(船)を持って(置いて)いたのである…

主に 観光客 相手の「海釣り」を目的に維持してきた船(クルーザー)だったが…、
長年使用してきた為に、至る所に修理した痕跡が見えるクルーザー船だった…ので、
年々 沖縄やって来る「海釣り」目当ての観光客達からも…
事前のインターネットでのリサーチ(検索)されている為に 利用客は少なかった…

そんな状況に 目を付けた 久保伸治が 中 俊輔 が店主として遣(や)っている「居酒屋 磯子盛」を訪れて…

毎日、ここ(磯子盛)で 夕飯を食べている内に…
そのクルーザーの残りの修理代を肩代わりする事で 久保伸治のチャーター船として、約半年契約で借り切っていたのでした。

そんな事も有って赤井義晃も久保伸治と 一緒に「居酒屋 磯子盛」で夕飯を食べている事から当然の様に店主の「中 俊輔」とは 仲良く成っていたのである…

そんな久保伸治と赤井義晃が、今日に限って店に来ない事を気にして…
中 俊輔 は 店の前と中を 出たり入ったりしながら…
何か突発的な事でも起きたのでは…無いかと、全く落ち着かない心持ちで (二人の事を)心配していたのだった…

そんな 中 俊輔 が 今までいた客が全て、近くの宿泊施設に帰って行ってしまったのを機会(チャンス)に…
少し早めに店の「磯子盛(いそごもり)」と描(か)かれた朱色の「のれん」を 仕舞(しま)い掛(か)けた時に…
遠く暗闇の中から 自転車に乗って真っ直ぐに向かってくる「赤井義晃」が 中 俊輔 の目に飛び込んで来たのでした!

赤井義晃 :『中さん!』

赤井義晃が 大声で中 俊輔(なか しゅんすけ)に向かって声を上げた 。

中 俊輔 :『オオ!赤井さん!』

次第に 自分(中俊輔)に近づいてくる赤井義晃に向かって…

『伸ちゃんは…!?(=久保伸治は…!?)』
中 俊輔 は 赤井義晃に声を掛けたのだが…

赤井義晃の普段では見かけない自転車での駆け込み風な来店の仕方に…
異常を感じて店の「のれん」を店の中に竿ごと放り込み入り口の鍵を閉め、シャッターを下ろした!

赤井義晃の乗ってきた自転車は既にボロボロ状態で「居酒屋 磯子盛(いそごもり)」の店の前で放り出す様に赤井義晃が乗り捨てる…

赤井義晃は「ハァハァ」と荒い呼吸をしながら…中 俊輔 に向かって『御免!直ぐに船(クルーザー)を出してくれ!』と叫んだ!

中 俊輔 は 赤井義晃の雰囲気で全てを悟ったのである…
それは、既に 久保伸治が「自分に もしもの事が有ったら…」と中 俊輔には 船(クルーザー)をチャーターする際に (ある程度の内容を)正直に話していたのであった…

中 俊輔 :『分かった!これに乗れ!』
そう言うと…赤井義晃に店の脇に停め置かれた 軽トラックを指さしたのです…

赤井義晃は直ぐに、中 俊輔 が指さした「軽トラック」に 飛び乗ろうとすると…
運転席 側のドアしか開かない狭い場所だと 気付く…
しかし、悩む暇(ひま)は ないと判断した赤井義晃は…
その軽トラックの運転席 側のドアを開けて乗り込み…
そして(軽トラックの) エンジンを掛けると…
丁度タイミングを合わせた様に中俊輔が店の勝手口のアルミ製のドアを閉め、(そのドアの)鍵を(急ぎ)掛けると…
赤井義晃が 運転席に座っている…

店の名前(磯子盛)と書かれた「 軽トラック」の助手席 側のドアから( 中 俊輔 が )飛び乗って来たので…

赤井義晃は…
赤井義晃 :『どっち?右、左!?』と、中 俊輔 に 軽トラックの進む方向を確認した…

中 俊輔 :『右だ!右だ!』と右を連呼すると…直ぐに、
中 俊輔 :『(次は…)そこを左!左だ!』
乗り慣れない 軽トラックのハンドルの遊び(=予備幅の事)と慣れない街の細い道に困惑しながら必死で運転している 赤井義晃の横顔に 向かって 中 俊輔 が 一言
中 俊輔:『なかなか 遣(や)るじゃないかぁ!』と言った…

赤井義晃 :『久保が…、久保伸治が 遣られた!(=殺された!)』

中 俊輔 :『やっぱりかぁ!』
中 俊輔 :『…で、其奴(そいつ)らに追われているのか!?』

赤井義晃 :『はい!そういう事!』
赤井義晃 :『だから、早く中さんの船に乗り奄美(大島)に向かって出発しないと…』
それが、久保伸治が 死ぬ前に 赤井義晃に言い残した唯一の(大事な)指示だった!
中俊輔も、その話を久保伸治から直接、聞いていたので…
無言で頭を立てに動かして納得していた…

赤井義晃 :『船(クルーザー)の燃料は 大丈夫ですよねぇ!?』

中 俊輔 :『勿論(もちろん)、水も食料品も十分に乗せて有るぞ!』

赤井義晃 :『助かります!ありがとうございます!』

中 俊輔 :『とにかく、もう少しで右に曲がったら岬の船着き場に出るから…、直ぐに 赤井さんは船(クルーザー)の床底の隠し部屋に入って隠れていてくれ!』

夜の海岸線近くの海には、密漁船を取り締まる地元の沿岸警備艇が見張りを続いているとの事で…
それは…
既に…
以前、中 俊輔より「居酒屋 磯子盛」で 久保伸治と( 一緒に )泡盛を地魚料理と楽しんでいるとき(時)に聞いていた話しであった 。

赤井義晃 :『分かりました!』

中 俊輔 :『しかし、赤井さん!あんた ツイテル ぜぇ!』
中 俊輔 :『今日は 夕方近くまで「波」が荒かったんだぜぇ!』

赤井義晃 :『そうだったんだ!』

中俊輔 :『この海の状態が続けば、奄美(大島)まで 直ぐに 着いちゃうぜぇ!』

赤井義晃 :『それは 助かるが…直ぐとはいかない事ぐらいは分かりますから…、』『ねぇ、中さん!』

中 俊輔 :『だなぁ!』中 俊輔 が 緊張した表情を少しだけ崩して「ニヤリ」とする…

それを横で感じ取った赤井義晃が…
『この船(クルーザー)でしょう!』と言って…船(の側面)に「磯子盛」と 書かれた船の前で 軽トラックを停止させた。

中 俊輔 :『赤井さん!この鞄を持って隠れていてくれ!』
赤井義晃 :『何ですか?これ(この鞄は…)』
中 俊輔 :『伸(しん)ちゃん、「万が一の時は、この鞄を持って(奄美大島に)行ってくれ!」と…
久保伸治から 預かっていた鞄だよ!』
と、説明を受ける赤井義晃の顔が固まる…
(それは、)
赤井義晃は、その見覚えのある鞄に付いた「鍵」に目を注いだ瞬間だった。

そして、赤井義晃が ( 中 俊輔の指示通りに )船底の隠れ部屋に到着すると…
中 俊輔 の 居る方向に向かって『OK!』と叫ぶ…
それを聞き確認した、中 俊輔 が 船(クルーザー)の エンジン を スタートさせた…

…………………つづく………………
小説『窓』no,54

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