小説『窓』 no,44
妹尾錠治は那覇空港にいた。
昨日の紡車店主(紡車紫織の兄)から聞いた久保伸治に関する情報が気になっていたのだ。
しかし、那覇空港に到着してみたものの紡車紫織とも連絡がつかないまま約1時間が過ぎようとしていた。
妹尾錠治は、レンタカー店の前まで行くと見知らぬ地元民の一人から声をかけられた。
その地元民はドジャースのユニホームを着ていた…歳は同年代の頃の日焼けした顔立の中肉中背の男であった。
その男が…いきなり妹尾錠治を見かけると『レンタカー借りるつもりなんけ!(⇔レンタカーを借りるつもりなのか…)』
と妹尾錠治に言ってきた。
妹尾は突然に声を掛けてきた、その男の表情と雰囲気を頭の先から足先のシューズの汚れ具合まで注視していると…
その男の方から…
『怪しい者(もん)でないよ!』と沖縄の訛りとは明らかに異なる喋り口調で、更に妹尾錠治に話しかけてきたのである。
『俺は中畑康夫(なかはた やすお)って者(もん)です…』
妹尾錠治の方から名前を聞こうとしていたところを不意打ちを喰らうように名乗って来た事で…(妹尾錠治は…)その場の緊張感から少し解放された気分に戻る。
中畑康夫:『あんた、妹尾さんちゅう方と違うけ…』
妹尾錠治は…この男の発した北陸訛りで自分の名前を呼んて来たことにダブルで驚いていたのであった。
妹尾錠治:『あぁ、はい!そうです!』
驚きを隠せないままで妹尾錠治は中畑康夫に返事をすると…
中畑康夫:『実は、1時間前から ずうっと あんたの事を見ていたんだ…』
妹尾錠治:『何でですか…、それに何で私の名前をしているんですか…?』
中畑康夫:『紡車耕司(つむ こうじ)知っているやろ…(知っているだろ…)』
ますます 北陸訛りで話し掛けて来る 男に妹尾錠治は…ただ驚くばかりで、首を縦に動かすだけであった。
中畑康夫:『耕司とは調理師専門学校時代の親友だちゃ…安心してくれちゃ!』
中畑康夫:『俺は那覇空港内にあるレストラン街で沖縄料理の店をやってる者(もん)だちゃ!』
中畑康夫:『今日の朝方、(紡車)耕司から連絡があって、羽田からの便で お昼前後に、あんた(妹尾錠治)が 来るかも知れんから…そん時は、お前(中畑康夫)声掛けて 沖縄料理でも食わせて彼(妹尾錠治)の話を聞いてやってくれ!って頼まれたんだぁ…』
中畑康夫:『そんでも、どんな感じなのか(どの様な風貌なのか)分からないんで…耕司に無理だって言ったら…』
中畑康夫:『(紡車)耕司が「大丈夫、お前なら見たら分かるって!」て言うもんだから…ずうっと貴方(あんた)の事を店の表に出て見てたんだ!』
中畑康夫:『1時間近くも空港内に座って…考え事をしている人間なんて、そう居るもんで無いんで…決心して声を掛けようとしたら、ちょっと目を逸らした瞬間に…今まで座っていた椅子(の場所)から居なくなったんで…慌てて探してたら、このレンタカー屋に向かって歩いてるのが見えて…追い掛けて来たって分けだちゃ』
妹尾錠治:『そうだったんですかぁ…』
妹尾錠治:『でも、昨日 紡車(耕司)さんと一緒に お店で居た時には…沖縄に行くなんて一言(ひとこと)も話しして無いし…そもそも、未だ沖縄に行こうとも考えていなかったから…本当に 驚(びっくり)しましたよ!』
中畑康夫:『未だ、昼飯(ひるめし)食って無いやろ、レンタカーの件は…ちょっと待って、先ずは(私が)作る沖縄料理を食いに来てくれちゃ…今からなら、店の中も 丁度 暇に なってくる頃だっちゃ…』
妹尾錠治は 中畑康夫の強引な誘いの意味も含めて、腑に落ちたこともあり彼の誘導に身を任せる様に 中畑康夫の店だと言う「朱里(しゅり)」と書かれている赤い布地に白抜き文字の「のれん」を くぐり店に入った…、
そして、中畑康夫は無事に妹尾錠治を自分の店に呼び入れたことを 店の電話で 紡車耕司に報告していた…
中畑康夫:『耕司、さっき(先ほど)妹尾さん見つけて…今、飯食べさせているから…』
紡車耕司:『そっか、ありがとう…、この後の彼(妹尾錠治)の宿泊先や予定が分かったら…又、連絡してくれ!じゃぁ引き続き頼みます…』
なんだか…中畑康夫と紡車耕司との電話の遣り取りを聴いていた 調理をしている雇われの中年女性から…『どうかしたか?(ちゃーしみぇーびたが?)』って感じの沖縄の言葉で掛けられた、中畑康夫が彼女に言った…
『あの客、大切な客だから…どんどん美味いもん作って 出来るだけ店に留めて おかないと…』と呟(つぶや)く様に 少し大きめの声で彼女に言った。
一方の妹尾錠治は次から次へと運ばれて来る沖縄料理を堪能しながら…笑みを浮かべていた。
その笑みは沖縄料理の美味しさによるところでもあったが、その殆どの意味は 紡車紫織が沖縄に居ることの確信からだった。
紡車耕司(紡車紫織の兄で 東京 上野駅近くで日本料理の食堂「紡車=つむ」の店主)が…ここまでの動き(段取り)をする分けが無い!と妹尾錠治は考えていたからである。
そもそも、妹尾(錠治)自身が 今、沖縄に居る理由も…紡車紫織からの情報 ( 久保伸治が赤井義晃と沖縄にいるとの情報 ) を 妹尾錠治に 伝えたのは、彼女(紡車紫織)の兄である紡車店主からで…、その背景には 妹尾錠治を沖縄まで来させる為の 紡車紫織の計画である事を(妹尾錠治は)悟ったからであったからなのだ…、
妹尾錠治(の心の声):「必ず、紡車紫織は現れる!」
そう思って目の前の沖縄料理の一つ一つに箸を伸ばしている内に、思わず「笑み」が 妹尾錠治の高揚感を押さえる事が出来ないで溢れ出したのであった。
そして、妹尾錠治の想いは…
この後、どの様なタイミングで紡車紫織が自分の前に現れるのか…を待っていたのであったのだ。
当然、紡車紫織の方も妹尾錠治の性格を知り尽くしているから…
ここまで用意周到(よういしゅうとう)の彼女(紡車紫織)の思惑(真相)は何処に有るのか…
(妹尾錠治が)考察(こうさつ)しているのは 只(ただ)その一点だと言っても過言では無かった 。
中畑康夫:『妹尾さん、どうです沖縄料理は…』
妹尾錠治:『いゃ、本当に美味しいですねぇ!』
妹尾錠治:『僕は今回で沖縄に来るのは二度目なんですが…、その時は以前の仕事で立ち寄った様な感じでして、沖縄料理と言ったら昼間のランチに食(しょく)した「ソーキそば」と…その日の仕事が遅くなって、宿泊ホテルの近くで未だ開いてたスナックに入って酒の当てに出された「豆腐よう」ぐらいの印象しか無かったんで本当に嬉しい限りですよ!』
中畑康夫:『うちの「ソーキそば」も人気なんで食べて下さいよ!』
既に、充分なだけの量の沖縄料理を食していた妹尾錠治には、「ソーキそば」のスープだけで良かったのだが…
未だ、紡車紫織との再会する場所の予想がつかなかったので…
妹尾錠治:『本当ですか…?』
…と妹尾錠治が言うと、直ぐに中畑康夫が妹尾錠治の顔色を見る様に覗き込んで来た…
妹尾錠治:『いゃ、そうじゃ無くて…(その様な意味じゃぁ無くて…』
妹尾錠治:『もう充分(な量を)食べているので…お腹に入るかなぁ…って意味ですよ!』
中畑康夫:『だったら、麺の量を少な目にしますから スープだけでも飲んでみて下さいよ!』
その言葉は 妹尾錠治には「渡りに舟」だった…、そして 中畑康夫にしてみれば 紡車耕司からの頼まれた 情報を聞き出せて無かった事 と紡車耕司からの 次の指示が 有るような気配を感じていたので、妹尾錠治が スープだけでも 更に飲んでくれたらと…( 時間稼ぎには 都合が良かったのである)。
妹尾錠治:『じゃぁ、そうして下さい!そもそも僕は沖縄の「ソーキそば」が大好きなんで…』
中畑康夫:『はい、分かりました!』
と一言を妹尾錠治に言うと裏方にいる従業員に向かって…
『そば(ソーキそば)!ひとつ(追加の意味)!』と少し大きめの声で言い放った。
すると、それまで忙しく店内を動き回っていた 中畑店主が、妹尾錠治のテーブルの斜め向かいのテーブル席の最も妹尾錠治に近い椅子に座って来たのだった。
中畑康夫(店主):『ところで、今夜の宿は決まってるんですか…?』
中畑が妹尾の顔を覗き込む様に聞いてきた…
妹尾錠治:『いゃ、未だ決めてませんけど…おそらく国際通りの何処かのホテルに泊まるつもりでおります。』
と妹尾錠治が中畑に向かって応えると…
中畑康夫:『そぉ なんですか…』と意味深々な溜め息が 漏れ出ている様な声で 返事を 妹尾錠治に 返して来たのだった…
その様な遣り取りの会話を 妹尾錠治と中畑康夫が(会話を)していると…
お店の従業員の女性:『はい、「ソーキそば」!(出来ましたよ!)』
お店の従業員の女性:『康夫ちゃん、電話さぁ!(電話が掛かって来てるよ)』
中畑康夫:『妹尾さん、よんなーよんなー(ゆっくりしてねぇ)』
中畑康夫:『ミーちゃん、ゆたしく!(よろしくねぇ!)』
と言うと…、
中畑康夫が 妹尾錠治の前から離れる…
入れ替わる様に店の従業員の女性が妹尾錠治の斜め向かいのテーブル席の椅子(今まで中畑康夫が座っていたい場所)に座った。
店の従業員の女性の名前は良く分からないが…
「ミーちゃん」と 中畑康夫(店主)が 読んでいる事は 理解出来た 妹尾錠治は…
その名前を尋(たず)ねる感じ(確認する感じ)で…
妹尾錠治:『…ミーちゃん?』
妹尾錠治が 店の従業員の女性に 対して、小さめの声で言うと…
店の従業員の女性:『ハイタイ、 わんぬなーやや「満子(みつこ)」やいびん。「ミー」と呼んでくぃみそーれ!!』
妹尾錠治:『……………………?』
あまりにも早口言葉の様で分からなかった妹尾錠治は…
妹尾錠治は 思わず笑顔で口を開い顔を その店の従業員の女性に見せたのだった。
店の従業員の女性:『ごめん、ごめん…満子です、ミーちゃん と 呼んで…』
妹尾錠治:『じゃぁ、ミーちゃん が…この料理を全部 作ってくれたの…?』
満子(ミーちゃん):『やさ、やさ』
多分、「そう、そう」って言い返しているんだろ…と感じ取った妹尾錠治が…
妹尾錠治:『凄いねぇ、全部 美味しくて…嬉しくて…、沖縄料理が大好きに成りましたよ!』
満子:『あ~よかった!』
妹尾錠治は 満子さんと話していると何だか楽しく成って来て…まるで観光旅行を満喫している旅行者の一人に…すっかり成っていた 。
中畑康夫は…
「ソーキそば」を 美味しそうに食べながら、それ以前に 出した沖縄料理の説明を一つ一つ 満子(ミーちゃん)が 妹尾錠治に 話(説明)している様子を見ながら、電話の向こう側にいる人物と話している…
その様子を…
(中畑康夫の)電話の話し相手が 紡車耕司(紡車紫織の兄)で あることは…
妹尾錠治には 既に分かっていた。
妹尾錠治は 満子(ミーちゃん)との会話を楽しみながら…
既に 沖縄に来ている 赤井義晃や久保伸治、そして 紡車紫織が 紡車耕司(紡車紫織の兄)と、その友人である中畑康夫を使って…
この後、妹尾錠治に対して、どの様に(彼らが)仕掛けて来る(近づいて来るのか?来ないのか?)のか…を(妹尾錠治は)考えていた(様子を見計らっていた)のでした。
妹尾錠治が 大阪の堺に来てからの一連の出来事が…
ここ沖縄に 妹尾錠治が来た事での 紡車紫織の狙いと…
そこに 赤井義晃 や 久保伸治が この地で 何を話し合って 何を決断したのか…、
それとも 未だ 迷っているのか…、
妹尾錠治には…
この二つの内容を 明確に見極めたい気持ちで 日々 過ごしていた事でもあり …
そろそろ、妹尾錠治が考えている全ての真相(推測部分を含む)を(この三人に会って)打ち明けてみる時(タイミング)が 来たと 感じていたのでした。
……………次回より、最終章(no,45)………………
「ブラック•ステック」を巡る全ての真相が分かった時、妹尾錠治は何を想い…何を考えて…どう 行動すべきか を判断し、そして決断を迫られる事に…
どう、立ち向かうのか…それとも…
全ての真相 と「二人(妹尾錠治と紡車紫織)の未来」が 分かる最終章(no45)を是非とも御覧下さい!
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