小説 『窓』 no,10
紡車紫織(つむしおり)が妹尾錠治の部屋をでて行って、一時間が過ぎたころ…
酔いが 冷(さ)め はじめた 妹尾錠治は ベットルーム からリビングルームに移り、ソファーに座って煙草(タバコ)に火をつけた 。
『(私は…)あの夜(三輪龍二が転落死した夜)、女性を追いかけ 駆け上る男性の影を確かに見ている。』
それは外からの光が そのビルの避難階段を 柔らかなオレンジ色に 染めていたからである。
おそらく、私(妹尾錠治)が 住むマンションのエントランスの照明と、各階の通路に付いている照明の光の為だと気付いていた 。
しかし、その後…暫(しばら)くして、男女(二人)は 何も無かったかの様に 静かに避難階段をゆっくりと下りて来て ビルの一階まで来ると…
「そのまま(二人の)姿も気配も感じられなくなった…」事を思い返していた 。
(妹尾錠治は)紡車紫織が帰る間際に言った『倉崎聖士は 本当に東京に出張中だったのかしら…』と、独り言の様に 呟いた事を 気にしていたのである。
そして…
また、最後に…倉崎聖士から連絡が入り、(その時に)彼が(私に)言った『もしかしたら、亡くなった人物(三輪龍二)が(倉崎聖士の)知り合いかもしれない…』
それで…
どうしても『調べたい事が出来たから…会社を頼む!』と言い残して…、
あれから 未だ一度も、お互いに連絡を取り合えていないこと…
妹尾錠治は「この二人の(私に)言い残して去っていた様子に、何らかの共通点を感じていた 」のだ 。
そして、「それが何かを知らなければならない…」と 思った 。
とにかく、「明日、倉崎聖士に連絡を取ってから…」だと思い…
『今、いろいろ考えて…、想像だけを繰り返しても、しょうがない!』
(妹尾錠治は)自分の気持ちを いったん落ち着かせようと…
煙草の火を消して、ソファーから腰を上げると(シャワー浴びる為に)浴室へ向かった 。
夜が開けて…
私(妹尾錠治)は、いつもの遅めの朝食を準備していた時 …
携帯電話の音が鳴る!
『もしもし』
(佐倉井からだった…)
『妹尾さん、申し訳ないが…急に和歌山から妹が来ていて…家族の事で話合わなければならない事が出来たので…
それで、本当に申し訳ないが(今日は)会社に行けそうに ないんです!』
何か たいへん急いでいる様な雰囲気で…
一方的に話す佐倉井の様子を感じて…
『分かった、でも連絡は必ず取れる様に頼むよ!』
自分も今日は…ある程度の基本的な作業をしたら、早めに会社を出ようと考えていたので…
「まぁ、良いだろ」と思った 。
『分かりました!』
佐倉井が 急ぎ そう応えると 同時に電話を切った…
妹尾錠治は、今の電話で…、佐倉井の状況も 気になる思いはあったが…
妹尾錠治は、とにかく倉崎聖士と連絡を取る件で…
今の彼がどんな状況下にあって、ここ数日間、お互いに連絡を取っていなかった、最近の状況を…どのように 話を切り出すかを考えていた。
そして…
テレビのスイッチを入れる 。
(ニュース番組の途中だった…)
東京では…真夏の様な暑さで、各 関東エリアの最高温度予想を放送していた…
大阪でも熱中症に注意のニュースは流れていたが…
私(妹尾錠治)の住むマンションの室内は暑くも無く、寒くも無く…ちょうど快適な室内温度だった ので…ニュースの内容は、聞き流す程度でいた…
(私は)簡単に遅めの朝食を終えて、ソファーに腰掛けながら…
目では、引き続き ニュース番組を見ていながら、(妹尾錠治の方から電話した時の…)倉崎聖士との会話の切り出し方を考えていた…。
「彼女(紡車紫織)の名刺には大阪府警本部の刑事と書かれていた 」
先ずは(倉崎聖士に)彼女の話をする事から、話し始めようと妹尾錠治は考えた…
「そうすれば…、一番(妹尾錠治にとって)聞きたい事を聞き残す様な事になるまい…」と考えたからだ。
そして…
妹尾錠治は 彼(倉崎聖士)の携帯電話の番号を(自分の携帯電話に)入力しはじめる…
倉崎聖士が電話に出た…
『スマン!ジョージ!』
『後で掛け直す!』
全く、想定外の倉崎聖士の対応に困惑しながら…
私(妹尾錠治)はソファーにもたれながら、天井を見上げた 。
そして、妹尾錠治が心の中で呟いた…
「やっぱり、何かが…おかしい!」
でも…
その何かが、何なのか…分からない(妹尾錠治は)…
「とにかく、倉崎聖士からの連絡を待つ事を選択する以外に方法は無い…」と悟った瞬間でもあった。
そして、私(妹尾錠治)は 会社に向かう為に スーツに着替え マンションを出たのです 。
やはり外に出ると、大阪の気温も高く 如何(いか)に自分のマンションの部屋の中が涼しく快適な空間であったかを身に染みてわかったのである 。
会社までの通勤時間(わずか)5~6分の徒歩で スーツの上着を脇に抱える事態になるとは予想もしていなかった…
(私は会社に到着すると…)
『おはようございます!』
職場の社員に挨拶して、(私は)直ぐに社長室のとなりの研究室に入った 。
それは (むしろ)私にとって普通の事だった…
「そもそも、新商品の開発事業がメインの仕事だと倉崎聖士から聞かされて…この会社に移ることにしたのだからだ 。」
それが、ここ約三ヶ月間は 顧客先への挨拶回りと社長代理としての業務ばかりで…
妹尾錠治は 会社に来てみたが、いつもの様に 事務所の自分の席に座る気になれなかったのである 。
「社長(倉崎聖士)から連絡が入るまで 私の頭の中は混沌としたままで…、普通どおりに(自分から)各セクションの社員達の話を聞いて回る様な気分になれなかったからである。
暫(しばら)くして、小林紀子(こばやしのりこ)が 私の居る研究室のドアをノックして入って来た 。
『妹尾さん、どこか体調でも悪いんですか…』
と 尋ねてきた 。
『いや、別に…そんな事は無いんだが…』
『ちょっと、新しい商品開発のアイディアが 頭に浮かんだもんでねぇ…』
と 妹尾錠治は応えた。
「今、私が混沌とした気持ちでいることを誰にも話せない内容ばかりだ… 」と 条件反射的に 小林紀子(事務所の中では、最も年配のベテラン事務員)に そう応えたのだ…
『なぁんだ、そうだったんですねぇ…』
急に明るい声に変わった 小林紀子が…
『みんな、いつもと違う妹尾さんを見て…心配していたんですょ…』
と 言って微笑しながら私の居る研究室から出て行った 。
妹尾錠治は 少し「ほっと」する自分と…この後の倉崎聖士からの連絡が来てからの不安感で…
「やっぱり、もう少し考えてから大阪に戻って来た方が 良かったかなぁ…」
と…
小料理屋「紡車(つむ)」で、倉崎聖士と 二人だけで話し合った時の事を思い起こしていたのである 。
…………………つづく……………………
https://note.com/amanda0513hk/n/n546d9d1fd774
前回までの内容⤵️
『窓』no,1からは…⤵️
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