マイ・スイート・ゾンビ【うたすと2参加作品】

『なるほど、あなたの話を私はよくわかりました』
『それは非常にいいことですね。とてもだいぶ参考になりました』

あなたはウチの彼ピ。
どこの誰かもわからない、出身国すらわからない、インプレゾンビ。
今日もSNSをチェックすれば、怪しい日本語で薄い賛同コメントをバラまいているあなたのリプが、タイムラインに飛び込んでくる。

バズった投稿があれば、すぐさま嗅ぎ付けて飛んでいく。トレンドに上がったキーワードは、片っ端から当たっていく。……ウチのことは、まるで放っぽらかしで。

……ウチら、付き合ってるんだよね?
『もちろん。私はあなたを大切です』
あなたが、もしくは、大切に思っています、かな。えっと、でも、あなた、彼ピらしいこと何もしてないけど……?
『私は彼のピピピッとして、インターネットを通じて活躍し、成功することを目指しています。それは私に面白いです。また、それはあなたの役に立ちます』

彼のピピピッって何だよ。
今ひとつ要領を得ないが、どうも彼は、ウチのためにお金を稼いでくれているつもりらしい。
確かに、インプレゾンビの彼が収入を得るためには、まさに本物のゾンビのごとくひたすら万バズ投稿に群がり、インプレッションを高め続けるしかないのだろう。そのこと自体は、容易に想像はできる。
でも。
大多数の人間の怨嗟の声を一身に浴びて、それも擁護できない方法で、……そして、何より恋人の自分を放置してまで。そうまでしてウチのためにお金を稼いでほしいだなんて、とても思えない。

ウチは別に、プレゼントを貢いでほしいわけじゃない。
A5ランクの高級牛肉を奢ってほしいわけでもない。
うやうやしく扱ってほしいわけじゃなくって、ただ、……出逢ったときのように、優しい言葉をかけてほしいだけなのにな。

――病気に罹り身体を悪くして、人並みの生活からドロップアウトした。それ以来、ずっと、人間社会に溶け込めずにいた。
どうせ誰も、堕落した自分のことなど肯定してくれない。そう嘆き、自嘲し、腐っていた。
『誰からも受け入れられないウチなんか、ただ死んでいるみたいなもんだよね……』
SNSでそう呟きながら、でも本当は、そんなことはないよと誰かに否定してほしかったのかもしれない。

そして、そこに、あなたからのリプがついた。
『とても興味深いですね。私はあなたと似ていることを期待します』
だいぶ拙かったけど、そのふいに飛び込んできた言葉に、ウチの脳は危うくストップしかけた。
ウチを否定せず受け入れてくれた、似た者同士だと(たぶん)言ってくれた。たった一言で、ウチの心はまるで息を吹き返したようになり、鼓動は早鐘みたいに高鳴るかのように感じた。
『……ウチのこと、肯定してくれるの?』
『はい。わたしはあなたのそれが好きです』
『……じゃあ、話し相手になってくれる?』
『はい、それは私に幸福を得ます』

……あなたはウチの彼ピ。
どこの誰かもわからない、出身国すらわからない、インプレゾンビ。

もしかしたら――あなたはただ、ウチ以上に不器用なだけで。
ブロックされても、通報されても、インプレ稼ぎを続けているのは。
嫌われても、否定されても、愚直に自分のできることをやり続けるしかないーーそんな姿勢を、ウチに示そうとしてくれているのかもしれない。
再び人間社会に立ち向かっていくための勇気を、ウチに呼び覚まそうとしてくれているのかもしれない。
『人は集団の中で生きるべきです』
……なんて、ね。

しゃあない。
ひとつ、頑張ってみるか。

インプレゾンビには、負けてられないもんな。
ーー本物のゾンビとしては。

さあ、A5のメンズをつかまえて、頭から貪りに行くとしようか。

(了)


こちらの楽曲「ウチの彼ピはインプレゾンビ」から着想を得て書きました。

「うたすと2」という企画への参加です!


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