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お前はミートソースを作って食え #AKBDC2023

 よく来たな。私は雨宮だ。
 私は百合を書いているがまだお前に見せる気はない。今書いているテキストをnoteに載せたが最後、このアカウントは十秒後に月より遠くまで爆破されることになっている。
 
 代わりに、今回は真の男に相応しいミートソースのレシピを伝えよう。作って食え。
 もちろんこれを読んで、お前や私のアカウントが空高く吹き飛ばされる心配はしなくていい。



・真の男に必要なミートソースのリスト


 真の男は多くを必要としない。
 つまり、タマネギと挽肉、そしてケチャップ。調味料に塩コショウと食用油。
 これで充分だ。
 
 まず冷蔵庫を開けろ。一体どこの世界の台所に、タマネギのない台所があるだろうか?
 万一無いなら、挽肉と一緒に買いに行け。
 
 挽肉はなんでもいい。拘りや信教の制約がなければ、廉価な牛豚合挽きで構わない。もちろんどの家畜でも、挽肉ならば問題なく作れるはずだ。
 
 恐らくお前は買い物に行き、精肉売り場でタマネギと挽肉の割合に悩むだろう。比率はタマネギ1個につき挽肉100グラムが、ほどほどの量だ。
 細かい部分は勝手にしろ。真の男が悩むような問題ではない。

 だがもし買い物に来たのなら、ケチャップは買っておけ。
 ハインツでもカゴメでも地場のものでもいいが、ケチャップのないミートソースはミートソースの名に値しない。
 そして、くれぐれもレーションの端についているようなしょぼくれた袋で足りると思ってはいけない。お前がよほどの不精で、ケンタッキーチキンのクリスピーを毎日三食欠かさないチキン野郎なら例外だが、だいたい、そんな奴はケチャップを大瓶で抱え込んでいるはずだ。

 食用油はオリーブオイルが有れば素晴らしいが、別にサラダ油とかバターとかでもいい。ゴマ油でもどうにかなるだろう。
 しかしグリースやらエンジンオイルやらコンデンサの絶縁油やらPCBやら、とにかく機械油はダメだ。お前やお隣さんが食っても大丈夫な油を使え。
 
 もし、お前が運良く、冷蔵庫の隅に転がっていたニンジンやキノコを見つけ出したとき。
 あるいは女神のように心優しい隣人がお前のメキシコの荒野じみた食生活に気を掛けて、鮮やかな薄緑色のセロリを分け与えてくれたときには、それらをミートソースの一味にしても良いが、別に無くても構いはしない。


・全てを切り刻め

 調理器具など最小限でいい。包丁とまな板、フライパンとヘラくらいはあるだろう。
 しかし、お前には用意すべき得物がもうひとつだけある。スライサーだ。
 
 スライサーは食材を薄切りにしたり微塵切りにしたりする。
 ミートソースは全ての食材を2ミリ四方に切り刻む必要があるが、スライサーだと手早く済む。
 
 お前は利器の鋭さ、人類が創り上げた最も有用で最も危険な道具のひとつ、よく研ぎ澄まされたエッジを直視しろ。
 もしお前が何の覆いもない、剥き出しのエッジに対してよそ見をし、音楽を聴きながら扱う、そんな舐めた態度を取るようなら、お前の指はすぐさま食材ごと2ミリ四方に裁断されて挽肉の仲間入りだ。そしてお前の指は少なくとも十四日の間、包帯の下から出て来られなくなる。

 お前はそんな光景を想像して、あるいは目の前で自らの指をミンチにしたアホの断末魔を耳にして、恐怖を感じるだろう。食材を掴む指に力が入らなくなるかもしれない。
 恐怖は当然のものだ。しかし恐怖に支配されるな。己の恐怖を利用せよ。
 そうすることで、お前はスライサーを扱うに値する、真の男になる。

 最後に。お前が上手く扱えば、スライサーに掛けたタマネギやニンジンは少し余ることになるが、それは包丁かナイフでよく刻んでおけ。何も捨ててしまうことはない。


・切り刻んだ全てに火を着けろ

 さて、タマネギを(もし入れるのであれば、その他の野菜も)すべて微塵切りにし、挽肉とケチャップ、調味料を準備すれば、ミートソースを作る準備は揃ったわけだ。
 もし挽肉が冷凍されているなら、解凍しておいた方が扱いやすい。どうせ加熱するが、解凍した方がよくばらける。

 フライパンを中火に掛け、少し多めに油を敷け。フライパンが温まれば、タマネギを全部入れる。ニンジンとかセロリとかキノコも入れてしまえ。
 暇ならタマネギが茶色くなるまで炒めてもいいが、そこまでしなくてもいい。タイムイズマネーだ。焦げ付いたり、水気が多すぎてスープのようにならなければ上等だ。
 
 野菜に火が通ったら、挽肉を入れて塩コショウを振っておく。挽肉が茶色くなり、火が通ったら、具材を寄せてフライパンの一部を開けておけ。

・LastFire

 さて、お前が上手くやれば、火の通った野菜と肉の混合物がフライパンに入っているはずだ。美味そうに見えるかもしれないが、これはまだミートソースではない。
 これをミートソースにするには、ひとつの紐帯、ひとつの理想が必要になる。
 
 それは何か? ケチャップだ。

 徹底的に、情け容赦なくブチ込め。ちょっとやそっとの量ではない。
 ビビるぐらい入れろ。恐らく新品のケチャップは中身が2/3に減る。
 
 心配なら二回か三回に分け、混ぜながら入れろ。ミートソースにムラがあるようでは不足だ。
 全てが燃え盛る火のように、ケチャップで赤く染まれば完成だ。汁気が多いと思うときは、ここで火を掛けて飛ばしておけ。

 あとは適当にスパゲッティかパスタかマカロニを茹で、それにこのミートソースを掛けたり和えたりしてから、粉チーズを振って食え。
 ラザニアの中身にもなるし、パンに挟んでも、そのまま食っても美味い。




・なんだこれは

 仮にもパルプスリンガーの端くれならば、こういう機会には銃弾をブチ込んで祝うのが礼儀というものだろう。
 ハッピーバースディアクズメ。鰻に飽きたなら作って食え。

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