お伽話 【魔王と魔女④】
魔王の強大な魔術にかかってしまい
今度こそ心が魔王に奪われた魔女は
眠れない夜が続き、体調もおかしくなりました。
頭の中は魔王のことでいっぱいでした。
魔王に出会ってからは1年が経っていました。
魔女は、1年間も魔王の魔術にかかっていたのでした。
(かかるたびにそれを解除していたのですが)
苦しみながら、魔女は深く考えました。
なぜこのような苦しい状態が続いてる?
そもそも、尊敬する魔王の魔術を学び
もっと軽々と地球を生きたいと思っていた。
なのに、現実は、魔王に依存的になるばかり。
魔王と関わると、欠乏感ばかり感じてしまう。
自分は今のままで充分だと知り、満ちた感覚で
生きたかったのに、その感覚が全く奪われている。
もっと不可解なことがある。
魔王は私になんとなくのアピールはするけど
私にはっきりと気持ちは伝えない。
私に恋心があるようなそぶりは見せるけど
決定的なことばは言わない。
なぜなの???
深く深く自己の中に入った時
急に魔女にあることばが浮かびました。
「魔王は、単に恋愛恐怖症なのだ。」
このことばがはっきりと魔女の脳裏に届きました。
魔王は恋愛恐怖症。
だから、絶対に失敗しない状態になるまで
相手に手を出さない。
絶対に失敗しない状態とは、相手に自立心がなくなり、
完全に魔王に委ねていいという状態になること。
つまり、骨抜きになること。
今までの相手には魔術で簡単にそれができた。
魔王は、魔女がこの状態になるのを待っている。
このことばが脳裏に浮かんだ途端、魔女は泣き出しました。
魔女は、自分が悪いと思っていたのです。
魔王のアピールに応えられない自分に何か欠陥があると
思い込まされていたのです。
今、自分が悪いのではなかったと気がつき、
ついに魔女は、今まで漠然と思っていたけど
絶対に認めたくなかった唯一のことを認めました。
「あの魔王、ただの臆病者だったー!!!」
叫びながら号泣しました。
「彼を尊敬したかったー!!」
「だって、恋したかったからー!!」
しばらく泣き叫び、その間、魔女の親友の
真っ白な狼が魔女の顔の涙をずっと舐めてくれました。
魔女は、狼にしがみついて泣きました。
魔女にとって、恋する相手は
尊敬の対象であることが重要でした。
魔王はそれを見抜いていました。
それで魔王は、魔女が自分を尊敬し羨望するように
振る舞い続けていました。
その言動を続けるうちに、魔王は魔女に
本当の弱い自分を見せることが
できなくなってしまったのです。
ドツボにハマる魔王。
もう、にっちもさっちもいかず
この勝負に勝つ以外の道は残されていませんでした。
でも、勝ち方がわからない。
それで、魔女を放置するしかなくなったというわけです。
これらのトリックに気がついた魔女は
自分は恋をしたかったのだなと気がつきました。
そして、あの臆病者とは恋はできないことにも
気がつきました。
魔女は、魔王のいる王国を出ることを決めました。