「クリスタルはエーテルの塊じゃない」120倍よくわかる!『FF16』解説&考察-Part1
FF16に残された謎は多い。中には答えがないものも存在する。しかし、ゲーム内に散りばめられた様々な情報を用いて仮説を立てることは可能だろう。そんなFF16を120倍楽しむための解説&考察シリーズ。
第一弾「マザークリスタルと《黒の一帯》」
なお、120倍という数字に特に意味はない。
気分だ、そんなもんは。
「FF16」ってどんなゲーム?
『FF16』は、『ファイナルファンタジー』(以下、FF)シリーズ最新作のアクションRPG。プレイヤーはクリスタルの加護を受けし大地ヴァリスゼアを舞台に、数奇な運命をたどる亡国の王子「クライヴ・ロズフィールド」として、世界に隠された真理に迫っていく。PS5で独占提供中。
注意事項
*強烈なネタバレを含む。想定読者は一度でもクリアした人
*英語でプレイした。日本語の作中情報とは一部乖離がある可能性がある
*引用は英語を引っ張ってきている。ChatGPTなりで翻訳してほしい
(いつか意訳は提示すると思うが、この記事内だとくどくなるので…)
*画像はほとんど公式から。全てスクエニさんに帰属。一部こちらで加工。© 2023 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
1.マザークリスタル
作中、シドやクライヴたちは「マザークリスタル」の破壊に奔走し、大陸を縦横無尽に駆け回る。しかし、たまに「そもそもなんでマザークリスタル壊してるんだっけ?」という意見を見かける。マザークリスタルって一体なんだったのか。なんだって、彼らはそれを破壊しようと命まで賭けるのか。
1-1.マザークリスタルの正体
作中後半で語られることになるが、マザークリスタルとはエーテル回収装置であり、もっと言えばアルテマの残り少ない16人の同胞のうち、8人が身を挺して変化した成れの果てである。(正確にはマザークリスタルのコア)
アルテマははるか昔にある種の奇跡―魔法―を発明した種族だったが、その便利さは《黒の一帯》による緩やかな破滅とセットだった。アルテマたちはいくつもの対応策を練ったが尽く失敗し、万事休すと世界を捨てた。
彼らは肉体(イフリート・リズンの形態)を捨て精神体となって世界を探訪し、ついに《黒の一帯》による影響を受けていない純粋無垢な土地、「ヴァリスゼア」双大陸を発見した。アルテマはそこで「新しい世界」を創世する魔法―《完全生命魔法レイズ》―を使い、《黒の一帯》に関連する諸問題を一気に解決しようとしたのだ。
しかし、《完全生命魔法レイズ》を行使するためには「大量のエーテル」と「それを行使する肉体(器)」が必要となる。アルテマはそこで人類を創造し、器となるミュトスが育つように計らった。また、大量のエーテルを収集するべく、地上にオベリスクとマザークリスタルを設置し、エーテルの流れを操作した。どれもこれもはるか昔のことである。
2.《黒の一帯》とシド一派の活動
そんなアルテマの目論見など知る由もないシド一派だが、知らないとしたらなぜ、彼らはマザークリスタルを破壊して回るのだろうか。命まで賭けて。
結論から言えば、彼らはマザークリスタルのからくりを理解したのだ。そして、《黒の一帯》が進行する原因=マザークリスタルを取り除こうとした。
2-1.《黒の一帯》とシド一派
古代、「大量のエーテル」と「器」を揃える算段をつけたアルテマは永き眠りについた。しかし、この永き眠りによって人は神に見捨てられたと感じ、アルテマ最大の誤算でもある「人の意志(Will)」が誕生してしまった。人は生存のために知恵をつけ、やがて魔法の神秘にたどり着いた。
魔法を使うとどうなるか。《黒の一帯》が生じる。
魔法に魅入られた人類は空まで飛ぶようになり、所謂「空の文明」の時代が訪れた。人々は空中都市に暮らし、クリスタルの恩恵に酔いしれ、やがて、それを奪い合うようになった。魔導兵器同士の衝突。そうして、魔導大戦(The war of the Magi)が起きた。この魔導大戦(+アルテマ達の計画)によって各地でエーテルが枯渇。ついに《黒の一帯》がヴァリスゼアにも訪れてしまう。これが、だいたい1500年ほど前のことだ。
ゼメキスの悲劇も相まり、ヴァリスゼアの文明は衰退した。魔導は忘却され、生活は苦しい。《黒の一帯》が迫る。人類はおしまいである。そう、ゲーム開始時点で既に、人類は滅亡の危機に瀕していた。
シドとクライヴは対話の中で「人が人らしく生きれる世界」を作りたい、という結論に達していた。しかし、それにはまず、人が生きられる状態の世界がなくてはならない。《黒の一帯》しか残っていない世界に希望はない(と、当時の彼らは考えていた)。
まず「世界救済」があり、その後に「ベアラー救済」がある。
そう語るシドにクライヴも驚いていたが、まぁ筋は通っている。
2-2.《黒の一帯》とマザークリスタル
《黒の一帯》は何故拡大するのか。エーテルが消費され続けるからである。それは人類の活動による部分もあるが、アルテマの計画=マザークリスタルに負うところが大きい。だからマザークリスタルを破壊することは結果的にはシドたちの目的に沿っている。
しかし、アルテマの存在すら知らないシドはどうやって《黒の一帯》とマザークリスタルとの間の因果関係に気付くことが出来たのだろうか。
マザークリスタルから採掘されるクリスタルを用いて魔法をキャストすると、大気中のエーテルが消費される。そう、あくまでクリスタル、ひいてはマザークリスタルも「エーテルを大気中から引き出すための装置」であり、「エーテルそのもの」ではない。「マザークリスタルの正体」を思い出してほしい、マザークリスタルはエーテルの回収装置に過ぎないのだ。
シド(一代目)はその本質に気づいた。マザークリスタルを辿ってエーテルがどこかに流れている、と考えた彼は、長年の研究と検証によりこれを確信し、《黒の一帯》の原因がマザークリスタルにあることを看破した(後に、流出先がオリジンであり、《完全生命魔法レイズ》を唱えるために用いられていたことが明らかになる)。その後は皆さん御存知の通り。
《黒の一帯》の原因=マザークリスタルを破壊する。
既得権益、既存の価値観に縛られた世界が動けないなら俺がやる。
たとえ、大罪人の誹りを受けたとしても。
大罪人シド、爆誕。
世界を支配する常識や体制に挑戦する、実にFFっぽい展開と言えるだろう。こう整理するとシド一派の狙いもわかりやすいのではないか。
2-3.《黒の一帯》は止まるのか?
「でも《黒の一帯》止まってないけど!?」と指摘する諸氏もいるだろう。
「少なくない犠牲を支払って各国のマザークリスタルぶち壊して、その国の生活めちゃくちゃにして。それで《黒の一帯》の被害が少なくなるならまだしも、後半被害がめちゃくちゃ加速してますよね!??」…
ここではまず、「《黒の一帯》は拡大しても縮小はしない」という前提を認めたい。
詳しくない分野(特にこの分野…)の例を用いるのは正確性を欠くのであまり好きではないのだが、「《黒の一帯》はエントロピーが高い状態」だと認識するのはどうか。エーテル・エントロピーが低いと魔法が使える。しかしエントロピーは増大する。孤立系におけるエントロピーは増大する一方である。系におけるエントロピーが最大に達したとき、そこには熱的死が訪れる…。いや、やはり悪い例示は本質を捉えにくくするだけかもしれない…。
要するに《黒の一帯》とは不可逆的な変化なのだ。その拡大は止まらない。
エーテルは(物語の中で言及されていない、エーテル量を増やす方法が存在するのでない限り)有限の資源であり、減ることはあっても増えることはない。エーテルの減少が不可逆的変化である限り、そのエーテルの枯渇によって発生する《黒の一帯》もまた、不可逆的な変化だと言える。
現状維持以上が出来ないのだ。そもそもシド一派の戦いは「勝つ」ための戦いではなく「負けない」ための戦いだった。そしてその戦いの結果は、エピローグを見れば明らかだろう。
…しかしその上で
【論点①】マザークリスタル破壊は《黒の一帯》の遅滞に有効だったのか?
【論点②】マザークリスタル破壊は甚大な被害を民間に齎していないか?
という議論は出来るかもしれない。
3.シド一派による破壊活動の功罪
3-1.マザークリスタル破壊の功罪:功
【論点①】マザークリスタル破壊は《黒の一帯》の遅滞に有効だったのか?
マザークリスタルはエーテルを回収する装置である。その装置を破壊したのだからヴァリスゼアのエーテル保全に一定の効果があったのは間違いない。たとえそれが遅いか早いかの問題だったとしても。
アルテマが《完全生命魔法レイズ》の詠唱をするためには「大量のエーテル」そして「器」が必要、ということは本稿でも繰り返し述べている。そしてラスボス戦前後の会話を考慮すると「大量のエーテル」は実は随分前に集まっていた、と捉えるのが妥当なのかもしれない。アルテマは《原初の楔》のような巨大魔法をキャストしたり、オリジン起動後は旧肉体で魔法を放ったりもしている。エーテルが余っていなければ出来ない行為だ。
つまり、「アルテマの計画を妨害する」という意味では、シド達によるマザークリスタルの破壊活動はなんら機能していない。まぁそもそも「アルテマの計画」を主人公たちが知ったのはラスボス戦なので、妨害もクソもないのだけど。
むしろ、「マザークリスタルの破壊」という点において、シド一派の動きはアルテマの掌の上だったとも言える。マザークリスタルはアルテマの同胞らが肉体を犠牲にして変身した姿だ。すでに大量のエーテルが集まっている=役目を終えているにも関わらず、彼らは「誰かがコアを破壊(もしくは、周囲のエーテルが枯渇?)しないと稼働が終わらない」というマザークリスタルの特性のせいで役務に縛られていた。クライヴはアルテマに誘導され気づかぬうちに彼らを解放して回っていた。
といっても、「同胞の解放」だけが目的なら、飼い慣らしているオーディンに破壊して回らせればいい。それをしなかったのはマザークリスタルのコアが持つ防御機構を用いて「器」ミュトスの腕試し&精神破壊を行いたかったからではないだろうか。近辺のドミナントを喰わせたかったというのもあるかもしれない。二重の意味でクライヴはアルテマの思惑通り行動していた。
しかし、逆説的に考えれば、ミュトスが登場しなければマザークリスタルはそのまま数百年も存在し続けた可能性がある。その間ジワジワと人間の生存領域を狭めながら。アルテマの思惑だろうがなんだろうが、シドたちがマザークリスタルを破壊したことには一定の意味があると言って良さそうだ。
3-2.マザークリスタル破壊の功罪:罪
【論点②】マザークリスタル破壊は甚大な被害を民間に齎していないか?
当然だが、マザークリスタルが消滅するとクリスタル供給量が激減する。
ヴァリスゼアの民は「魔法」に生活を依存している。生活インフラも農業も商業も全部が全部、「魔法」という技術体系、そしてそれを支える資源―「エーテル」を前提としている。現代における「科学」と「電気」「石油」などの関係に近いだろうか。現代でもこれらの資源がなくなると途端に生活水準は維持できなくなる。マザークリスタルの破壊工作はヴァリスゼア市民の生活に大きな影響を与えたことは間違いない。
また、ベアラーへの風当たりも強くなる。クリスタル供給量が減っても仕事は減らない。これまでの仕事量を維持しようと雇い主はベアラーを酷使する。ベアラーの扱いを改善しても魔法の効果が向上するわけでもない。取引額が高騰しても依然としてベアラーはモノ扱いされるだろう。単純に石化するまでの期間が短くなるだけだ。シドがベアラー保護を掲げていることも明らかになり、ベアラーは人質扱いされたり散々である。
マザークリスタル関連産業にはより直接的な影響がでる。ゲーム内でも特に描写されていたのが鉱員の失業だ。職をなくし不満が募った彼らはベアラーのくせに首長候補に名を連ねようとしていたルボルに積極的に石を投げる。
それだけではない。マザークリスタル周辺の農業・観光・商業も影響を受ける。ダボールの客は激減しマーケットとしての存続が危ぶまれ、ムーアでは穀物が取れない。住民はそれまでの生活を諦めなくてはならなくなるだろうし、身を持ち崩して難民になるものも出るだろう。
物理的に人が住めなくなるエーテル溜まりという問題もある。オリフレムはエーテル溜まりに沈んだ。コアを破壊すると周辺がエーテル溜まりになってしまうのだろうか。しかし作中に直接的な表現はなく、むしろ潜入したらエーテル溜まりだったことがわかる例(ドレイクヘッド然り)が多いので、マザークリスタル近辺はもともとかなり危険なのかもしれない。近辺のエーテルを吸い上げているのだから当然か。そうなると被害もかなり限定的だ。
だが実際にはアルテマの策略によって市民はより広範な被害を被っている。各地のエーテル溜まりは大気中のエーテルを不安定にする《原初の楔》によって生まれている。これは考察を交えるなら大気中のエーテルに偏りを生む魔法だ。一方ではエーテル溜まりを発生させ、他方ではエーテル濃度を下げクリスタルの効力を下げる。ついでに終盤にはマザークリスタル:オリジンなる巨大エーテル回収装置があらわれ、地表からエーテルを回収するついでに各地にエーテル溜まりを作成していく。そのせいで町は沈み、アカシア化した人や魔物が近隣の村々を襲う。最悪だ。人類はおしまいである。
とはいえ、これらはアルテマが「器」の精神破壊を目論んで人類を適度に(全滅すると超絶レアな「器」も消えるので…)滅ぼそうとした結果であり、シド一派の破壊工作により生まれた被害ではない。彼らがそこまで咎を背負う必要はないかもしれない。
振り返って見るに甚大な被害が生じたのは間違いない。シド一派の破壊工作は多くの人民の生活をも破壊した。
しかし、いつかはマザークリスタルも壊れ、エーテルもなくなっていた。シド一派の活動はそれを早めたに過ぎない。それにシド自身、事態が好転する前に悪化することを認めている。他に道なんてあっただろうか?
3-3.シド一派による活動の総括
重ねるようだがシド一派の活動による被害は甚大だ。救われなかった多くのベアラー、フーゴの私兵やアンバーの市民、ヴァリスゼアに住まう無辜の民はシドを恨んでいるだろう。
それでも”シド”の哲学は一貫していた。それは自分の正義の絶対性を信じる葛藤のなさからくるものではなく、葛藤の只中にいながらも大罪人としての咎を背負い、この道しかないんだと前へ進む覚悟を表すものだろう。
ダリミルのパン屋、自衛団に入団した鉱員、ドラヴォズの鍛冶師たちに、マーサの宿近辺の魚屋。そしてイーストプールのベアラー達。カンタンや、ルボル、マーサにイザベル。挙げればきりがないが、皆が皆、絶望や諦観を経験した。経験して、それでもなお、悩みながら苦しみながら、前を向いて歩こうとしている。彼らは、昨日まであった世界がなくなったという事実を認め、受け入れ、明日を生きようとしている。
シドは大罪人の誹りを受けようとも、マザークリスタルを破壊しエーテルの呪縛から人々を解放することで、「人が人らしく生きれる世界」が訪れると信じていた。強制的な労働や与えられた人生ではなく、自発的に生きることができる、それが選択肢として存在する人生。シドの協力者たちもその世界―「人が人らしく生きれる世界」―の到来を信じていた。
自分の絶対正義を信じるアルテマが敗れたのは、葛藤の中でクライヴやシドが求めた「未来」を人が信じたからではないか。そんな人々をクライヴの方でも信じたからではないか。それがジョシュアが指摘する”Faith”―「信頼」なんじゃないか。
だから、そんな未来―「人が人らしく生きれる世界」―が訪れた、というエンディングに、私はどうしたって救われてしまうのだ。
おわりに
FF14は途中で引退し、FF15もそこまで楽しめなかった(ファンの皆さんごめんなさい)。俺はFFシリーズが好きなんじゃなくて、FFの各作品が好きなだけなんじゃないか。そう思い始めていた頃にFF16をプレイした。
涙が出るほどおもろかった。多分鼻水も出てた。
仕事が終わるといつも「うおーFFやるぞー」という感情が湧いてきて、ずっとFFをやっていた。それだけでも子供の頃に戻ったみたいで嬉しかった。
まだ一周目しかクリアしていないのだが、90時間以上プレイしていた。メインクエストにサブクエスト、リスキーモブに石塔群。世界各地にいるNPCのつぶやきをスクショし、英語版と日本語版とで比較する…。本当に楽しい。
だがクリア後にネットを解禁してみればどうだ。俺は悲しくなった。人間、得てして自分が好きな作品ほど不当に評価されていないと感じるものだ。俺の中でFF16はそれほど好きな作品になっていた。
だからとりあえず自分のためにもこの体験を言語化しようと文字にした。思ってたよりも長くなってしまいびっくりしているのだけど、実はまだまだ解説?考察?レビュー?を書く予定だ。気になったら見てくれると嬉しい。
またあくまで、この記事は個人的な見解に基づく解説・考察記事であることを理解してもらいたい。私がたまに記事を書かせてもらっているゲーム特化メディア:AUTOMATONではまた違った確度からのレビューなども出ているので気になる方は是非確認してみて欲しい。
『FF16』はPS5向けに発売中。DLCが待たれる。