ヤフオクでトラブルに巻き込まれそうになった話
コロナ禍の中で、インターネットオークションを利用する人が増えている中、個人間売買でのトラブルも増えているらしい。
対面販売と違って相手の顔が見えない、商品の実物が見れないという状態で取引を行うことは一定のリスクを伴うが、いくつかのポイントをチェックしていけば極力トラブルは避けられる。
ヤフオクのガイドラインを熟読すればその対策は書いてあるが、より具体例があると分かりやすいので、今回の実例を詳細に書こうと思う。
今回のカテゴリは骨董の掛け軸である。「普通骨董品をヤフオクで買う?」という意見の人も少なからずいるかと思う。一応ヤフオクでも商品の内容やコンディションに関して、間違いが起きないよう細心を尽くして真面目に骨董を扱っているストアや個人の方もたくさんいるので、彼らの名誉のためにも「骨董をネット上で買うこと自体アウト」というつもりは毛頭ない。ある程度注意していれば、むしろ揉めるのはレアケースと言っていい。
では、今回のいきさつについて以下に書く。
1,「戸隠切」と思われる画像の紹介(2021年8月4日)
これは東京国立博物館の画像検索より拝借した画像のため今回の取引とは少し違うが、凡そこのような画像がヤフオクサイトで紹介されていた。これは通称「戸隠切」と呼ばれる経文で東京国立博物館の解説によると
”料紙は、鼠色、薄藍、薄紅色などの漉返紙で、1行8基の宝塔形を雲母で刷り出した中に、経文を行書で書写します。筆者は藤原行成5代の孫で、一筆一切経を23年間で成し遂げた藤原定信です。戸隠神社に伝来したので、「戸隠切」とよばれます。”
とある。つまり鎌倉時代の貴重な経文で、この分野に詳しいものにとって垂涎の逸品。当然高額で取引されている。
しかし、出品のタイトルは「敦煌経典 仏教美術 敦煌経 仏教法華経 時代物」となにやら的外れなことが書いてある。
この道のプロならまず間違えるはずがないので、出品者は素人かと推測した。
評価は77件の100%の良い評価で、今までトラブルはなさそう。
この出品者は他に2点出していたが、1点は額装の「中国・西漢 敦煌 古写経 時代物 骨董幅全体約62.5×43㎝」という額装の商品。
もう1点は「中国画 清 金農 「紅蘭図」掛軸 中国古美術」という軸装の商品であった。
双方、必ずしも良い撮影とは言えないが全体画像も詳細画像もあり基本は抑えているという感じだ。
額装の敦煌古写経とされる商品に関しては、私の知識ではどういったものか把握できなかった。
軸装の金農に関しては怪しい感じではあったが、それなりに時代のある模写という感じはした。この手の商品はヤフオクに溢れているので、まあよくあることだと思う程度。
今回の戸隠切に関しても10枚ほどの詳細画像があり、その点良かったが、なぜか全体像が欠落していた。この点を気にするかどうかは迷うところだが、今回はあえてスルーした。(これが間違いのもと)
タイトルミスがあるもののウォッチリストもそれなりの数がおり、既に入札者は7人もいた。おそらく高騰すると思ったので、火傷しない程度の入札をして放置した。その時点で最高入札者になった。
さて終了日、終了間近にチェックしたところ相変わらず私が最高入札者であった。
2,何故か落札者に。(8月5日22時)
「?????」
ここですでに疑問であったが、そのまま終了私が落札者になってしまった。後の祭りだが、内心かなり焦った。これほどのものが、この値段で放置されること自体ありえないことだからだ。
ここから、相手の取引内容詳細を調べた。
「送料無料 1円即決 動物 画像データ フリー写真 フリー素材×3」という文字が見えたとき、正直戦慄した。
3,キャンセルをめぐる攻防
この100%の良い評価の大半がこの手の取引で占められていた、ということはまっとうな評価の積み重ねでは無いということになる。
相互評価は一応ヤフオクのガイドライン上アウトなはず。ただし、報告したからといってヤフオク側が即アカウントを取り消してくれるかどうかは分からない。少なくとも最悪やってみる価値はあるが、先方がキャンセルしてくれるが一番手っ取り早い。
ここからは相手を黒と決めつけて、取引をキャンセルに持ち込むために全力を尽くすこととなる。
相手の取引条件をおさらいする。
幅全体約58×58
★ご覧いただき、誠にありがとうございます★
◆ 手持小物欠損、剥がれ、小アタリ、スレ、シミを始め状態詳細は上記の画像にてご判断の上ご入札下さい。 ◆経年のモノですので、説明しきれない時代物としてのスレや、変色、使用によるへこみやアタリ、小キズ等の欠点はあります。 時代感など、欠点も含め ◆入札価格が仕入れ値を大幅に下回る場合は早期終了させていただく場合がございます。
ご入札は慎重にお願いいたします。
◆画像でご判断、ご納得頂いた方のみのご入札をお願い致します。 ご入札は十分ご検討頂きご納得の上で行って頂けますようお願い致します。
◆ご不明な点等御座いましたら、ご入札前に質問欄からお問い合わせください。
◆ご落札されてから48時間以内にお名前?お届け先等のご連絡、ご落札から3日以内にご入金出来る方のみご入札お願いします。 上記の期日が守れない場
合は、いかなる理由がございましても「落札者都合のキャンセル」をさせて頂きます。 ヤフーオークションシステム上「非常に悪い」を付けられます。
◆ 誤入札、または入札後のキャンセルの申し付けが発生する場合に、落札代金の20%を支払うことになります。ご了承くださいませ。
◆ 当店に重大な過失がない場合の返品はいかなる理由があっても一切お受けいたしません。
誤字脱字があるのとキャンセル料というところが引っかかるが、その他はよくある文面だ。
ここで個人情報は出したくなかったが、基本取引に移るにはこの点は諦めなければならない。取引ボタンを押し
「はじめまして。落札者のKと申します。入金は明日の夕方する予定ですので、しばしお待ち下さい。荷姿の件ですが、箱無しの軸物になりますでしょうか?凡その大きさ(軸を巻いたときのサイズ、重さなど)を教えていただけるとありがたいです。」(8月5日22:51)
という文面を取引ナビ上に残す。
しばし考えて、
「一応、私にとって高額な商品になりますので、上記に関する商品情報ご連絡を頂いた後、コンビニでのかんたん決済手続きに移りたいと思います。リミットが8日ですので、お手数おかけしますが、早めのご連絡お願いいたします。」(8月6日11:13)
ということで連絡がない場合は、決済をしない旨を伝える。
約7時間後、先方より
「ご連絡ありがとうございます。商品全体の大きさは58×58cm、絵画部分は45.5×45.5cmです。軸を巻いた場合のサイズは43×39×2cm程度、重さは2.5kg程度です。ヤフーかんたん決済がご利用いただけない場合、銀行振込でも結構です。お支払い後3日以内に発送いたしますのでご安心ください。」(8月6日18:16)
という返答があった。この文面でマズイ点が二箇所。まず軸物と謳っておきながら58×58cmつまりスクエアサイズと言っている。掛け軸は床の間にかけるものなので長方形が基本。この時点で掛け物でない可能性濃厚である上、軸を巻いたときのサイズが明らかにおかしい。仮に最長部が58cmなら1辺のながさは少なくとも58cmでなければならない。なのに巻いた場合最長部が43cmに縮んでいるということは、もはや意味不明である。もう一つは銀行振込に持ちかけようとしていること。ヤフオクのルール上、かんたん決済利用を薦めているのは、出品者が商品を送らない場合、落札者側からキャンセルをかけれるという救済制度がある故である。もし本当の個人間取引になった場合、当事者同士のやりとりしか方法がなくなるのでかなりめんどくさい話になる。これはぜひとも避けたい。
4,ひとまずヤフオクかんたん決済を利用する
ここからは賭けになるが、かんたん決済を活用できるよう流れを組み立てる。まず、コンビニで支払いを済ませイニシアチブをとる。その上で
「ご連絡ありがとうございます。先程コンビニで決済を済ませましたが、一つ確認があります。軸を巻いたときのサイズが43×39×2cmという事は、軸物ではないということでしょうか?一般的に軸物の場合、最長部の長さは担保されるので、例えば58×8×2cmというような感じになると思うのですが如何でしょうか?額装か、それとも何か特殊な形状なのでしょうか?オークション画像からは軸装を想像しました。ただし、全体像が紹介されていなかったので、その点は気になりました。2.5kgという重さはなかなか立派なものだと思います。軸部がしっかりしたものなら、それぐらいの重さになることも想定できますが、額装の場合でも同じことが言えそうです。色々と確認が多くて申し訳ございませんが、出来るだけ錯誤の無いようにしたいのでよろしくお願いいたします。」(8月5日19:59)
という連絡を入れる。この後先方からの連絡が一旦途絶える。
5,ヤクオク側から商品発送の催促(8月10日19:19)
かんたん決済が終わり一定期間が経っても先方が発送連絡をしない場合、自動的にヤフオクが催促をする。この連絡は双方に来るので、これを確認した後
「こんにちわ。昨日ヤフオク側から発送催促の連絡があったかと思いますが、発送前に今一度商品内容のご確認、ご連絡よろしくおねがいします。商品カテゴリでは掛け軸となっていましたので、当方は掛け軸と認識しております。画像でもそのように確認できます。それ以外の形態である場合、大変遺憾ではありますが錯誤を理由に取引中止のご連絡をせざるを得なくなります。くれぐれもご連絡のない状態での発送はトラブルの基となりますので、ご注意ください。」(8月11日7:20)
という連絡を入れる。すると先方より
「返信が遅れて申し訳ございません。商品は木箱入りの書画です。委託先がすでに佐川で発送を済ませてしまったため、現在は取引停止できません。もし商品にご満足いただけない場合は、銀行振込にて返金させていただきます。大変申し訳ございません。ご理解をお願いいたします。」(8月11日9:38)
文面は丁寧だが、ここで少なくとも嘘が1箇所。発送を済ませたという割にはヤフオクで確認する限り発送済になっておらず、取引停止ができないという箇所が間違い。加えて商品に満足いただけない〜もかなり嘘くさい。
問題なのは委託先がすでに発送したという箇所で、これは暗に現物が出品者の手元になかったことを示唆する。ヤフオクのガイドライン上委託出品そのものは禁止されていないが、手元にない商品の出品はNG。
つまりこの出品者は相互評価と手元にない商品の委託出品という2点でガイドラインに違反しており、いざとなれば私が優位に立てそうだ。ただし、発送済にならず8日経過すればこちらにキャンセル権限が発生するので、そこに持ち込むべく、ここの時点で返答は書かず。
6,突然のキャンセル連絡
突如事態は好転する。
「大変申し訳ございません。ご落札した商品は、包装中破損した為、やむを得ず取引キャンセルさせていただきます。お支払い金額は全額返済いたしますのでご安心ください。ご理解いただきありがとうございます。」
まあ、掛け軸は割れ物では無いので破損する可能性などほぼ無いし、相手の事情など全然理解するつもりは無いが、正式に出品者都合のキャンセルということになり、事なきを得た。
まあ、全体的に詐欺っぽい案件ではあるが、最悪というところまではいかなかった。
このようなケースで考えられる最悪の事態は
・期限内に実際に商品が発送される
・確認の結果、商品が変なものである(画像と違うなど)
・交渉決裂(もしくは連絡がつかなくなるなど)
というパターンであろう。内容はともかく、形式上必要最低限の行為(支払いや発送など)が正常に行われれば取引自体は成立するので、あくまで個人間の話に移行せざるを得なくなる。
ここからの救済制度はゼロでは無いが、仮に証拠をかき集めて異議申し立てをして認められたところで救済限度は1万円。これ以上の入札をした場合はすべて落札者の負担分になるので、結局泣き寝入り状態になる。
最終的にガイドライン違反を通報し、出品者が悪質である旨をヤフオクに伝えて落札者都合のキャンセルに持ち込めるかどうかは今回はわからないままであった。
デジタル画像の取引で点数を稼ぐのは、明らかにおかしいと思うのでこの点はヤフオク側に申し入れするつもりだ。
みなさま、くれぐれもオークションで買い物をする際は、相手の情報を隈なく見ましょう。