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【ゲーム感想_02】かまいたちの夜

■知名度の高さに反するシナリオ認知度の低さ

ノベルゲーム系統に属する作品として、日本でもっとも有名なタイトルではないでしょうか。

インパクトのあるシーンの存在や、当時としては珍しい活字主体のゲームシステムであったことからか、「普段ゲームをプレイしないが『かまいたちの夜』は知っている」という方はちらほら見かけます。

一方でその知名度に対し、ゲームの全貌を把握しているプレイヤーが少ない作品でもあります。
一番最初にプレイすることになるミステリー編の犯人や、終盤の惨劇は知っていても、次にプレイするスパイ編・悪霊編のあらすじは覚えていない方も
少なくありません。

O(オー)の喜劇編や暗号編など、後半にプレイするルートの存在を知らない人も多いですし、最後にプレイする不思議のペンション編に至ってはノベルゲーム好きを自称する方々でも存在を知らなかったり。
今読んでも面白いのに、話題に上がることはごく稀です。

この画像で何のゲームか答えられる
『かまいたちの夜』プレイヤーはかなり少ない印象

後半のシナリオが認知されていない理由。それは単純に、SFC版の難易度が高いからです。

最初にプレイするミステリー編の時点でそこそこ難しく、ピンクのしおりを出すために既出シナリオの全エンディングを見るのも高難度。
そして何より暗号編ですよね。あれを攻略無しで見つけるのは至難の業です。

ここまで難しくなってしまったのは、販売時に開催されたキャンペーンが原因と思われます。
ピンクのしおり&金のしおりにした画面を撮影しチュンソフトへ送ると商品がプレゼントされたアレ。懸賞企画であるため、このようなトンデモ難易度になったわけです。
(金のしおりは私も未だに達成できていません...)

また懸賞企画であることは発売前に出版社などにも事前通達されたそうで、クリア方法がゲーム雑誌に掲載されたのは発売してだいぶ後のことでした。
そのため攻略法がわからず、そもそも別ルートがあること自体知らない人も含め、未クリアのままゲームを終わらせてしまった方は多数いらしたことでしょう。

以上が原因で、作品の知名度に反して後半のシナリオが認知されていないのだと推測します。
(リメイクでプレイした方は、作品自体に強い思い入れがなく時間経過で忘れ去っていることが多いです。)

とはいえ作品クオリティは皆さんご存じのとおり、ミステリー編だけでも十分たる内容です。ゆえにミステリー編だけで満足したプレイヤーや、新ルート開放に挑戦したけど挫折した人達が、序盤のクオリティだけを理由に名作として喧伝しているのでしょう。

最も閲覧しやすく、そして有名なシーン
『かまいたちの夜』の代名詞といわんばかりの知名度です

では『かまいたちの夜』は本当に、ライトプレイヤー層もプレイできたシナリオが面白かっただけで称賛されているのでしょうか。
.…..それも理由の1つではあるのでしょうが、最後までプレイしきれなかったゲームを名作だ傑作だなんて普通は評価しませんよね。では何が評価されたのでしょうか。

■『かまいたちの夜』の遊び方

本作のボリュームは、シナリオを読みきるだけなら大して多くありません。
選択肢を事前把握し全シナリオのエンディングを見ることに特化すれば、実は10時間強ほどで達成できます。
(金のしおりにする時間は考慮していません。「不思議のペンション編」のハッピーエンドをみるまでの時間で考えています。)

ボリューミィに感じるのは、既読部分を繰り返し読むことになるためです。
ミステリー編で犯人を推察するためにプレイしなおしたり、新たな情報を入手しようと他の選択肢を試すことで、プレイ時間は何倍にも膨れ上がります。

これが物語を視聴するためだけに存在する映画や小説であれば、同じ場所を繰り返し視聴しないと理解できない、冗長な不出来の作品と評されたことでしょう。
ですが本作は攻略してエンディングを目指すコンピュータゲームです。作中の課題に対する解法を求め試行錯誤し、突破することで達成感や報酬による満足感を得ることを目的とする娯楽メディアです。

そしてこの手のゲームでは、繰り返し挑戦する時間を無駄とは考えません。繰り返しも含め、すべては試行錯誤を楽しむ時間だからです。
アクションゲームやシューティングで突破できない面を何度も練習したり、攻略法を考えたりする時間って無駄ではないですよね。その時間も含めてゲームを楽しむ期間じゃないですか。あれと同じ考え方です。

そうして繰り返し考え試すことでミステリー編のハッピーエンドを迎え、スパイ編や悪霊編など新規追加されたシナリオの全エンディングを見尽くし満足したところで、しおりがピンクに変わります。
すると今度は全く毛色の違うOの喜劇編が出現して。

んで暗号編を含め隅々まで読み終えて「いやー満足した!」となった後日、例の暗号をどこかで知り、更なる追加シナリオ「不思議のペンション編」があることを知るわけです。自力で見つけた方は、それはもう嬉しさでテンションがブチ上がったことでしょう。

例の暗号を知ったのは初プレイからだいぶ経過した後でした。
今ならともかく、中学生だった自分にはこんなんわからんですよ…

最後に登場する不思議のペンション編は、今度こそ本当に最後なので課題はありません。選択肢こそ数多に用意されていますが、シナリオを読みつくせば今度こそ完全クリアです。
ここまで読むだけなら10時間程度。しかしゲーム攻略として取り組むとその2倍以上、下手をすれば3倍4倍と楽しむ時間が増えていくわけです。

■『かまいたちの夜』はゲームである

前述のとおり、シナリオが追加される条件はいずれも非常に高難易度です。最初のミステリー編で犯人を当てることからして、SFC版のメインプレイヤー層であっただろう小中学生には厳しいものがあります。
そして犯人を当てないと先に進めない、実に厳しい難易度デザインです。

しかし高難易度なゲームを隅々まで遊ぶことでようやく追加シナリオが登場するからこそ、作品に対しボリューム感を得ることができたのだと思います。

頑張った結果、新しい道が開けた時の嬉しさは格別です
増えたシナリオもやっつけではなく、ちゃんと面白い

仮に追加シナリオの存在を最初から認識していて、見るための手順も簡単だったら10時間程度の作品にボリューム感を覚えることはないでしょう。
むしろシナリオを出現させる工程に作業感を覚えてしまい、読む前に飽きてしまう可能性すらあります。

真剣に取り組むからこそゲームに没頭する時間は増加し、その時間を読み物として余計な時間であるとは考えません。
そしてゲームに対し真剣に取り組んだ結果だからこそ、追加シナリオにも冗長さを意識せず、良い意味で「まだあるのか!」と喜びを得られたのだと思います。
これが本作をプレイすることで得られる、最もポジティブな感情です。

文字を読んで先に進めるゲームを、ただゲーム上で小説を読むだけの作品にはせず、ゲームだからこその要素を取り入れて、プレイヤーと作り手が真剣に勝負する場を設けた結果、勝ち負けに関係なく、全力を尽くしたプレイヤーだけに達成感や満足感を与えてくれるゲーム。
それが『かまいたちの夜』なのだと私は思います。

しおりが初めてピンクになった時の達成感と満足感は
今でも覚えています

■シナリオと同じぐらい評価されるべきもの

繰り返しますが、本作の感想で後半シナリオの話題が滅多に上がらない理由は、プレイした人の多くが後半のシナリオにたどり着く前にゲームをやめてしまったからです。

加えてミステリー編など前半部分のクオリティがある程度担保されていたから、前半部分のみで絶賛されているのだと勘違いして名作だと喧伝しているのでしょう。しかし本作に対し真剣に向き合ったプレイヤーであれば、シナリオだけで評価するようなことはしません。

長時間を掛けて真剣に取り組んだら、取り組んだだけの達成感や満足感をしっかり与えてくれるゲームであることを知っているからです。
アクションやシューティング等と同じ、製作者からの挑戦に対し真っ向から勝負するゲームであることを知っているからです。

どのシナリオも面白かったです。ミステリー編の惨劇は本当に怖かったですし、スパイ編の躍動感あふれる展開も大好きです。Oの喜劇編や不思議のペンション編はこれでもかとメタネタやパロディが投げ込まれてめっちゃ笑わせて貰いました。読む作品としても十分に楽しめました。

スパイ編の躍動感が好きです
絵や文は勿論、SEやBGMなどの音回りも素晴らしい作品でした

ですが本作のどこが凄いのかと聞かれたら、私は物語としての面白さだけを理由にはしません。
歯ごたえのある難易度に対し真剣に取り組み、突破できた時の達成感と突破に対するご褒美。それらを楽しい時間として長い間堪能できるから、満足感を得られるから『かまいたちの夜』は名作なのだと答えます。



■おまけ(という名の妄想)

最初に「懸賞企画を成立させるために高難易度にした」と書きましたが、実は逆で、懸賞企画がゲームのクオリティを上げるために用意されたものである可能性もありそうですよね。

つまり攻略情報が出回らないようにすることで、ゲーム本来の楽しみ方を味わってもらうように仕向けたということです。(実際のところはわからないですけど)

非常に勝手な個人の推測でしかありません。でも高難易度のゲームに真剣に取り組んで初めて見える面白さを提供するために計画したのだとしたら凄いですよね。そんな企画を、出版社などに根回ししてまで実行したことも、ゲームに対する真摯すぎるその姿勢も。

同じチュンソフト製の「不思議のダンジョン」シリーズも作り手と遊び手が真剣に勝負するタイプのゲームで懸賞企画がありましたし、あり得ない話じゃないよなぁ、と思った次第です。


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