【ゲーム感想_10】ドラゴンクエスト2
鬼畜と評されるゲームバランスが有名なドラクエ2。ですが個人的に、このFC版はナンバリングでも3本の指に入るぐらいに好きなタイトルだったりします。
レベリングの所要時間や理不尽な謎解き要素こそ難点ですが、バトルバランスは世間で非難されているほど無理ではなく、工夫を凝らして挑戦すれば突破できるからです。
そして試行錯誤して難所を突破したからこそ、達成感は得られます。初プレイ時は小学生で工夫もできず、ロンダルキアを越えられず挫折してしまいましたが、だからこそ再挑戦してクリアできた時の感慨もひとしおでした。お話を楽しむRPGではなく、ゲームとして挑戦するRPGの部分が私に刺さったのでしょう。
今改めて遊んでも難しいところは難しい、けれど時おりプレイして振り返りたくなる作品です。良い部分も悪い部分も含め、自分がドラクエ2を通して感じたことを書き残しておこうと思います。
■理不尽な謎解き
今からFC版ドラクエ2をプレイする上で、最も許されないであろう要素です。FC版擁護派の私でも、これは世間の評価が正しいと思います。太陽の紋章、水門のカギ、そしてラスダンの邪神の像を使う場所は、事前情報なしに攻略できたものではありません。
完全に私の推測ではあるのですが、理不尽になってしまった理由としては前作の謎解き要素が簡単すぎたため、ゲームとして歯ごたえを出すために用意されたものだと推測しています。あるいはロムカセットの容量が増えたことで、前回できなかったことを試してみたかったのかもしれません。
その上で理不尽級の難易度にしたのは、前作が世間に受け入れられた開発者達の自信もあったのだと推測します。本作の難易度は、1980年代にリリースされたPCゲーと比較すると簡単な部類に入ります。当時を知っている方々からすれば「このぐらいの難しさは普通にクリアできるよね」なバランスであったということです。
ただしその発言は、1人で攻略することを想定していません。実際は、ゲームを購入したプレイヤー達が必死になって調べた攻略法が口コミやPC雑誌などで伝播され、それを参考にしてクリアしていたからです。もちろん自力でクリアした人もいるでしょうが、ごく少数だったのではないでしょうか。
洋モノPCゲーに感化されてドラクエを作った開発陣です。彼らが考える「歯ごたえのある難易度」はまさに当時のPCゲーを基準にしていたものと思われます。そしてドラクエ2がヒットし多くの人の手に渡ることも想定していたのでしょう。購入者の中に自力で攻略する猛者がいるであろうこと、彼等から攻略法が伝播されることを見越していたのだと推測します。
加えてドラクエは、当時最も勢いのあった漫画雑誌の1つである週刊少年ジャンプと実質的なタイアップ契約も結んでいました。ゲーム難易度で多少無茶をしても、ジャンプ紙面や集英社の攻略本でフォローすれば問題ないと判断していたことは想像に難くありません。
また当時は、攻略法がわからないとエニックス社へ電凸された方も多数いらしたものと推測します。今だったら制作会社に電凸しても「ゲーム攻略に関する情報はお答えしかねます」とバッサリですが、当時は答えて貰えることも少なくありませんでした。エニックス社が対応していたかは定かではありませんが、おそらくは回答していたのではないでしょうか。
要するに、ソーシャルによる攻略法の伝播を織り込んだ上で理不尽な難易度に仕立てたのだろうなと。ガチゲーマーの本気を知っていたから。集英社のバックアップが貰えるから。電凸もあるだろうから。そして、買ってもらえる自信があったから。謎解き要素に関しては、そんなロジックの上で調整されていたのでしょう。
FC版ドラクエ2の謎解き要素は、事前情報なしに攻略することを考慮していません。わからなかったら無理せず攻略法を見て進めるのが、開発陣の想定した遊び方です。クリエイター側に難易度調整を求めるのではなく、与えられた難易度に応じて取り組み方を変えることで初めて楽しめる作品だと個人的には考えています。
■戦闘バランスとレベリング時間
謎解きと同じく理不尽と評される戦闘バランスですが、決して理不尽ではないと思っています。海底の洞窟は不思議な踊りでMPガンガン吸われましたし、ロンダルキアの洞窟ではドラゴンの群れとキラーマシーンにベッコベコにされました。洞窟を抜けた後にサイクロプスの痛恨やブリザードのザラキにやられたこともあります。確かに難しいです。
けど、適正レベルまでレベリングしてモンスターごとの対策を講じれば無理なく攻略できます。運に頼る要素がないわけではありませんが、運要素を限りなく減らして現実的なレベルで攻略が可能なバランスなんです。他のドラクエナンバリング作と比較すると圧倒的に難しい、というだけで。
私のドラクエ2を好きな理由がここにあります。初見では難しすぎて太刀打ちできないと思わせつつ、敵の1体1体に対策を講じることでクリアできるラインまで持っていけるバランス。運要素を完全に排除できないのも良い点ですね。あまい息が運悪く全員に刺さって全滅とか、先制攻撃を食らってなすすべもなく壊滅とか。
どんなに対策をしても事故る時は事故る。けれど自らの工夫と努力で事故率をクリア可能なラインまで下げることのできるゲーム。クリアはできるけど安定はしない、安心できない緊張感の続くゲーム。それがドラクエ2の戦闘バランスです。だから面白い。
最適解が用意されていて絶対にクリアできるゲームは、シナリオを読むタイプの作品ではありがたいですし、俺Tueee!!ができる作品もそれはそれで楽しいものです。しかし同時に、そのような作品で緊張感や達成感を味わうことは困難を極めます。
ドラクエシリーズは2と10以外、最適解が用意された作品です。ドラクエ10もオンラインのハイエンドコンテンツが高難易度なだけで、ストーリーを追うだけであれば苦戦なんて一切しません。ナンバリング作品で唯一ドラクエ2だけが、最適解を排除した挑戦するタイプのゲームデザインなのです。
ドラクエシリーズは原則としてストーリーを楽しむRPGであり、ユーザの多くもその方向性を望んでいます。ゆえにドラクエ2はシリーズで低評価を受けがちなのかもしれません。しかし一方で、シリーズとは違う路線だからこその面白さもまた存在します。私はそんな唯一性を持つドラクエ2が大好きなのです。
ただまぁ、レベルの上がり方はもうちょい楽でもいいかな、とは思います。
特にローレシア王子レベル19ぐらいから23ぐらいまで。戦闘に緊張感があるため初代ほどレベリングは辛くないものの、それでもやっぱり長いですね。けど、それ以外は高難易度にバランスの取れたRPGだと思っています。
■音楽を引き立てるロールプレイングゲーム
私はゲームに対する評価として基本的に、作品を構成する要素が同じ方向を向いて仕事をしていることを求めます。ドラクエ2であれば中世ヨーロッパ的な世界観をモチーフとしたハイファンタジー。勇者の子孫が世界に不幸をもたらす教団を打倒するRPG、といった具合です。
登場するモンスターやアイテム、グラフィックや音楽、ゲームデザインに至るまで、全てが作風とマッチしていることを求めます。そうやって各要素が足並みを揃えたことで完成する作品の素晴らしさを知っているからです。ゆえにBGMにも、単体で聴く以上に作品との調和性を意識した曲作りを求めています。
しかし時おり、本当にごく稀に、本来パーツであるはずの要素が素晴らしいクオリティで提供された結果、作品自体を食ってしまい主役であるかのように見えることがあります。
ドラクエ2のエンディング曲「この道わが旅」もそんな、ゲームが曲のために存在しているかのような楽曲でした。
私がすぎやまこういち氏の音楽に惹かれる理由はメロディにあります。ドラクエに限らず、氏の作られた楽曲の多くはメロディがいつまでも耳に残り続けるのですよね。ドラクエなら「序曲」などはまさにその典型ですし、伝説巨神イデオンの「弦がとぶ」も勇壮かつ悲壮なメロディが印象的で、忘れることができません。
「この道わが旅」もその1曲です。曲単体で聴いてもタイトルから想像されるような、大変だった思い出を振り返った際に感じる愛おしさ、優しさが伝わってくる楽曲です。それだけでも十分に好きになれた曲なのですが、このBGMがドラクエ2のエンディングをバックに流れた時は本当に衝撃的でした。
上述のとおり、ドラクエ2は試行錯誤を求められる作品です。理不尽に近い高難易度な戦闘と、実際に理不尽な謎解き要素に挑戦する、本当に苦難だらけのRPG。心の休まる中間地点なんて用意されていませんし、常に苦しい時期が続くゲームです。実際その厳しさに屈してしまい、初プレイ時はクリアすることができませんでした。
その後ドラクエ3で初めてRPGをクリアし、その他のゲームで経験を積んでから再挑戦し、初めてドラクエ2をクリアした時、「この道わが旅」が心に染み入ったのを覚えています。全ての苦難を振り返って「大変だったけどがんばったね」と優しく寄り添ってくれるメロディには本当に救われました。何にかはわからないけど、また頑張ろう、と思わされました。
単体で聴いても十分に魅力的な楽曲です。しかし苦難だらけのドラクエ2というRPGをクリアして聴くことで、この曲が伝える何かがプレイヤーの中でより具体化されて心に残り続けるのです。それはもう、ドラクエ2でしか味わえない音楽による体験なのです。
元々ゲームのために作られた楽曲ではあります。ですが「この道わが旅」はその主役を食ってしまったBGMでした。ドラクエ2を「音楽を引き立てるロールプレイングゲーム」にしてしまいました。私にとって忘れることのできない体験をさせてくれた作品です。
歯ごたえのあるゲームとして終始プレイヤーを苦しめ続け、しかしエンディングでは本作の音楽でしかできない方法で労わってくれるRPG。それが私にとってのFC版ドラクエ2でした。