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自分のこと呪術士だと思っている白魔道士〜その14〜

!ネタバレ注意!
※FF14 メインクエスト Lv16 「タムタラの仄暗い底で」

 カーラインカフェでの食事を終え、二人はベントブランチ牧場方面へとチョコボを走らせた。目的地であるタムタラの墓所は、ベントブランチを更に南下した場所にある。

ベントブランチ

 黒衣森はよく晴れていた。頭上を覆う梢の隙間から陽の光がこぼれおち、木の葉の香りを纏った心地の良い風が二人の髪を撫でていく。道すがら草綿を摘み、ベントブランチ牧場ではチョコボの好物であるギサールの野菜を一抱えも買い付けた。

 「君のチョコボ、よく懐いてるね。名前は?」
 「こいつか!こいつはね、チミチョコ!」
 「ちみ……何か由来があるのか?」 
 「ちみっちゃくて可愛いから!」

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 ベハティがチミチョコの首の後ろを撫でながら答える。ふたりを乗せたチミチョコが牧場を過ぎて南へ進むと、タムタラの墓所へと続く分かれ道にたどり着いた。

 ベハティは首筋の羽毛が少し逆立つのを感じる。以前この近くに用事があって来たことがあるが、何故か不吉な予感が拭えないのだ。

タムタラの墓所

 それは、この場が古代人の眠る墓だからとか、入口近くにまでスケルトンが跋扈しているからとか、そんなこととは全く違う種類の予感だった。「あちら側の存在がこちら側に来ようとするための起点」になっているような歪み。それを肌が感じ、危険を叫んで強張っているのだ。

 ベハティが周囲の異様な気配に生唾を飲み込み、警戒して押し黙っていると、先を歩くベンに声をかける人物がいた。

 「やぁ、また会ったな!」

 明朗な声のする方を振り返る。こちらに手を振るルガディンの大男がいた。白銀の甲冑に見覚えがある。リムサ・ロミンサの冒険者ギルドで二人に声をかけてきた冒険者、ドールラスだ。そばには彼の仲間であろうミコッテとララフェルもいる。

 「どうやら、この『タムタラの墓所』に用がありそうだな。 いつぞやは先を越されたが、今回は負けないぞ! ははは、お互いがんばろうな!」

 突入前の作戦会議中だという彼らは、皆揃って士気が高いようだった。少し離れたところでは、サスタシャ侵食洞で出会ったエレゼンの冒険者、アリアヌと祖父のイジルドールが息を切らしている。空腹のまま走ってきてしまい、へたり込んでいたのだ。孫娘にたしなめられるイジルドールを横目にベハティの方を振り返ると、彼女もまた周囲を見回しているようだった。

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 「どうした、ベハティ」
 「いや、何でもない。今日はあのパーティはいないんじゃなって思っただけ」

 ベハティは短く淡々と答えると、杖を握りしめてベンを見上げる。ふたりは慎重な足取りで墓所の中へと歩を進めた。

 リュウィンから事前に聞いていた通り、中では確かにカルト教団が活動していた。「最後の群民」は異界ヴォイドから妖異を召喚する術に長けており、墓所に眠るグリダニアの英雄・絶対王ガルヴァンスの身体を依代に強力な妖異を召喚しようとしていたらしい。

 ベハティが墓所の入口で感じ取った違和感の源はこの妖異だったようだ。墓所に潜入してから二人で行った妨害工作が功を奏し、妖異がやや不完全な形で召喚されたのは幸運だった。召喚のために敷かれた陣の中心に、妖異の巨躯が倒れ伏す。妖異が粘度の高い泡を立てながら融解し、鼻の内側をひりつかせる激臭を残して霧散した。

 硫黄と潮の混ざったような臭いに顔を顰めたベンが振り返り、ベハティの無事を確認すると、張りつめていた息を吐きだして納刀した。

 「君のおかげで助かったよ。儀式の妨害なんて私一人では無理だからね」
 「いやぁ、たまたま気付けて良かったんじゃよ。しかし思った以上にイカじゃったね。あれをガルヴァンスと呼ぶのは不敬過ぎるじゃろ……。」

 墓所の暗がりから這い出た二人に、晴れたグリダニアの日差しは眩しかった。嬉しそうに駆け寄ってきたチミチョコはそこらの野草をいたずらについばんでいたらしく、嘴の端を葉っぱまみれにしている。

「お〜よしよし、なんじゃおやつ食ってたんか! ……ってドクダミくさ!!!もっといい雑草ならいくらでもあるのにお前変わっとるなぁ、ほれ、グリダニアに戻るぞ!」

 ふたりを乗せたチョコボは陽だまりを纏った明るい風を切って走り、樹上で囀る鳥の声が軽い調子で二人の頭上を飛び交っている。墓所での出来事がまるで絵空事だったかのように、平穏な日だった。

 「しかし不思議だ。妖異……インプやら空飛ぶ目玉なら誰が召喚せずともそこらを飛び回っているじゃないか。私だって森で何度もかじりつかれたし……、何故あの絶対王もどきにだけ、召喚が必要だったんだ?」
 「研究者に聞いた話では、異界とこちらをつなぐ穴が存在しているそうじゃよ」

 チョコボに揺られながら、ベハティが答えた。

 「魂の小さなものならそのまま穴を通ってこちら側に来られるが、強大な妖異……大きな魂ともなると穴を通過できない。じゃからこちら側に奴らが憑依出来る器が必要なんじゃ」
 「今回はその器が、例の絶対王だった」
 「その通り」
 「……ベハティ、何か考えているね。どうしたんだ?」

 ベハティが浮かない顔をしていることが気がかりだった。いつもなら、任務で張りつめて重くなった空気を明るい方へと切り替えるのはベハティのほうだ。どうしたことか今日に限って、彼女の唇は真横に引き結ばれたままだった。

 「何と言えばええのかな、あそこに妖異が取り憑く死体が膨大にある限りあちら側からの干渉は続くと思うんじゃよ。」
 「異界から干渉されやすい『場』が形成されてしまっているから?」

 ベハティが頷く。魔術において、『場』という要素は非常に重要だ。特定の魔術では『場』の状態が術式の成否や質を左右することもざらにある。

 今回「絶対王」の骸を依代に顕現した妖異も、術者の練度が高かったから召喚できたというよりは「タムタラの墓所」という『場』そのものが異界と結びつきやすい性質だったことの方が、要素としては重要だろう。

 「君の『悪い予感』だが、私も同じことを懸念している。あの墓所がある限り異界からの接触は続くだろうね。困ったな。私のような異邦人が墓所の封鎖を提言したところで、相手にはされないだろうし」

 「それに、最後の群民達が結局何をしたかったのかがはっきりせんな。だが、絶対王の骸に憑依した妖異の口ぶりからするにあいつらが呼び出したかったのは妖異ではなくガルヴァンス本人だったのではないかと思うんじゃよね。それにああ言った妖異の類はこちら側に来たくてあれこれ奸計をめぐらしているもんじゃし、たとえばあの妖異がガルヴァンスを騙って囁いて最後の群民達を利用していたと言われてもさほど驚かんね。」

 「……こんな言い方はあまりしたくないんだが、とにかく依頼されたことはつつがなく完了したな。私たちの力が及ぶ範囲はここまでだ。上々だと思う。帰ってカーラインカフェで一杯やろう」

 グリダニアの街に続く小道が見えてきた。チョコボに跨った二人はどちらともなく陽の光を振り仰いでいた。地下墓所で背中に張り付いてしまった陰鬱な死臭を振り払うように、明るい方へ、陽の当たる方へと、彼らは戻ろうとしていた。

グリダニア


―――――
 こんにちは、ベンさんの背後霊です。さくさく進行するのってどうすればいいんでしょうか。

 タムタラの墓所最奥部に出てくる妖異が絶対王ガルヴァンス本人なのか、本人だけど召喚の儀式によって何らかの歪みが生じているのか、それともベハティが推察するように「ガルヴァンス」を騙った別の妖異なのか……最後の群民たちを問答無用でぶっ倒してしまったので、そのあたりがあいまいなままなんですよね。できれば何人かちゃんと取り調べして、後顧の憂いを断つべきなのでは? というのが個人的な感想でした。

 ベハティ、ほんとうになんだろう、いいですよね。思った以上にイカじゃったね。そうなんですよ、イカなんだよなぁ。こういうの、ベンさん一人だとなんの起伏もなく進行してしまうので、ベハティがいることによって物語が二重三重に味わい深いです。

 ちなみにベハティのセリフは自分が頭を捻っても解釈違いなものしかできないので、ちゃんとベハティの背後霊さんに書いてもらってます。なんだろ、自分じゃどうしてもだせねえこの感じ。なんなんだろう。何食ったらこんなおもしろいことが言えるんだ?

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