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自分のこと呪術士だと思っている白魔道士〜その17〜

!ネタバレ注意!
※FF14 メインクエスト Lv17 「カッパーベルで消える夢」

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 剣撃が止み、咆哮が消え、命の音が立ち消えた。巨人の腹には、ベンが突き上げるようにして掲げた剣が深々と突き刺さっている。巨人の傷口から染み出した血潮が剣を伝い、柄を握りしめたベンの掌を紅に染め上げていく。熱い。命を奪ったとき、決まって指先に感じる熱さだった。

 巨人の腹に突き刺さった剣を引き抜くと、眼前の巨躯が膝をつき、地面に倒れ伏した。坑道の床がその身体を受け止め、ずしんと重い振動が銅山を揺らす。天井からゆっくりと砂埃が降り、吊られたランタンの光がぼやけていく。ベハティがベンに駆け寄ると、彼は肩で息をしながら、自分は無事だと短く伝えた。

 巨人の持っていた大きなピッケルが、ランタンの光を反射して鈍く光っていた。一振り一振りが重かった。得物が大きいからではない。虐げられてきた一族の命を、尊厳を、生きる場所を取り戻すために振り降ろされた拳だからこそ重かったのだ。

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 「わしのせいじゃよね……。わしが起こしたから……すまない」
 「君のせいじゃない。今ここで倒されなくても、彼らはいずれ全滅した」

 ベハティが背中を丸めていると、すぐ横からベンの声がした。見るとベンは地面に腰掛け、剣の具合を確かめながらベハティの顔を下から覗きこんでいる。囁くような、小さくもよく通る低い声がした。

 「私がここを無事に出られようが出られまいが、これ以上人間の犠牲者が増えれば我々以外の冒険者か、あるいは鉄灯団か……何かしらの武力が投じられて、彼らは全滅するよ。たとえ君が起こさずにいてもね」
 
 ベンはまっすぐにベハティを見ていた。彼の瞳のヘーゼルが、ランタンから零れ落ちる橙の光を反射して少しだけ赤味を増す。君はもう知っていると思うが、と前置いて、彼は低いが穏やかな調子で言葉を続けた。

 「誰かを守るということは、殺すべき存在を殺すということだ。君は人の命を救ったんだ」

 彼はそう言うと自分の鎧へ視線を移し、各部の損傷を確認しはじめた。

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 ベハティの視線の先には、横転したトロッコが転がっていた。坑道に敷かれた線路は枕木が砕け、鉄製のレールは熱を加えた飴細工のようにひしゃげて捻じ曲がっている。ここで働く作業員たちが、掘り出した鉱石を運ぶために使っていたものだろう。倒れ伏し動かなくなった巨人の大きな背に目を向ける。巨大な体から織りなす膂力はすさまじかった。あの力で暴れられたら、抵抗する術も身を守るための鎧も無い作業員達がどうなるか、想像に難くない。

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 陽だまりの中に残してきたドールラスの大きな体を不意に思い出す。彼もこの光景を目にしたのだろうか。ベハティは彼のことをよく知っているわけではない。言葉を交わしたのも数える程度で、知り合いと言われればそれまでの仲だ。それでもベハティは、彼が何故この道を選んだのかずっと考えていた。

 彼を殺したのは、本当に「目標」だったのだろうか。目標を持ったがゆえに、目標を大きくしすぎたがゆえに、彼は命を落としたのだろうか。

 ベハティはここに至るまで、脱落していった冒険者たちを幾人も目にしてきた。身の丈に合った目標を掲げていれば死なずに済んだのかと言えば決してそうではない。堅実に道を選んでいても、あっけなく命を落としてしまうこともあるのが冒険者たちの現実だ。

 どうして彼はここまで歩いてきたのだろう。ベハティはひしゃげたレールに視線を落とし、手に持った杖を強く握り直す。彼はきっと、自分と同じ気持ちを抱いたのではないだろうか。

 いま、鉱山の中で助けを求めている人々を守りたい。たとえ、ヘカトンケイレス族を虐げたのがかつてのウルダハ人だったとしても。

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  ヘカトンケイレスの咆哮が、鼓膜に染みついて離れなかった。彼らは被害者だったのだ。奴隷として虐げられ、自由を求めて今なお戦っている。それでも今を必死に生きているだけの、何も知らない鉱山労働者を新たな犠牲者にすることを黙認するわけにはいかないのだ。

 鉱山で働く者の中にはウルダハ生まれではない移民も多いだろう。ヘカトンケイレス族の暴動が仮に完遂できたとしても、本来ツケを払わせるべき相手に復讐の刃は届かず、新たな怨嗟と憎悪の上に復讐の芽が吹くだけだ。そうなってしまっては、もはやどちらに正義があるのか是非を問うことに意味はない。

 何より自分の目の前で、伸ばした手指が触れそうなほど近くで、人の命が奪われることを知っていながら動かずにいることなど出来はしないのだ。自分も、そしてきっと、ドールラス達も。

 鎧と盾に負った傷の数と同じだけ、彼らは人を守った。立ちふさがったものの命をことごとく奪い去りながら。助けを求める手を取りたい、放っておけない、そんな気持ちが彼らの命を奪ってしまったのかもしれない。功を焦る気持ちも遠因にはなっただろう。それでもベハティは彼らのことを肯定したかった。足を踏み出し、一歩、また一歩とひしゃげた線路に近付いた。彼らが守りたかったものをもう一度この目に焼き付けたかった。

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 ベンは、自分から離れていくベハティの小さな背中を黙って見つめている。声を掛けようとしたところで、先に口を開いたのはベハティだった。

 「中途半端はいかんよね」

 こちらに背を向けたまま、ベハティは俯いている。風もないのに、ランタンが静かに揺れて光を揺らめかせた。ベハティは膝をつき、仮面を外して胸に抱く。祈るような囁き声がベンの方にまでかすかに聞こえてくる。それは彼が初めて耳にする言葉だった。

 祈りの声が消えるのを待って、ベンが彼女の傍に跪く。

 「……行けるか、ベハティ」

 ベハティは頷くと、待たせてごめんね、と呟いてベンの方を見上げた。

 「私も用があるから、いいんだ」

 兜のせいで目元しか見えないが、彼が微笑んで頷いたのがわかった。跪いてもなおベハティよりも大きな体躯だ。彼は倒れた巨人の背中をじっと見つめていた。

 「私は彼らのしたことを許しはしないし、この先で巨人族に出会っても全力で戦うよ。そう決めたから。彼らを生かしてはおけない」

 ベハティは、ベンの考えていることを読み取ろうと、彼の横顔を黙って見つめていた。

 ベンは不意に立ち上がり、倒れて動かなくなった巨人へと近付いた。顔のあたりで足を止め、横たわる巨人を見下ろしている。ベハティが声をかけようと一歩踏み出した時、彼が不意に屈み込み、巨人の兜を無造作にひっ掴んだ。続けて重い金属音が響く。彼が巨人の身につけていた兜を脱がし、そのまま放り捨てたのだ。兜がひしゃげたレールにぶつかった時の乾いた金属音が、少しの間、あたりに反響していた。それはやや無造作にも思える動作だった。

 「行こうか」

 彼はベハティの方を振り返ってそう言った。ベハティは傍を歩くベンに、何故巨人の兜を脱がせたのかと尋ねた。彼は少し迷うような素振りを見せ、慎重に言葉を選んで口に出した。

 「……わからない。…………ただ、奴隷のまま……死なせたくなかった。あの兜……私には、奴隷の証に見えたから。あのままにしておきたくなかった」

 ベハティの瞳に少しだけ光が戻る。暗くて寒い夜の森を彷徨い続けた日のことを思い出したのだ。

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 遊んでいるうちに親から離れて時間も忘れて過ごしてしまい、気づく頃には月の光すら差し込まない暗闇の泥の中を歩いていた。やがて喉の奥が冷え切って硬くなったころ、ようやく巣の近くにたどり着いた。

 きっと母と祖母は怒っているだろう、叱られるだろう、と思うのに、明かりのついた巣の入口を見ると、伽藍堂で力の入らないお腹の中にトンっと心地よい重さが取り戻されるような感覚がした。

 彼の厳しい優しさは、自分を救ってくれるのではないかと思ったのだ。だからこそ、彼だけは何としても生かそうと、そう決意した。

 「君は何て言っていたんだ、さっき」
 「さっき?」
 「祈っていたろう、彼に向かって。言葉の意味はわからなかったが」

 ベハティは淡々とした声で、あれはカラス――ベハティの生まれた部族の言葉だと答えた。意味を尋ねると、一拍置いて小さな唇が薄く開かれる。

 ――授かった羽でまた一つの森を奪います。重さで飛べなくなろうとも。――

 「…………。」
 「無論、わしのエゴじゃよ。わしは……終わらせて欲しいと思うから」

 声の調子は軽いままだが、ベンにはとても重く聞こえた。ランタンに照らされた二人の影が連れ立って、坑道の奥へ進んでいく。彼女は、終わらせてほしいという願いを、自身を主語にして口にした。

 ベンは、ベハティと初めて仕事をしたときに目を通した資料の内容を思い返していた。終わらせて欲しいという言葉の意味を追いながら。

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あとがき(ベハティ背後霊)

お久しぶりです(恒例)
実はこのあたりのあとがきも前回のあとがきで結構書いてしまったので特筆していうべきことはありません!

ベハティは自分がこれからする行為の残酷さと悪辣さを理解しつつも、「それでも自分は人間社会に生かされて、人間に助けられてきた」ので人間を助けます。それは相手がヘカトンケイレスであろうが竜であろうが変わりません。仮に人間が悪いのだとしても、そうでない人を十把一絡げにしたくはないのです。

ヘカトンケイレス族にベハティの友達がいて、助けを望むのなら彼らに刃を向けることはせずに和平の道で戦うのでしょうが、今回はそうはならなかったことが残念です。

あとがき(ベンさんの方・長くなってしまった)

書いた後Twitterに放り投げていたことをあとがきに書くべきでは? と思ったので移植しました

小説の流れと構成(ここで何が起こってどうなる)はベハティ背後霊氏が考えて、二人の反応はそれぞれが書いてるんですが、個人的にベンさんがヘカトンケイレスの兜をブン投げたとき、ベハティがあんなことを考えたとは完全に予想外でした……。尊いなって思いました……。

ベンさんは本当になんとなく、しなきゃいけない気がしてやったので誰に何を示したかったわけでもないのですが、ベハティ背後霊氏いわく「その何気ないところに出るから(心が)」とのこと ちゃんとけじめをつけて後始末をしてくれている、親に通ずる優しさを感じたんだそうな 

ベハティの心情(夜遅くまで出歩いたあと、灯りのついた巣の入り口を見た時のことを思い出した)はもちろんベハティ背後霊氏が書いてるので、なんだろう、言語化の非常に難しい、安心感のようなものをそう表現するんだなぁ〜〜〜とひっくり返りました 俺にはできねえ

基本的に、全体の展開と構成・ベハティのセリフ&心情&情景描写=ベハティ背後霊氏、それ以外のベンさんの動きやら台詞&心情の絡まない地の文=わたし が書いております。ベハティさんの考えた話をそれっぽい形式に書き起こしているのが私、というような図式なので9割方ベハティ背後霊氏が書いてる話です。

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