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「音を視る 時を聴く」坂本龍一@ MOT、鑑賞レポ

東京都現代美術館(通称MOT)で開催されている「音を視る 時を聴く」坂本龍一を鑑賞してきましたので、その感想などをお伝えしたいと思います。

ちなみに、以前この展覧会をご紹介した際に「回顧展」と書いてしまいましたが、全年代の作品展示がある訳ではないので、表現としては誤りでした。

 

現代美術館でやる以上は、現代芸術の範囲で評価が可能な作品を取り扱うと考えるのが真っ当でしょう。坂本龍一氏(以下教授)は作曲家でありピアニストですが、近年〜晩年はメディアアーティストとの共作や、インスタレーション・アートの作品も多く手がけられていたので、今回はそれらの作品のうちいくつかが展示されていました。


MOT入り口

絵画や彫刻と、音楽や動画の展示上の最大の違いは、音が鳴り、作品に時間的制限があること。もっと言えば、複数の作品が展示されている状況で、その複数の作品それぞれに含まれる音が混ざって聞こえてしまう事があるということ。現状、美術館は基本的に絵画や彫刻、造形物などの「作品に音も時間も含まないメディア」の展示が主なため、この点に対して対策が採られている場所はほぼ無いと言っていいんじゃないでしょうか。


思ったよりも「明るく」写ってしまった

今回の展示はMOTの1階と地下2階に分かれ、壁や防音幕で区切られていたものの、完全に個々の作品展示の独立性を確保する事は出来ていなかったと思う。ただ、俺は個人的には、美術館で展示するなら他の展示物との相互干渉、そして観客の存在自体も含めて作品として評価するべきじゃないかなと思っている。

映像や、動くものと楽曲を融合させる際、あまり分かりやすい主旋律のある楽曲だと、その曲だけが浮き立ち過ぎて、あまり総合作品にする必要がない(別々のものとして伝わってしまう)から、どうしても使われる音素材は音響系など、旋律や展開に乏しく散発的なものになりがち。ただ、それは教授も把握されてたでしょうし、近年の教授の音楽的嗜好がそちら側に寄っていった事がむしろ功を奏したのかなとも思う。


観客まで含めて作品として評価する

で、今回の展示で特に強く感じたのが、やたらダムタイプの高谷史郎氏との共作が多かったことと、アルバム「async」がターニングポイントになってたんじゃないかということ。おそらくだが、過去の作品は映像に合わせて音を作りパッケージングした上で、観客への提示方法で工夫する点に主眼が置かれてたじゃないかと思うが、近年に遺した作品だと音と映像、画像などは擦り合わせこそあれど別々に用意し、片方(もしくは相互作用)を変数としてリアルタイム処理しながら表示させていくやり方にチャレンジしてたんじゃないかな。


個人的には天井から吊るされた水槽の上から映像を投影して水槽の下から覗き上げて見る展示のやつが良かった。しばらくその展示を見て部屋を出ると、前の部屋で映し出される「映像→ 静止画→ 単色に分解」の後ろ(空間自体)で流れる「andata」。もうこの曲のパワーは強烈なんだわ。圧、エネルギー、パワーどれも表現として真芯は捉えてないんだが。その場から動けんようなるわ。

地下2階の中庭では人工的に霧を発生させながら音を流し続ける展示がされていたが、どう考えてもずぶ濡れになりそうだったんでガラス越しに眺めただけ。

 

ラストの展示は(ネタバレ書きます)教授の演奏をダイレクトにMIDI録音し、その運指の通り鍵盤が弾かれるMIDIピアノを用意。そこに演奏してる教授のホログラム映像を同期させるという、新しそうに聞こえてだいぶ昔の技術で作られた展示(製作年は97年だったかな)。そこで2曲、教授の「バーチャル演奏」を見られたんだが、個人的にはこれがかなり良かった。ライブ映像とは違う、故人の演奏を生で見てるような不思議な感覚でした。


「古典的」だけどグッと来た

展示を全部見終わった後はグッズショップへ。過去作のアルバムジャケットをプリントしたTシャツやトートバッグが売っててすげえ欲しくなったが、貧乏人には厳しいお値段。ちなみに、このグッズショップはチケット持ってなくても入れる場所にあるのでグッズだけ欲しい方でも来てみたらいいかもしれません。今展覧会のビジュアルブックは来年2月の販売予定だそうです。

来年3月30日まで開催されておりますので、ご興味ある方は行ってみてはいかがでしょうか。

 

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