異心円の表示管
バイトで朝から粗大ゴミをひたすら回収していた時、集めたゴミの中の古いブラウン管テレビが、異様な音を出し始めた。画面が点滅を繰り返す。
突然のことに固まってしまった私の目は、テレビに映る男の姿をしっかり捉える。
映像は音声と共に独りでに動き出す。番組が普通に流れているかのように思うが、そんなはずはない。テレビ放送はとうにアナログから地デジに変わっているし、なによりこれは粗大ゴミだ。電気も電波もクソもない。
するとなんと次の瞬間、画面の男が声をかけてきた!
「ねぇ、君」
「えっ、電気通ってないんですけど?意味不明」
「そこを気にするのかい、僕が声をかけたことじゃなく」
「いや、確かにそれだわ。なんで私に喋ってんの?」
「申し訳ないんだけど、君にお願いがあって」
画面の男の事情を聞くと、どうやら男はふとした時にこのブラウン管テレビに閉じ込められてしまったらしい。
「誰かにキスしてもらえれば出れるみたいなんだ」
そんな馬鹿な。下手くそな白雪姫じゃあるまいし!
得体の知れなさにドン引きする。
けれどもなんだか男が可哀想になって、私はブラウン管のテレビ画面に顔を近づける。
これって、キスしたら代わりに私が閉じ込められるとかそういうことは無いよね?
そう思ったけれど、ものは勢い、今更止まれない。
#即興小説トレーニング #小説 #短編小説 #掌編小説 #創作
お題「勇敢なキス」必須要素「ブラウン管」
制限時間「15分」
即興小説トレーニングでの作品を、少々加筆修正しています。元はこちら
http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=503367
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