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香水ガムが29年ぶりに復活
買い物から戻った女房が、「懐かしい物を仕入れてきたよ」と言いながら、エコバッグから板ガムを取り出した。俺は一瞬、首を傾げた。板ガムが珍しいって何だ? ここ数年、コンビニの棚に並んでるのを見かけないわけじゃない。ただ、あんまり目に入らなくなっただけだ。それで女房がわざわざ買ってきたのかと、頭を巡らせながら相槌を打った。
だが、そのガムのパッケージを見た瞬間、懐かしさのわけが腑に落ちた。金色の地に赤い丸が浮かぶ、あのデザイン。噛んでみりゃ分かるが、このガム、香水みたいな匂いがするんだ。名前は「イブ」。俺が社会人になりたての頃、タバコが吸えない場面で、代わりに口に放り込んでいたやつだ。
後で調べてみたら、「イブ」は1972年に発売されて、1995年頃に姿を消したらしい。それが最近、29年ぶりに復活したんだと。売り文句は「キンモクセイをベースにした華やかな香り」。ガム市場が少しずつ息を吹き返してる上に、若い連中の間でレトロブームが沸いてるのが理由らしい。
確かに、禁煙してた頃はガムに随分世話になった。もっとも、健康のためってよりは、金欠でタバコの値上げに耐えきれなくなったのが本音だ。それ以来、ガムを噛む機会もめっきり減ってしまって、せいぜい運転中の眠気覚ましに、丸い容器の粒ガムを口に入れるくらい。板ガムなんて、ほんと久しぶりである。
一枚噛んでみて、昔の味を噛み締めた。が、驚くべきことに、今の今まで俺も女房も、このガムの香りを「バラの花の香り」だと勘違いしてたことが判明した。なんとも情けない話だ。キンモクセイの香りだなんて、言われなきゃ気づかねえよ。
そういえば、黄色いパッケージの「クイッククエンチ-Cガム」も復活したらしい。時代は巡るもんだな。懐かしさに浸りながら、もう一枚ガムを口に放り込んで、俺は小さく笑った。
追伸。
姉にこの話をしたら、やはりバラの香りと記憶していた。そこで再度調べたら、バラの香りバージョンもあったみたい。見た写真は韓国て販売されているものだったが、こちらのパッケージは薔薇の絵柄が描かれている。こちらのパッケージの方が記憶に残っている。