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海外研究留学奨学金、採択にむけて① (Fulbright編)

こんにちは、澤田彬良(SAWATA, Akira)と申します。
現在、アメリカ合衆国ミネソタ州(ミネアポリス)に所在するミネソタ大学(University of Minnesota)という大学の博士後期課程プログラムに在籍しています。専門は高等教育・大学研究フェミニズム・批判的セクシュアリティ研究人類学で、大学×国際化、大学×セクシュアリティを主軸にフィールド調査を行っています。
*私の研究詳細にご関心を持ってくださった方は以下のresearchmapも併せてご覧ください。

 本記事では、アメリカ博士課程留学において最も懸念されることのひとつ、財源逼迫に着目して、海外研究留学奨学金に関する情報を紹介してみようと思います。
 私が採択された奨学金は以下の3つです(①Fulbright Scholarship(大学院留学GS)、②JASSO(海外留学支援制度/大学院学位取得型)、③ミネソタ大学研究科プロボスト・フェローシップ)。今回の記事はその第1回目として「①Fulbright Scholarship」に関して申請→予備審査→書面審査→面接審査のすべての過程で私が経験したことを、ざっくりかつ網羅的に書いていきます。

なぜこんな記事を書いているのか

 この記事は、海外研究留学奨学金(Fulbright Scholarship)についての情報を時系列的にまとめた全文無料記事です。「合格談」と称して有料記事化してノウハウ提供することも思い付いたのですが(何しろ金欠なのです💦)、やめました。
 なぜそんな”お人好し”をするのかというと、①留学生研究に携わっている身として多くの方に海外研究留学をより身近に感じてほしい、②申請から合格に至るまでの私自身の経験が「孤独な闘い」そのものであったため申請者・申請を考えている人の孤独感を拭いたい、という二つの主な理由があるからです。
 特に②の理由については、修士課程の所属先では海外(米国)博士進学を目指す学生が周りにおらず、修士論文を執筆しながら申請書を揃える作業に心身ともに疲労がたまり一時入院にいたるまで参ってしまった過去があります。持続的な研究生活を送るためにも財源確保は重要なファクターですし、そのことで心労を重ねている学生は(私をふくめ)大勢いることと思います。この記事をお読みくださった方がそれ以前よりかは少しでもクリアな見通しを持って、少しでも自信を持って海外研究留学を計画できるように。そんな記事になっていれば幸いです。
 また、ちょうど昨日今日あたりで、学振の結果が出たということをX上の大学院生仲間たちのポストから拝察しました。気休めになるかはわかりませんが、私のDC1申請書は最低評価の不採択Cで、同分野(教育学)の同年代研究者のなかで50%以下に満たない出来、という評価を喰らいました…。書き方や戦略に問題があったんだろうなあと思いつつ、同研究テーマで上記3つの海外奨学金に採択されたという経緯がありますので、どうか皆様、ご自身の研究テーマを愛してあげてください。

 さて、以下が本記事の目次です。
 正直、「このようにすれば必ず採択される」というような直接的な助言はできかねると考えています。なにしろ採点基準などが明言されていませんので、採択/不採択を分けるポイントは私にはよくわかりません。ただし、いち採択者として私自身の経験を共有することはできますので、本記事では主に「私はこのようにした」という経験をまとめることに徹したいと思います。

Fulbright Scholarshipの概要

フルブライト奨学金は以下の目的を掲げる、日米政府、公益財団、民間企業等が合同出資する奨学金です。

フルブライト・プログラムは、奨学生に対してそれぞれの専門分野の研究を進めるための財政的援助を行うとともに、何らかの形で日米の相互理解に貢献できるリーダーを養成することを目的としています。従ってフルブライト奨学生は各自の研究活動を行うだけでなく、それぞれの留学先や地域社会・文化等の様々な活動に積極的に参加することで両国に対するより一層の知見を広める事が期待されています。また、帰国後も同窓生として専門性の高い職業あるいは私的な活動を通し て、直接的・間接的に日米関係の向上に貢献することが期待されます

2025年度 日本人対象アメリカ留学フルブライト奨学生募集要項より

 フルブライト奨学金のなかには5つの異なるプログラムがあります。それぞれ留学目的や滞在年数等が異なりますので自分の留学目的に合うものを選ぶことになります。私は「米国大学にて博士号(学位)を取得する」というタイプの留学のため、「大学院留学プログラム(GS)」に申請しました。
(その他のプログラムは、大学院博士論文研究プログラム、研究員プログラム、ジャーナリストプログラム、フルブライト語学アシスタント(FLTA)プログラムです。)

 2025年度から募集要項に一部変更があり、申請可能な研究分野が拡大されました。人文科学、社会科学、自然科学、応用科学(工学を含む)が申請可能分野とのことです。来年度以降もこの要項が継続するのかはわかりませんが、注意しておきたい点です。私が採択された2025年度は人文科学、社会科学の研究分野に限られていましたので、この傾向が今後の倍率や採択者の分野傾向にどのように影響するかもまだわかっていません。来年度以降に申請される方は今年度の採択者情報(まだ更新されていませんが)を確認されてみるとよいかもしれません。

申請から採択までのおおまかなスケジュールは以下の通りです。

2月:募集発表
3月〜5月:オンライン登録期間
5月〜6月:予備審査
7月:申請書類の提出期限
8月〜9月:書類審査実施→結果通知
9月〜10月:面接審査実施(面接1〜2週間前に結果通知と面接日時通知)
11月:選考結果の通知
5月:留学大学の決定
7〜9月:渡米

予備審査について

 予備審査は、「研究計画の妥当性」と「募集条件」を確認するプロセスです。この時点ではオンライン登録を求められる情報を提供するだけで大丈夫でした。内容としては以下の質問タブに回答を書き込むというものでした。

  • Explain the content of your research.

  • If your specialization is different from bachelor’s, master’s, and doctorate's, why and how can you conduct this research?

  • Why do you think your research fits the Project Areas of the Fulbright Scholarship Program?

  • Why do you need to do this research in the US at this timing?

 私の場合はこの時点でもある程度詳細な情報を、論理的に提示できるように3度ほど書き直しをしました。一つ目の質問については、問題の所在・研究目的・リサーチクエスチョン・研究方法と対象・研究貢献をまとめました。四つ目の質問には研究方法として前述したものを絡めて回答し、いかに米国大学での研究が欠かせないか(日本ではダメなのか)を強調しました。

 また、これは個人的なおすすめですが、予備審査の合格通知は待たずに書面審査にむけた申請書類の準備をすぐさま進めていくのがベストだと思います。ウワサ程度の情報ですが、「書類審査(8月~9月)」で結構なスクリーニングがなされると耳にしていたので、「申請書類は丹精込めて仕上げる」ことを心がけるようにしました。

書類審査について

7月締め切りの書類提出には次のものを揃える必要があります。

  • 英文研究計画書・文献表(A4/1ページ・文献表別紙の場合2ページ可)

  • エッセイ(和文・A4/1ページ)

  • エッセイ(英文・A4/1ページ)

  • Curriculum Vitae(和文・4ページまで)

  • Curriculum Vitae(英文・4ページまで)

  • Form 1 補足情報(出願予定の米国大学リスト、海外滞在経験など)

  • 英文成績証明書

  • 推薦書(2通)

  • 印刷したオンライン願書(5月に提出したもの)【郵送】

  • Form 2 審査グループ回答用紙【郵送】(*この用紙の回答情報によって書面審査委員の専門分野が決まります。私の場合は「教育学」にしました。)

  • Form Biodata Sheet(顔写真+署名を記した文書)【郵送】

なかでも書面審査の結果に大きな影響を与えるのは、英文研究計画書・文献表エッセイ(和文・英文)Curriculum Vitae(和文・英文)英文成績証明書Form 2 審査グループ回答用紙、そして推薦書の5点だと思います。

英文研究計画書・文献表

 提出書類のなかで私が特に時間を割いたのはこの研究計画書と、次に紹介するエッセイです。
 私の場合、博士課程の研究計画は学振(DC1)に向けた準備で春先にある程度進めていたこともあり、これをベースにして調整を重ねました。内容としては「Research Background」「Research Questsions」「Research Methods」「Significance」を小見出しにして論理的一貫性と米国の研究動向を意識したものを執筆しました。
 工夫した点は、参考文献を全て英語文献にしたこと(特に出願予定の大学教員の文献を入れました)、審査グループの専門家がわかる範囲の用語を用いること(人類学やクィア研究の専門用語は使用を避けました)、比較的近年の文献を多く参照すること(2010~2023に刊行された論文・文献を参照しました)です。とくに二つめの点に関して、どんな研究者も多数の軸をもって研究にあたっていると思いますが、あくまで審査グループの専門家に伝わる内容でなければ正確に審査してもらいにくいと考えます。塩梅は難しいですが各分野の研究者が普段から使用する語彙を中心とし、キーワードとなる用語については説明を計画書内に盛り込むのがよいかと思います。
 また、これは研究活動のどの局面でも当てはまると思いますが、一人で考え込んでも私一人分のアイデアしか出てきませんよね。ということで、私は複数の先生方に読んでいただきフィードバックをいただきました。特に、教育学者でありつつクィア理論やエスノグラフィ調査を専門とされていない先生方からのご質問やフィードバックは面接対策にもそのまま活きるものだったと記憶しています。
 参考文献の数に基準や制限はありませんが、参考までに。私の場合Referenceとして12件の論文・書籍、Bibliographyとして本研究に欠かせないマイルストーンを中心に8件の論文・書籍を2ページ目にまとめました。

エッセイ(和文・英文)

 この「エッセイ」というやつがなかなかの曲者。とくに日本で大学(院)進学を経験してきた者にとっては、馴染みのない出願資料かと思います。
 とくに米国大学の場合、多くの大学が「Statement of Purpose」または「Personal Statement」と呼ばれるエッセイの提出を求めます。私が理解しているところでは、これらのエッセイは「あなたはどんな人生を送ってきて、どういう経緯でこの研究(分野)に打ち込むようになって、これからどうなっていきたい/していきたいのか」を出願者らに問うているのだと思います。米国大学出願の際にはエッセイのなかに研究計画を盛り込むことが期待されると思いますが、フルブライトの場合、研究計画とエッセイが別々の出願資料になっているので、エッセイにおいては「人生経験や今後の目標と米国研究活動との一貫性」に重点を置いて書くことが求められているように思います。
 ここは個性が出るところだと思いますが、私の場合、幼少期からの生活経験、「教育機関」と呼ばれる場におけるトラウマ経験と回復経験、大学時代・大学院時代に行ってきた研究活動と社会貢献活動、これらの経験に紐づいた問題意識→米国研究活動への発展性、留学後の学術貢献・社会還元、について、研究計画の内容と一貫して読めるように記述しました。何しろA4/1ページが制限なので、抑えるところと強調するところを調整しながら10回ほど書き直しました。
 この際には、米国大学院に留学されていた(る)先輩にいろんな経路で繋いでいただいて、何度も助言をいただきました。振り返って運が良かったなと思うのは、修士課程に面倒を見てくださった一人の先生がフルブライターでありその先生にフィードバックをいただけたことと、ミネソタ大学の現指導教員が親切心で繋いでくださった同大学の先輩(アメリカ人の方)に読んでいただけたことです。やはりフルブライト採択者の方に読んでもらうのは重要だと感じますし、日米の架け橋になるというフルブライトの目的からして、アメリカで研究をされてきた方・アメリカにおける各分野の動向に明るい方に読んでもらえる機会があれば非常に有益だと思います。
 補足ですが、併せて提出が求められる英文成績証明書において、学部時代や終始時代の成績がふるわない方は、釈明の余地がある場合に限り、エッセイ上のライフストーリー譚で軽く触れるのもありだと思います。私は学部時代に一度ガクッと成績を落とした学期があり、その理由をふんわり盛り込みつつ、その後の勉学に努めたことを書き入れました。

Curriculum Vitae(和文・英文)

 CVと呼ばれる、こちらで言うところの「履歴書」です。書式指定がないため色々書き方があると思いますが、私は米大学教員らのCVを見本にして作成しました。内容としては、研究分野とキーワード、職歴、学歴、受賞歴、研究論文、研究発表、講演活動、研究協力、その他の社会貢献活動をまとめました。
 特にアピールできたと思う点としては、査読付き英文論文1本と査読無し英文論文2本を持っていたこと、学部時代に学業成績優秀者として選出いただいたことを受賞歴に書けたこと、研究協力として修士時代にテーマの近い先生のお手伝いを米国でさせていただいた経験を書けたこと、幅広い社会貢献活動の経験を書けたことでしょうか。この記事をお読みの方がまだ学部生であったりM1であれば、今のうちから色々なことに取り組んでおくことをお勧めします。申請直前の方であれば、「書式指定がない」という点をうまく活用して、「どのような項目があれば(なければ)自分の業績・実績がアピールできるか」について練られてみるとよいかもしれません。とりあえず書けることを沢山書いて、CVが充実しているように見せるというのは一つの真っ当な技法だと私は思います。

推薦書(2通)

 私は推薦書の執筆を、①修士時代の指導教員、②修士時代に面倒を見ていただいた教員(フルブライター)のお二人に依頼しました。お二方とも私の活動を間近で見守ってきてくださった方ですので迷いはありませんでした。
 推薦書の依頼についてはいろんな方法があるかと思いますが、私はそれぞれの先生にワードファイル1枚ほどでまとめた「私のアピールポイント」をお送りいたしました。推薦者それぞれが知っている私の側面のなかでも、特に強調したい点をこちらから提示しておくことは、推薦者の負担感を和らげるためにも、素敵な推薦書を書いてもらうためにも大切だと思います。先生方はみなご多忙ですし、必要以上のご負担にならないように注意したいところです…。
 ちなみに自分でアピールポイントをまとめておくことは、それぞれの推薦者の記述内容が重なってしまうことを防ぐことにも繋がります。私の場合は、指導教員には研究活動に重点を、もう一人の先生には社会活動に重点を置いてアピールポイント資料をお送りしました。

面接審査について

 9月に入ってもなかなか書類審査結果通知メールが届かず、この頃は毎日ソワソワしながら、メールを開いては閉じを繰り返していました。
 メールが届いたら、そこから2週間足らずで面接日です。予備審査後の動きにも書いた通り、書類審査を提出した時点で「自分は書類審査を通知した!」と自己洗脳をして、面接準備に向けて準備するのが賢明かと思います。私は書類提出から1週間ほど休憩を入れてから面接準備を始めていました。
 面接について、その質問内容を公言することは規制されていたと思いますので詳述しませんが、ヒントになりそうなことだけまとめておきます。

 2024年度はオンライン面接ということもあり自宅でスーツを着てパソコンの前でガチガチになっていたことを覚えています。面接は15分ほど(?)で、3名の研究者らによる英語質問への応答が中心です。Zoomミーティング内には3名の先生方のほかに6~7名のフルブライト奨学金関係者も参加していますがこの方々は私の応答を見ているだけで質問はありませんでした。
 質問内容は、研究内容や対象・手法に関する確認や批判的な質問がきたかとおもいきや、続いて将来像に関するものがきて、また研究について…というように、ザックバランなものを次々に浴びるという感じでした。一つ確かなことは、「7月に提出した資料については何を聞かれても答えれるようにしておく」という戦略が実を結んだということです。就活のように想定質問を練ることも大事ですし、いわゆる「当然聞かれる質問」は確かに面接内で聞かれましたが、「そこ突っ込まれますか!」みたいな質問もいくつかありました。少なくとも自分が研究計画A4/1ページにまとめた内容については、用いた語に責任と熱意を持ちながら、スマートに正確に答えられるように準備しておくのが良いと思います。
 面接の雰囲気については、和やかであるという噂も聞いていましたが、私の場合は(オンラインだったから?)そこまで和やかな様子でもなく、私だけがニッコニコで、研究者のうちお二人はかなり真剣なご様子でいらっしゃったように記憶しています。雰囲気なんてものは、その場にいる人や環境によって刻々と変化するので、口コミ等をあまり信用しすぎず、どんな雰囲気でも戸惑ってしまわないように練習しておきたいところです。

  面接練習については、申請書類を見ていただいた方や、研究室の後輩たち(うちの研究室は学部生含めとても頭のキレる人たちなのです)にもご協力いただきました。私の場合は研究以外の質問もいくつか受けたので、色んな背景の方に練習を付き合っていただけたことは功を奏したと思っています。
 余談(?)ですが、私の場合、緊張すると声のトーンが落ちて専門用語を並べながら冗長に話しがちということをとある先生に指摘されたため、中学校の音楽の先生(ハキハキ・結論ファースト)と近所のおばあちゃん(和やか・物腰やわらか)を心の中に置いて面接を受けていました。

採択までの道のりを振り返って

 申請から採択にいたるまで、実にたくさんの方々にご助力いただきながら奔走してきたということを改めて実感します。手続きや提出物、留学生送り出しに関する政治的力学などについて色々と思うことはあるのですが、お金がないとそれらを研究することもままならない。だからこそ、奨学金に採択されるために為せることはなんでも(倫理的な行為である限りにおいて)為せたらいいと私は思います。
 海外で学位を取得している研究者をみるたびに、「私とは違う世界を生きているな〜この人たちは」と思ってきました。経済コンプレックスからは今も抜け出せずにいます。それでも、海外研究留学を支援するツールは実はたくさん転がっている。それらに近づくための社会資本、文化資本を欠くがために「海外留学する(できる)人たち」という層が再生産されつづけてしまうのは大変心惜しいと思っています。少しでも関心のある方が、以前よりも少しでも前向きに海外研究留学を計画できるようになることを願っております。

今現在も含め、博士課程修了までは忙殺されていると思うのですが、本記事を読んだ上で更なるご質問やご相談があればご連絡ください(連絡先はresearchmapに記載しています)。

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