その場所は、とっておきの”隠れ家” Ayumiの歴史さんぽ~鎌倉編~
あなたには、「とっておきの隠れ家」があるだろうか。
疲れた時、悩んだ時、ふらりと行ってほっと息をつける場所。
人には教えたくない、思わず独り占めしたくなる空間。
それは何も大層な場所ではない。
例えば最寄り駅に通じるちいさな小道とか、誰もいない公園とか、夕暮れ時の河原とか。たぶんそんなとりとめもない場所だ。
かくいう私にも、そんな場所がある。
鎌倉にあるひとつのちいさなお寺。名前は「海蔵寺(かいぞうじ)」。
小学生の頃からずっと、私のsafe placeになってくれている隠れ家だ。
海蔵寺は、鶴岡八幡宮や小町通、といった観光スポットの喧騒から離れた所にある。
住宅街の奥、谷戸に囲まれて立つそのお寺は、いつ訪れても、参拝客がまばら。
そう、海蔵寺は、いつだって吸い込まれそうなほど静かなお寺なのだ。
勉強や人間関係に疲れ切ってしまった高校時代のある休日。
境内に座って、何時間もぼうっとしていたことを思い出す。
いまでもあそこは、私にとってかけがえのない空間だ。
小学生の頃から、もう何十回と足を運んでいるけれど、
境内に入る前、私が必ず足を止める場所がある。
門に続く道の右手。参拝者が素通りしてしまいそうな場所。
そこにはいつも、私を出迎えてくれるちいさな井戸がある。
名前は、底抜井(そこぬけのい)。
子供の頃、はじめてその名を聞いた時、私はきっと、底が見えないくらい深い井戸なんだろうと思った。
けれどわくわくしながら覗き込んだ小学生は、あっさり期待を裏切られる。
底なし沼?と期待していたその井戸は、びっくりするほど小さく、浅く、濁った水の底に石がたまっていたからだ。
ではどうして、「底抜」の井戸なんて名前がついたのか?
実は井戸の深さとは関係ない。
この井戸に水を汲みに来た女の桶の底が抜けてしまった…という逸話から付いたのが、この名前なのである。
私は海蔵寺を訪れるたび、この井戸に“ご挨拶”をしてから門をくぐるようにしている。
ちょっとした、人生の道しるべのような存在だ。
もし、あなたが鎌倉を訪れたなら。
そして人でごった返す観光地に疲れてしまったなら。
ふらりと、このお寺を訪ねてみて欲しい。
静寂の中で深呼吸をすると、きっと得るものがあるだろう。