『社畜と幽霊』について
『社畜と幽霊』は日日ねるこ氏によるホラーコメディ漫画である。
日またぎ残業上等のブラック企業に勤める社畜サラリーマン、背山が深夜の会社で遭遇する嫌がらせのような怪奇現象の数々。その元凶は不気味な女の幽霊であったのだが、激務と過労で心が荒んだ背山は時に無視し、時にメンチを切り、時に激昂するのだった。
この漫画の肝の一つは、幽霊がかわいくないことだと思っている。かわいくないと言い切るだけでは語弊があるかもしれないので言い換えると、一般的なかわいい美少女キャラクターの記号を上手く外しているということだ。
パサパサの黒髪、落ち窪んだ眼窩に見開いた眼、乾いた唇をすぼめた口元。ふとした瞬間に生前の姿が垣間見られてドキッ!などということはない。少なくとも美少女の看板で売るからかわいいのを持ってこいと言われて出すデザインではないだろう。それでいて見ようによっては愛嬌のある絶妙なバランスで成り立っている。
幽霊は不気味な笑いやうめき声を上げるばかりで言葉は発さないが、怖がらせに来たり調子に乗ったり自分がビビったり引いたりと、幽霊ムーブに加えて表情やリアクション(特にムカつく方面の)で楽しませてくれるキャラクターだった。日日ねるこ氏の真摯にホラーコメディというジャンルと向き合う姿勢の賜物だろう。
黒髪白ワンピースで地味だけど端正な顔立ちに薄幸要素を加えた程度で幽霊ですなどという妥協を許さない気概を勝手に感じている。
幽霊のキャラクターについて言及してきたが、作中にはコメディの文脈を抜きにして切り取って見るとけっこう気味の悪い場面もあり、ホラーコメディを全うした作品だった。特に背山のビームで爆散してから復活途中の幽霊が出る回がお気に入りだ。