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子育てパニック 子離れ

 朝の目覚めは、ウグイスやシジュウカラのおしゃべりから始まる。
 もう少し寝かせて欲しいのだが、今年生まれた鳥たちは、窓近くの桜の木に集まっていたり、恐れることなく窓の前の電線に止まって鳴いている。
 まだ羽ばたけない早春、椿の木からコロコロと落ちていた子たちが、さえずっていることが愛しい。(多少うるさいが…。)
 前の前田さんの家の軒先に、そろそろ燕が巣を作りそうだ。
 この頃になると思うことがある。
「真愛のもとを巣立った子どもたちが、
 どうしているのかな?
 元気でいるのかな?
 うまくやれているのだろうか?」
 まさしく、さだまさしの「案山子」である。
 真愛も厚洋さんも息子が家を出て、一人暮らしを始めた年の今頃。
「アイツ何も言って来ないけど、
 ちゃんと学校行ってるのかな?」
「うん。朝食べてるのかしら?
 お金使いすぎて、
 困ってるんじゃないかしら?」
「おい。電話してみろよ。」
「えー。あなたが掛けてみて!
 なんて言っていいか分からないもの。」
 心配で仕方がない両親が、電話もかけられなかった。
「一人でやれるなら、やってみろ!
 その代わり、自分で決めたことだ。
 泣きを入れるな。」
なんて言った以上、親父から電話はかけられない。
 息子との別れが切なくて、引っ越しにも行けなかった母親。
「じゃ。」だけで、見送る事もしなかった。
 ちいちゃくて可愛くって、「私の…。」だったのに、いつのまにか、大きくなり文句もいい。しっかりした男になった。
 真愛の元から去って行く息子を誇らしく思ったし、寂しかった。

 年度末、年度始めは、学校も同じだ。
 手塩にかけた愛し子の巣立ちを迎え、泣き虫の真愛は毎日のように泣いていた。
 彼らの成長の喜びと別れの寂しさに耐えられないのだ。
 しかし、2週間後には、新しい子どもたちと巡り会い、新しい年度の準備をする。
 目が回るほどの忙しさで「寂しさ」をしばし忘れる。
 真愛も教員をやっていたので、息子の事は気になっていたし、主の居なくなった部屋を見るのは切なかったが、会えなくても我慢が出来た。
 しかし、5月の連休を過ぎると年度始めの仕事も落ち着き、平常に戻る。
 平常に戻ると、時間のゆとりが出来て思い巡らすことが多くなる。
 無性に息子に会いたくなるのだ。
 それも、男だからなのか、我が息子がそうだったのか、よく分からないが、
「全く、音沙汰なし!」だったのだ。
 今のようにLINEで毎日、安否確認なんてできない。
 そうなると、良くない想像をする。
(ご飯が食べられず、
 栄養失調で倒れているのではないか。)
(学校でうまく行かず、
 引きこもっているのではないか。)
(お金がなくて、
 悪い事に手を出しているのではないか。)
 なんとも、息子を信用してない悪い母親である。
 その点、厚洋さんは、
「大丈夫、なんとかやってるよ。
 何もないのが無事の知らせ!」
と、息子を信じている。
 厚洋さん自身、拓と同じ年に母親の元を離れているので、分かったのだろう。
 しかし、子離れ出来ていない「空の巣症候群」になった真愛の落ち込みに手を焼いた厚洋さんがいうのだ。
「電話かけてみろよ。」と。

 この時期になると思い出す事だ。
 子どもが自立して、家を出た時に感じる
「空の巣症候群」と呼ばれる憂鬱や不安である。
 心に響くぽっかり穴が空いたようになり、落ち込んだり、食欲不振になったり、不眠・イライラ・頭痛まで起こる。
 真愛の場合は軽症で済んだ。
 理由は、真愛の子育ては厚洋さんや母が多くを担ってくれたので、「自分のことを後回しにして子どものために頑張った母親」ではない。
また、厚洋さんも母も「寂しさ」は、感じていたようだが、我が家の息子は、徐々に親離れ祖母家離れをしていた子だったので、その感覚も三分の一ずつだったような気がする。
 そう考えると、昔から良い息子だったのだ。

 さて、子育てを懸命に頑張ってきた人は、全エネルギーを子どもに注いでいたのだから、「心に空いた大きな傷」は大変なものだ。
 そんな傷を癒すのは、時の流れでしかないのだが、ずっとその虚しさが続いているようであれば、心療内科で見てもらう事にもなる。
 そんな事になる前に、考えて欲しい事。
⭕️自分の育て方が正しかったからこそ
 「子どもが巣立っていけたのだ。」という事
 両親・家族ともに「良く頑張った」
 「ありがとう」と労苦をねぎらい、自分を
 認める事だ。
⭕️巣立った子どもは、
「未来に向かって一歩前進・また一歩前進。」 
 と新しい事に挑戦しているのである。
 そんな立派に育った子どもの母親として、
 自分も「新しい事に挑戦」「一歩前進」と
 考えて欲しい。
 真愛のように離れても「大丈夫?」と子離れ
 出来ないままでいる事なく。


 子育ては、子どもが大きくなるにつれ、親が関わる頻度が減るのが当然。
 子どもが自分で考え、自分で決定する機会が増える事は、自立する事。
 「親離れ」は寂しいけれど、素晴らしい事なのだ。
 親は子どもから、求められた時にだけ
「アドバイス」する。そのくらいがいい。
 また、「アドバイス出来る親」でありたいものだ。
 子どもがどんどん成長し、手が届かなくなると、アドバイスなんてできなくなる。
 今の真愛は、まさしくそれだ。
 息子に助けてもらうようになった。
 悔しいが「最高に幸せ」な母親だと思っている。

「空の巣症候群」になる人は、エネルギッシュな人が多いという。  
 子どもの成長に負けないように、自分の趣味や勉強、社会を良くするボランティア活動など
「人と繋がる」事をして、そのエネルギーを解放して欲しいな。


ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります