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寒の入り 小寒

 2022年1月5日。「小寒」
 寒の入りである。
「お部屋の温度23度。外の温度−4度。」
 エアコンさんは、平静に伝えてくれるが、真愛は、布団から出たくなくなるほどの驚きである。
 今日はゴミ出しの日なので、8時までには掃除をしてゴミ出しをしたい。
 雨戸を開けるとお日様は出ているが、空気は鼻の奥を刺すように冷たい。
 しかし、洗濯を干しに和室の窓を開けに行くと、畳が少しだけ暖かかった。12月の初め頃は、この部屋でnoteを書いていると汗が出てきたのに窓ガラスに近づいてもあまり温まらない。

小寒や畳ほのかに温まり 真愛

 小学校の教員をやっていた時、毎日のように学級通信を発行していた。
 大見出しの代わりに「俳句」を1句書き入れた。
 厚洋さんがやっていたことで、
「子どもに季節感を感じさせるには、
 良い俳句が1番効果的だ。
 短いし、季語があるので教えやすい。」
という。
 その通りだった。
 更に、真愛はその文字に肉をつけて大半の紙面を使った。本文が少なくて済むのでちょっと楽をすることができた。
 ところが、「寒の入り」「小寒」を季語にしたい俳句を載せたことがない。
 「雑煮」「松飾」なんてのは載せたが、大抵は
に「七草」あたりから入る。
 最近の3学期始業式は、コロナ禍で早かったり遅かったりできまりがないらしい。
 以前は、1月8日。
 七草粥を食べた翌日だったので、「小寒」の話はあまりしたことがない。
 ただ、「寒中マラソン」と称して、寒い中ヒートショックを起こしそうになりながら、「寒明け」まで走らされたので、「寒中」「寒明け」なんて季語の入った句を掲載した。
 子どもたちにも捻らせた。

寒くて家の中でベンチコートを着てる

 そんなわけで、「寒の入り」「小寒」の季語の俳句を探してみた。

小寒となりしは名のみあたたかや 星野立子
「名のみの」というのだから、この年は、風もなく穏やかで、暖かな日だったのだろう。
「小寒」って言うだけで、「寒くなるんだあ。」と覚悟を決める。いや、年になったから寒さが身に染みてくるのかな。寒いのも暑いのも嫌いになった。

小寒の雨に大気のゆるみけり 稲畑汀子
小寒の雨降る闇に別れけり 高澤良一
という句が見つかった。
 今日は晴れているが、明日あたりから雨が降るという。我が家の上空にも南岸低気圧って言ういうのが来るらしく、「雪模様」という予報も出された。
「小寒の雨」というのもよくあるのだろう。「穏やかなお正月」とはいうものの「異常乾燥注意報」なのであるから、「大気のゆるみ」「冷たい雨でも大地は大気は潤す」のだ。
まさしく「氷雨」になるのだ。そんな日は、人と別れるのは切ない。
 晴れた暖かい春の日の「別れ」は、なんとなく未来が見える。
「小寒の夜の雨」なんて「闇」に向かって歩いていく人を見るのか、闇に向かって歩いていく自分なのか、いずれにせよ「心が寒い」。

寒に入る夜や星空きらびやか/長谷川素逝
ぴしぴしと星座整ふ寒の入/大野徳樹
「同じ夜」でも晴れた冬の夜空は美しい。
 飲み屋さんに厚洋さんを迎えに行き、帰ってきた時の冬の夜空は美しかった。
「ほら、冬の大三角形。
 赤いのがオリオン座のベテルギウス。
 ずっとひだりに行ってこいぬ座プロキオン。
 ちょっと下を見て!シリウスがいるから。
 シリウスはおおいぬ座。
 プロキオンもシリウスも猟犬ね。
 オリオンが狩人だから…。」
「分かったから、早く家に入ろう。
 ほら手が冷たくなって、
 鼻が赤くなっちゃうぞ。」
と話すのも、手を温めてくれるのも毎年の恒例。
 雑学博士の厚洋さんも流石に真愛の「星の神話好き」には敵わないらしく、
「良く知ってるな!」と褒めてくれた。
 空気の澄む冬の夜空は、星の瞬きも月の光も格別なのだ。「小寒」出なくても感動する。

小寒や枯草に舞ふうすほこり 長谷川春草
 太陽の入射角の関係だろうか、家の中でも埃が気になる。更に関東の空風で埃の舞い上がりも目の病み上がりには辛い。

寒に入る蝸牛らも石の類/鷹羽狩行
 石をひっくり返すと、冬眠していた虫たちが慌てて?寝ぼけて逃げ惑う。何も動かない石のような世界になったと思っても、ちゃんと生きている姿を見て驚く。ましてや、蝸牛なんて中身まで凍ってしまうような気がするが、石と同じになって生きているのだ。
 なんて、人間のやわなことか。
 小さな生き物に生き方を教わることも多い。

浅草や鳩も雀も寒の入り/窪田桂堂
 これは、可愛らしい様子だ。
「寒雀」って言う季語もあるが、寒のスズメはふっくらしていて可愛い。メジロもホオジロもちっちゃな鳥が可愛い。寒さ避けのために羽の中に空気をたんまり入れるのだ。
 寒中の陽だまりの中に、メジロの子が椿の木から、コロコロと落ちるように降りてくる。
 寒いがじっと見続けてしまうほど可愛い。

雪山に水ほとばしる寒の入り/飯田蛇笏
 死んだように動かない「山眠る」時なのに、
「いのち」を感じる瞬間だ。
山はみな無愛想なり寒の入り/小林一歩
「山笑う」が春の季語。「山眠る」はそっぽを向かれた感じがする。「無愛想」って、笑わない山に言ってみたら、「コロナ禍で白いマスクしてます。」って言われそう。

焚火して林しづかに寒の入/水原秋桜子
 確かに、風のない時は焚き火がしたくなる。
 この時期、風がないと焚き火の煙は立ち上がって、よこに棚引くのだ。冷たい空気が上にあるからだ。すると,煙は横になって広がり林の中の木を一本ずつ際立たせてくれる。そこに低い太陽光線が入ってくると、それはそれは美しい静かな絵になる。

襖絵の虎と目の合ふ寒の入/阿部喜恵子
 良くわからないが、今年が寅年だったので…。

 潜り戸の障子も白く寒に入る/田中冬二
 初窯だったのかしら?
 白いものが更に白く。赤いものが更に命の色に見えてくるのは、空気が張り詰めた冷たさを持っているからだろうか。
 気温と色彩の感じ方のちがいを調べてみるのも面白そうだ。
 今日は、「小寒」
         寒の入りである。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります