子育てパニック 息子の誕生日
厚洋さんが元気だった頃は、まだ息子も遊び歩いている時期だったので、お誕生日関係なく
「お金がない。
ちょっと貸してくれる?」
ってなけなしのお金を使って家に帰って来た。
真愛のベッド近くに来て、ボソボソというから二、三枚渡して
「お父んには内緒ね。」
と言った。
翌朝、
「昨夜、拓が来たの知ってる?」
「うん。来てたみたいね。」
なんてはぐらかすと、
「あいつさ、金もないのに外車乗って来て、
親父、ガソリン代もらえる?
なんて言うんだ。
まあ、なんだかアイコスとやらを持って
来てくれたよ。」
「あら?
優しいのね。」
「それがさ、俺だって良いものもらったから、
ガソリン代奮発するじゃないか。」
「あら!いくら上げたの。」
「三枚!」
「…。」
(やられた。2人からふんだくっていった
のだ。 拓くんが来るんだったら、
厚洋さんと一緒に寝てればよかった。)
そういう夜に限って、真愛は、ひとりのんびりと二階のベットでテレビを見ながら夜更かしをしていた。
厚洋さんも若い頃は、お金もないのにタクシーに乗ってお婆ちゃんのところにお小遣いをもらいに行き、タクシー代も払ってもらい
お小遣いもせしめて来たらしい。
そっくりな親子である。
厚洋さんは、さだまさしの「案山子」が大好きだ。
それは、自分の学生時代のことや故郷を離れてこの君津に来た事に重なったこともあったが、息子が自分と同じ18歳で一人暮らしを始めた頃から
「元気でいるか?
お金はあるか?
友達できたか?」
と母親の真愛よりずっと心配した。
子育てと母性の関係はよく取り沙汰されるが、真愛は、父性と子どもの関係というのは、とても重要だと思った。
本当は自分が拓に会いたいのだが
「たまにはお袋に電話してやれ!」
と言うところが、母親に出来無い素敵な思いやりだと思う。
厚洋さん自身、北海道のお義母さんに電話もしないのだから、真愛が電話する。
世間話やこちらの様子を長々と話した後、
「ほら、お母さん。
ちゃんと話しなさいよ。」
と電話を押しつけると
「ううん?
大丈夫。
平気だよ。
やってる。じゃ!」
で切ってしまう。
困った息子だし、ちゃんと話させないままの嫁で困ったなあとずっと思っていた。
しかし、息子が大きくなり、嫁をもらい、真愛と嫁さんが仲良く話した後、息子に代わっても何も話すことはない。
お義母さんも真愛と同じように、嫁さんと話して安心していてくれたと思うと、嬉しくなって泣きたくなる。
人はその人の歳になるとその人の思いが少しずつ分かるようになるようだ。
今、真愛が厚洋さんのお義母さんの年になったのだ。
「その思いがわかったわ。」と伝えたいその人がいないことが切ない。
息子の誕生日になった。
2020.10.9の日記
「拓の誕生日。おめでとうとありがとう。
厚洋さんの子どもを産めたのは真愛。
愛しい人の子を産めて、一緒に育ててくれ
て、
拓は今、私を思ってくれる。
可愛い嫁さんも見たし、孫も見せてくれた。
本当に幸せだと思う。
世界中の人に言いたい。
どうだ!羨ましいだろう?って。
苦労して悲しい思いをした分だけ,
幸せがわかる。
しかし、欲はまだある。
拓にも知らせてないが、息子の誕生日に
結構なプレゼントができるような稼げる
作家になりたい。」
残念ながら、稼げていない。
2021.10.9の日記
「拓の誕生日。
LINEで、おめでとう。
“こんな母になりたかった”
(鬼滅の刃の煉獄さんのお母様をnoteに書い
た)を転送した。
会社の携帯を羽田のカレー屋さんに忘れて
来たそうで、一日中探していてようだ。
あって良かった。
娘と国際ターミナルで遊んだらしい。
厚洋さんのような良いパパをしている。
真愛は、煉獄さんのお母様のように美しく
もなく聡明でもない。
しかし、彼と同じように離れて住んでいる
母を心配してくれる息子である。
母親とは、父親より幸せなのかもしれない」
2022.10.8 のLINE。
「寝てんのかね?」
「すみません。
ご心配をかけました。
プールで泳いでいました。
今夜は十三夜というお月見の夜なので、
ゆっくり月を写して
帰って来てしまいました。」
「おお、
夜を満喫してたところすんません 笑
例のnmnサプリ届いたから送るか
渡しに行くかするよー!」
「ありがとう。
拓君の生まれたのは、
今年と同じ8日が土曜日で、その夕方に
入院して9日の夜明け前に生まれました。
ちなみに、調べたところ満月ではなく
新月に近い細い三日月だったようです。
今日は、満月で、9月・10月・11月と
3回の満月のお月見をすると良いことが
あるかも?笑笑。
お父んに丸いチョコパンを供えました。
こんなことしてるから痩せられないね。」
「9日の朝になる前に生まれたわけね!
初めて聞いたわ。笑」
「自分も子供らとピザ食べた💦」
「いいね。
丸いものはちゃんとお月見!」
「無理矢理すぎるわ 笑
寒いからあったかくしてね!」
「了解!」
ね?!素敵な息子でしょう?
あの頃は、あの頃!
若いときはみんなそんなもん。
で、今は、全く逆!
「お母ん元気か?」
「新色マスク出たから、持ってくぞ。」
なんて、LINEで、事細かに支援してくれる。
どうして、
こんなに良い息子に育ったのでしょう?
〔親バカちゃんりん…。)
厚洋さんが亡くなる前々日の夕方、息子が様子を見に来てくれて、ひょんなことから、「お父んとお母んの恋愛談を聞かせるとととなりました。
ベットに座り、厚洋さんの手を握って
「愛してる」を繰り返す母でした。
「お父んとお母んは、大恋愛だったんだよ。
恥ずかしいから、【馴れ合い】なんて
言ってたけれど,本当は愛して愛して、
あなたが生まれたの。」
息子はそれを笑いながら聞いてくれて、
「はいはい。愛してる。あいしてる。
ラブラブぶりは分かったよ。
まあ好きにやってください。」
と言った後の
帰り際に、泣いている私の肩を抱きしめて、
「大丈夫。
俺がそばにいるから。
親父。
俺が守るから!」
と厚洋さんに向かって言ったのです。
息子が帰ってから話しました。
「良い息子に育ったくれてわね。
厚洋さんみたいに優しくて頼もしくて
本当にいい子。
厚洋さん。
拓を産ませてくれてありがとう。」
厚洋さんも何度も何度も頷きながら泣いていました。
どんなに父親として誇らしい思いをしたことでしょう。
この息子だから、安心して真愛を置いて逝ったのだと思います。
「子育て」とは、いつまでのことを言うのでしょうか。
子どもが立派になり、経済的にも、人格的にも親を超えてしまっても、子どもはいつまで経っても子ども。
何かあれば命に変えても守りたいものです。
どんなに歳をとったお婆ちゃんでも、親から見れば娘なのです。
しかし、親が気づかないうちに、子どもたちは立派に成長していきます。
私のようにダメな母親であっても、父親がしっかりと支えてくれていれば、自慢の息子が育ちます。
子育ては、父母あっての仕事だと思います。
何らかの理由で、真愛のように母親だけで育てられる子もいますが、育てている母は、父親の役もしてくれました。
そして、常に言ってくれました。
「真愛ちゃん。
今はお父さんがいないけど、
あなたを孕ったときは、お父さんは
お母さんを愛していれていたのよ。
お母さんは今でも、お父さんが大好き❣️」
真愛の「厚洋さんスキスキ」体質は、母からの遺伝だと思います。
そして、そのことが一番大切なことだと思うのです。
「誕生日。
あなたが生まれて来てくれて、
本当に幸せです。」
「誕生日。
この子を産ませてくれてありがとう。」
そして、子どもの生まれた時の話をして
あげることも良いことかもしれません。
息子の誕生日は、愛しい人への感謝の日となりました。
ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります