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桃の節句

真愛のお雛様は、厚洋さんが買ってくれたもの。中央のネジを巻くとオルゴールが「灯りを点けましょ 雪洞に お花をあげましょ 桃の花 」と奏でてくれる。
貧しかった真愛は、母から引継いだ復興雛(直径8センチのお供え餅の形のお雛様)↓これ。

戦争が終わって焼け出された母に出逢った父が買ってくれた物?だとすると75年もまえのものかな?↑今は、鮮やかな色合いですが、真愛が結婚した頃は、色が薄れ哀しい姿でした。
それでも、真愛は立春が過ぎるとお雛様を飾りました。
すると、厚洋さんが
「お内裏様とお雛様だけだけど。ほらっ!」
ってプレゼントしてくれました。

嬉しくって厚洋さんに抱きついて泣いたのを覚えています。(やっぱり厚洋さんは最高にかっこいい男でしたね。)
喪中でお正月をやらない年はありましたが、お雛様を出さない年はありませんでした。
そして、4日の日には「早く終わないと婚期が遅れる。」って言いながら終いました。
真愛の厚洋さんへのささやかな「焼き餅焼いてよ!」って言う抵抗でした。焼き餅を焼いていたのは何時も真愛でしたから…。

で、このお雛様は生きている様に不思議なのです。出す度に
「また、今年もお雛様のお顔がどんどんお内裏様の方を向いて行ってるのよ。」と言う様になりました。
その事を毎年話し、毎年、
「髪も伸びてるか?」と笑いながら聞き返す厚洋さんでした。真愛は、
「お雛様は、お内裏様が大好きでいっぱい話しかけてるんです。お内裏様は厚洋さんみたいに飲んでるだけでね。こっち向いてよってね。」と言い返しました。
「みんなが寝たら、抱き合ってるさ。」って言うのも恒例の会話でした。
厚洋さんが亡くなってから、お内裏様はちゃんとお雛様を見つめる様になりました。

今年も今日で見つめ合ったお二人はしまいます。
来年は、抱き合っているかもしれません。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります