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独りぼっちのChristmas Eve

 46年前の12月23日の朝。
 Christmas cardを投函した。
 亡くなった愛しい人・厚洋さんにだった。
 
 その年の二学期の終業式は、12月24日。
 当時は色々なことが大雑把で、終業式が終わるとその夜は「大忘年会」だった。忘年会というよりお泊まり飲み会だったような気がする。
 その翌々日から、青年部主催のスキー研修会が3泊4日で群馬県で行われた。
 真愛は、群馬大学出身の先輩を好きになり、遠距離恋愛中?(本人はそう思っていた。)だった。夏ごろから、やや疎遠になってると感じたが、会えるのを楽しみにスキー研修の用意をした。
 
 終業式の2週間前のことだった。
 スキー用品を買いに行った時に、K市の繁華街で厚洋さんと同じ学校の先輩に会った。
「一緒に飲みに行かないか?」
と、誘われたが、友達と一緒だったので断った。
「じゃあ、電話があるか?
 電話貸してもらえるか?」
の厚洋さんの問いに、指導教官だった人なので快諾した。
 その頃は、公衆電話か家の固定電話しかなかった時代だったからの繋がりになる。彼の部屋には固定電話がなく、真愛の部屋にはベットの横にあった。また、同じ教員住宅に住んでいたのも運命だろう。
 
 数日後、電話で
「フランスパンを買った。
 バターはあるか?
 電話も貸してくれ!」
と厚洋さん。
 学期末の仕事があったが、
「あります。使って下さい。」
と真愛。
 
 その時の彼の電話の相手が「彼女」。
結婚について煮え切らない彼女と電話越しに言い争った末、
「勝手にしろ!」
って怒鳴って切った。
 しこたま飲んでた厚洋さんは苦しそうだったので、水を飲ませ、電話の置いてある部屋のベットにそのまま寝かせた。
 暫くして,様子を見に行くと眠っているようだったが、彼の目頭に涙が溜まっているのを見た。
 男の人の涙を初めて見た真愛は、とても可哀想だと思った。涙を拭ってあげたような気がする。(記憶が飛んでる。)
 
 ペットを貸した真愛は、叩き起こして返すわけにもいかず、炬燵で仕事をしたまま寝てしまった。
 気がついた時は、厚洋さんがお姫様抱っこをしてくれている時だった。
「襲われる!」と思った真愛が、身構えをして目をつぶっていると、優しくベットに寝かされ、布団をかけて、オデコに「チュッ」をして静かに帰って行った。
 なんだかすごく良い人のような気がした。
 この話をすると、ほとんどの人が
「そりゃ、厚洋さんに騙されたね。」
と笑う。
 男を知らないネンネな真愛だったらしい。
 そのまま騙された真愛は、
「教官は良い人。
 初任から真愛を見守ってくれていて
           ありがとう。」
の思いを伝えたくて、
「冬休みに入ってしばらく会えないけど、
          良いクリスマスを。」
の言葉を添えて、
Christmas cardを送った。それも速達で。
 その時も、真愛の部屋にはChristmas treeが飾られていた。
 同じ団地なんだから、家のポストに入れればいいものを「なぜそんな行動を取ったのか。」未だに自分の思いが分からない。

 その後、スキー研修で大失恋をして帰って来た。先輩は、お寺の後継。立派なお家柄のお嬢様と婚約したという。
 男狂いをしてやろうと3泊4日。
 泣くこともできず、男に色目を使い、虚しい雪景色を見て帰って来たのだ。
 そして、厚洋さんにお土産を渡したら、涙が溢れてきた。真愛の話を聞いてくれて一晩中ギターを弾いてくれたのが厚洋さん。
 失恋の傷を癒してくれて、ぽっかり空いた穴にピッタリと2人で入ったのだと思う。
 だから、在職中「恋愛結婚?」と聞かれると
「馴れ合い。傷口の舐め合い結婚」と答えていた。
 今思うと、運命的な大恋愛で、彼は奇跡の人なのだ。全てが彼に会うための準備だったのだ。
「Christmas card」に書いた字がとても下手だったのを思い出す。
 厚洋さんと「Christmas card」について話をしたことはないが、どう思っていたのか?
 ちょっと聞いてみたい気もするが、聞かなくて良かったのかもしれない。
 彼が最期に
「俺以外にもお前に相応しい人がいたのに、
 俺と一緒になって…。」
と、言った。
 そうやって、ずっと思っていたのだとすると切ない。
 翌年のChristmas Eveは、スキー研修にも行かず、彼と一緒。
 K市にあった「山麓」ってお店で、キャンドルライトの下で、ディナーだった。
(45年前のChristmas Eveの過ごし方としては最高だと思う。)
 顔に似合わないロマンチックな厚洋さんとどっぷり浪漫派の真愛は、気の合う二人だったのだと思う。
 夫婦にとって、趣味嗜好・思考を理解してもらえることは幸せな事だ。
 子どもが産まれてChristmas Eveは、家族で過ごす事が多くなった。忘年会がぶつかった時は,前倒しでやっていた。

 年をとって二人きりになっても、真愛に付き合ってくれた厚洋さん。

「俺は仏教徒だ。」
と言いながらも、Christmas treeの飾りを楽しんでくれた。
 コーヒー豆を買いに行っては、「カフェ茶屋」さんで、クリスマスグッズを買って来てくれた。

 Christmas Eveには、何処かに食事に行き、プレゼント交換もしてくれた。
 プレゼントを選ぶ楽しみも毎年味合わせてくれたと思う。好きな人に喜んでもらえる笑顔が見られるプレゼントを選ぶのは楽しい。
「ありがとう。」
ってハグしてくれる事が欲しかったのかもしれない。
 真愛は、自分しか食べない「Christmas cake」をロンシャンで買った。

 今夜はChristmas Eve!
 厚洋さんのいないChristmas Eve!
 ひとりぼっちのChristmas Eve!
 
 あちらに届くChristmas cardがあるならば、
「会いたい!」
と書いて速達で贈りたい。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります