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子育てパニック10分間の出来事 

 何時も通っているプールが、土日になるととても混む。ホテル併設のスポーツクラブなので、ホテルのお客さんも泳ぎに来るのだ。
 若いカップルはいない。
 こんなプールでラブラブなんて…。
 このホテルの周りには、もっといいロケーションの所がある。
 2年前には、若い女性がキャッキャと騒いでいる方を見ると決まっておじさまと一緒だった。
 それもコロナ禍で見られなくなった。若者と高齢者は感染ルートになりやすいからだろうか。

 コロナ禍で、ホテルへの宿泊者も減っていたが、第六波の蔓延防止策が解除されてからは、家族連れを多く見かけるようになった。
 子どもたちも一緒にホテルに泊まって、
「プールもあるよー。」
って言ったら、泳げなくても、
「泳ぎたい!」
っていうだろう。
 少しずつ気温も上がり水遊びも楽しい。
 ホテルのお客さんの子どもたちは、竜宮城のような流れるプールを想像していると思うのだが、どっこい、ここの大プールは学校と同じ。
 コースロープで仕切られていて、泳げなければ浮をつけて25mを行ったり来たりするだけ。
 それも1コースの中を右側通行で移動する。
 小プールは8m×12.5mで自由に使えるが深い。おばさま達の水中エクササイズに使うために深く水を張っている。
 ホテルのお客さんの子ども達の多くが、小学生以下である。
 ホテルのチェックインが終了すると、親子で来るので、時間的には3時半から4時ごろにやってきて、夕食前にはホテルに戻る。
 真愛は、土曜日の午前中にボランティア活動をするので、泳ぎに行くのは午後になる。
 クラブ会員が少なくなった3時半ごろに行ってリラクゼーションプールでブクブクしていると、元気な声が聞こえる。
「やっちまった!」
と思う。
 あと1時間ずらせば、出会わなくて済むのだが、どうも忘れてこの時刻に行ってしまうのだ。
 真愛がおばあさんであることも、今のコロナウィルスが子どもさんに感染しやすいこともあって、彼らとは近づかないようにする。
 彼らは先ず、25mプールでバシャバシャと10分程度楽しむと飽きてしまう。
 10分持つだけ偉いと思う。
 浮をつけて親に引っ張ってもらって、ジタバタするのだ。やり切れない。
 それに飽きると、必ず小プールにやってくる。
 真愛は、ウォーキングをしているが、彼らが来たら、リラクゼーションプールに逃げる。
 深いプールで,親にしがみついて行ったり来たりしている親子とは面倒臭い距離感を取らなくてはいけない。
 凄いパパは、2人の子どもを背中に乗せて泳いで、溺れそうになっていた。
 遊び道具はない。丸い浮き輪もボートもない。
 第一にプールの水は流れない。
 子どもも偉いが、親も偉いと思う。
 それも10分持てばいい。

 真愛の入っている隣のリラクゼーションプールに入りたくても、小学生以下は使用禁止。
 仕方がなく、ジャグジープールに行く。
 直径3mぐらいの円形プールに親子で浸かるが、どっかの猿ではないので、長くは持たない。
 あっちに行ったり、こっちに来たりと大変である。
 それに付き合うパパは偉い。

光の網

 ところが、昨日の親子連れは違った。
 A家は、何時ものように父親が頑張って子どもの面倒を見て、母親はジャグジーかリラクゼーションプールにいるケース。
 小学校2年生ぐらいの女の子と幼稚園の年中さんぐらいの男の子と楽しく遊んでいるかっこいいスポーツマンタイプのパパだ。
 A家は、楽しくホテルのプールを楽しんでいた。
 しばらくして、2組目のB家の家族が入って来た。
 父親は、ほっそりとした学者さんタイプ。
 母親は、ガッチリとしていて、平泳ぎのプルの指導をしていた。
 指導されているのは、女の子。
 それも、さっきのA家の女の子と同じぐらいである。
 ひょっとすると同じ学校なのではないかと思うほど、水着やスイミングキャップが酷似していた
 B家の女の子は、少々フォームは粗いが25mを泳ぎ切る。母親は、平泳を教えるだけあって、平泳ぎはなかなか力強く泳ぐ。
 父親は、いっしょに水に入ったが、寒いらしく腕をさすりながら、2人を見ていた。
 そのうち、母親は秒針計があるのに気づき、女の子に「個人メドレー」をやらせてタイムを計っていた。
 ジタバタしながらでも、バタフライを泳いでしまう小学生だ。
「大したもんだ。」と思って見ていると、リラクゼーションプールにいた隣の女の人がA家の父親にところに言って何やら話している。
「そんなところで遊ばせてないで、
 あなたもちゃんと子ども達に
 泳ぎを教えなさいよ。」
とでも、言ったのだろう。
 さっきまで、ワイワイ楽しそうに子どもと遊んでいた父親がムッとした顔をした。

 そして、大プールから出て、小プールに行った。
 その5分後に、B家も小プールに行った。
 すると、即座にA家はプールから出て更衣室に消えて行った。

 あまりいい気分はしなかった。
 どちらの母親も嫌な大人に見えたのだ。

これ見よがしに
「ウチの子。凄く泳げるの。
 ほら、頑張れ。
 ヤッタネ。自己新記録よ!」
って、旦那様をほっといて独りよがりな母親に見えたB家の母親。
 でっぷりとガタイが良いのも嫌だった。
〔自分だってでっぷりしているのに、似ているの
 が嫌なのだね。)

 自分は子どもの面倒を見ない癖に、他の家の子が頑張ってる姿を見て、子どもと楽しく過ごしている旦那様に文句を言うA家の母親。

 なんだか、どちらも父親のことを考えない嫌な女に見えた。

春爛漫の日

 よく日曜日。
 午前中にプールに行くと、B家の3人がいた。

 相変わらず母親は、太い首をコキコキさせながら、満足そうに女の子の泳ぎを見たり、平泳ぎで後を追ったりしていた。
 ところが、今日は、父親が母親のスイミングキャップを借りると泳ぎ出したのだ。
 お世辞にも上手とは言えないクロールだった。
25mを泳ぎ切ると肋の見える体全体を上下させて息をしていた。
 このご夫婦はどんな恋をして結婚したのだろうと考えていると、
 ゼーゼーしている父親に、女の子が抱きついたのだ。 
 母親には見せない可愛い笑顔で、満面の笑みである。
 あんな可愛い笑顔をされたら、メロメロになる。
 ガンガン指導して、ズンズン泳いでみせる母親より、懸命に泳いだ父親と抱き合っている女の子に救われた。

 A家もB家もどちらも親子なのだ。
 子どもから見れば、父親は大好きな存在なのだ。
 ただ、第三者から見ていると、母親の姿に己を省みなければと思った。
 男尊女卑はいけない。
 自由と平等。
 ジェンダーフリー。
と言うけれど、心の底に相手(旦那様・父親)を思いやる心がなければ、その姿は美しくないと思った。
 そうそう、A家の母親はスタイルも良く、外見は美しい女性だった。
 しかし、父親に文句を言っている姿に美しさはなかった。
 A家の父親もB家の父親も外見は全く違うが、同い年ぐらいの女の子と交わす笑顔は、2人とも爛漫の春の中にいるようで素敵だった。

泳げるのに教えなかったパパ

 息子にも2人の娘がいる。
 泳げるようになったらサーフィンにでも連れて行くのだろうか。
 厚洋さんは、泳げるのに息子に教えなかった。
 父親って、子どもに対して「繊細」なのかもしれない。
 母親って、産んだ強みがあるから「図太い」のかもしれない。
 やっぱり、親子関係もそれぞれで、他人にはよく分からないものだ。
 兎に角、たった10分程度の2組の親子の話である。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります