こりゃ、心配してたよね。
古い写真が出てきた。アルバムに貼り付けられない写真と思っていたのかもしれない。
北海道・網走に行った時のホテル前での写真かな?
何年前か忘れてしまったが、2月11日建国記念の日と、土曜日曜が繋がり三連休になった時に、
「流氷見に行きたいの。
行って来ていい?」
と厚洋さんに告げ、教え子と2泊3日で出かけた。
厚洋さんには一人で行く事になっていた。
大嘘をついた。
女房の遊び癖なんて、ちゃんと分かっていたのだと思う。
一人じゃ、初めての喫茶店にも入れない真愛が一人で行くわけがない。
「〇〇君たちと銚子に行ってくるね。」
「〇〇君と鎌倉の下見に行ってくるね。」
の真愛の好き勝手な遊びに
「ああ。」
と答えるだけで、許してくれた厚洋さんだった。
彼が知っていたというのは、厚洋さんの余命が告げられて、彼の浮気の噂に気が狂った真愛が言った
「あなたが誰を好きでいても構わない。
真愛は、厚洋さんが大好き。
厚洋さんを愛しているって、分かったの。
だから、ずっとずっと、
あなたが嫌って言ってもそばに居る。」
事に対して、
「俺、浮気なんてしてない。
誤解させていたんだね。ごめんな。
お前には、俺よりずっといい奴がいたのに。」
「そんな事ないよ。
厚洋さんが大好きだったんだよ。
真愛も誤解させていたんだね。
〇〇君と一緒に泊まりで旅行に行ったけど
何にもなかったんだよ。
本当は、厚洋さんと行きたかったのに、
ごめんね。誤解させてたと思う。
真愛の好きにさせてくれて、ありがとう。
大好きなのは厚ちゃんなんだからね。」
「誤解してたな。
すれ違っていたんだね。」
その時に厚洋さんの想像していた写真は
この写真だと思う。
この旅行の後、教え子は素敵な恋をして、素敵な奥様と一緒になった。
何もなかったので、厚洋さんが亡くなった時に霊前で、
「厚洋さんは君との事を疑っていたみたい。
何もなかったから、今でも君と、ここで会える
んだね。何もなくて良かった。」
「うん。
先生は、旦那さんの掌の上で、自由に遊んでい
てんだよ。
俺たちが色々な経験をさせてもらったのも、
旦那さんが先生を伸びやかにさせてくれたので
やってもらえた事。
ありがとう先生(厚洋先生)。
疑っていてんじゃなくて、知ってたんだよ。
亡くなってからも、『愛してる。」って、
言わせ続けさせて、先生は、旦那さんに操られ
ているんだよ。凧みたいにね。」
と笑われた。
厚洋さんの馴染みのお店に教え子を何人も連れて行った。
お店の人から、
「奥さん、若い子と一緒だったよ。」
と何回も聞いただろうに、何も文句を言わなかった。
厚洋さんが言った「俺は、お前のコロコロ笑う笑顔が好きだ。」という笑顔を、他の男性にもたくさん見せていた。
彼以外の人と体を寄せて写真を撮った。
同窓会では、
「昔好きだった。」と言った事もあった。
考えなしの行動をとる真愛だったのだ。
なんと、卒業式の時。
校長先生と手を繋いで写真を撮るか?
厚洋さんと遊びたかった事を、友達や教え子としている。
代償行為である。
友達や教え子にも申し訳ないと思う。
上司にも同僚にも申し訳ないと思う。
厚洋さんと遊びたかった。
旅行も、映画も、
みんなの前で抱きつきたかった。
みんなの前で手を繋ぎたかった。
我が家の中や、飲み屋さんへの送り迎えの車の中では、恋人同士だったのだけど、外に出ちゃうと恥ずかしがり屋な厚洋さんはそんな事をしてくれなかった。
一緒に買い物にも行ってくれたけど、手が繋ぎたかったのに、側にいてくれるだけで真愛は、我慢した。
結婚する前のあの積極的だった真愛は、どこに行っちゃったんだろう。
強制的に手を握ったら、手を繋いでくれたかもしれないと思う。
具合が悪くなってからは、
看護する事もあって、手を繋いで歩いたし、いつも一緒にいられた。
看護師さんの前で、口移しで薬も飲ませた。
路チュウじゃないけど、悲しい嬉しい口づけも出来た。
病室のベットの上で抱き合えた。
古い写真を見つけた厚洋さんが、疑ってしまうのは当然のことだ。
「この写真を見たら、
こりゃ疑っちゃうよね。」
死期を感じた者同士が本音を語れる様にしてくれた時の神様に感謝したい。
それでも、真愛を捨てないでいてくれた事に
それでも、真愛を自由にさせてくれた事に
ありがとう 厚洋さん❣️
今でも、愛してる💕
古い写真を見つけた翌日。
厚洋さんが亡くなって1126日め。
彼の昔の同僚の女教師が旦那様と一緒に訪れてくれた。沢山の思いで話をしてくれた。
「厚洋先生を大好きだった真愛先生が、どうして
いるか心配でね。
厚洋先生に一度聞いたことがあるの。
『どうして、真愛先生を好きになったの。』
そうしたら、
『可愛くて、美人だったから!』
だって言ったの。本当に真愛先生のことが
可愛かったのね。
「本当に、今でも可愛いわね。
あちらでも、同じに思ってるわね。
きっと。」
そうなんだ。
真愛の知らないところで、真愛の事を語ってくれていたのだ。
彼の思いを少しでも疑った自分が嫌な奴だと思う。伝えられるなら、
「本当に、ありがとう。
疑うような事をしていて、御免なさい。
真愛は厚洋さんに愛されて幸せな人生でした。
真愛は、これからも、厚洋さんを愛し続けて、
幸せな余生を送ります。」
そして、
「後悔してるの。年をとってきてしまっても
手を繋なぎたい。
旅行行に一緒に行きたい。」
と、もっともっと駄々をこねれば良かった。」
と。
ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります