二回目の桔梗が咲いた
我が家の桔梗は6月に咲く。
母も厚洋さんも好きな花だったので、20年近く咲いている。
今咲いている場所で咲くようになったのは、9年ほど前からである。
それまでは、日陰に行ったり、日向に出されたり彼方此方に移動させた。
数年前に厚洋さんが
「桔梗は、根が張りすぎると良くないらしい。
10月あたりに根を切り分けて、
株分けをしてやるといい。
一年目は咲かないかもしれないが、
増えるそうだ。
増やしてみないか?」
と、質問形だったが、「やってみろよ。」の思いがチラチラ見えた。
当時は、4株ぐらいしかなかった桔梗だったが厚洋さんが言ったように、10月に株分けをしてから3倍近くになった。
桔梗は、万葉集や平安時代の書物に登場する由緒正しい日本の花である。
母は、明智光秀の家紋が桔梗だったので、不吉な花って言われてたけど、この紫は不思議と心惹かれると言っていた。
「桔梗」の花言葉は、「永遠の愛」や「変わらぬ愛」「誠実」「気品」である。
「永遠の愛」という花言葉がつけられたのには、戦争から帰らぬ夫を10年も待ち続けた若い娘の名前が「桔梗」だったためといわれているそうだ。その娘の家紋が「桔梗」だったからと言う説もある。
「気品」というのは、昔から紫色が高貴な色とされてきたためにつけられた花言葉である。
しかし現在では、野生の桔梗は、絶滅危惧種Ⅱ類に指定されているという。
厚洋さんが逝ってから、6月になると紫陽花と一緒に紫が我が家を飾ってくれた。
今年もそうだった。さ
暑い7月が続いた為に草取りや紫陽花の花仕舞いができなかった。
しかし、玄関から直ぐのところに咲いている桔梗の花の切り戻しが出来た。
桔梗の花は咲いている時は、高貴な紫の花を見せるが、2、3日で花が終わると白く枯れてしまって哀れな姿になる。
プールに行く前に、チョキン・チョキンと切っていた。
(咲かなくてもいいかな!
綺麗な花壇にしておきたいな!〕
半ば諦めで切った。
驚いたことに、8月にも桔梗の花が咲いた。
凄いことだと思って調べてみたら、桔梗は秋の七草に入ってはいるが、「夏の花」であると書いてあった。
うまく切り戻せば、何度も咲くと言う。
そう言えば、今年初めて「矢車草」がしっかりと咲いてくれた。そして、咲き終わりそうな花を何度も何度も切ったし、我が家を訪れた方に無理やりプレゼントした。
花を切ることは良いことなのだ。
花はチョキンと切られると、
「大変!種を作れなくなっちゃう!」
とびっくりして、別の元気なところから脇芽を出して成長するのだ。
花木も同じようだ。
大事に大事に切らずにそのまま伸ばしたままにするより、次の芽を確認して切る方が良いこと。ようやく分かった。
「剪定しないと花が咲かなくなるぞ!」
って言ってた厚洋さんが真愛の後ろから見て笑っているようだった。
切り戻したら、3回目も咲くだろうか。
厚洋さんも真愛も好きだった小学校6年生の国語の学習指導で扱った「きつねの窓」という物語がある。
桔梗の花の汁で指を染めると、青紫の指菱形を作ると「亡くなった人〕が見られる不思議な窓。
一面の桔梗畑に迷い込んだ猟師である男は、真っ白な子狐を見つけ、母狐を撃ち取るために後を追い、子狐の染物屋に行き着く。
そこで、不思議な窓を知る。
「僕の母さんです。
ダーンとやられたんです。」
「でも、寂しくなくなりました。
いつでも母さんに会えるからです。」
「僕も欲しいなあ。」
男も独りぼっちだったのだ。家族を戦争で亡くしているのだ。亡くなった母に会いたいのだ。
大事な商売道具の鉄砲をお代として渡してしまうほどの「素敵な窓」だったのだ。
家に帰る途中で
男は窓を作って「懐かしい女の子」を見る。
「見たかった懐かしいあの家」を見る。
霧雨が降っている庭が見える。(記憶曖昧〕
妹の声もラジオの音も聞こえる。
菜園には紫蘇。長靴が干してある
「母は取りに出てこないのでしょうか?」
深いため息とともに、指で作った窓をはらりと降ろしてしまうのだ。
なんでも変な事をしたがった真愛は、11月の授業研究会の日に「桔梗」の花を飾りたかったので、探し回った。
厚洋さんも探してくれた。
今住んでいる小糸地区の畑で数本咲き残っている「桔梗」を見つけて購入したことを思い出す。
今考えると大馬鹿である。
物語の読みは、本物を見せることではないのだ。安房直子さんのファンタジーの世界にどっぷりと浸かり、紫ではなく「青の世界」の中で楽しめば良いのだ。
ただ、厚洋さんが逝っていまった今、
「きつねの窓」があったら、窓の中で厚洋さんが話してくれるなら、どんな事をしても欲しがると思う。
しかし、「きつねの窓」の中の厚洋さんは写真のようにただ見つめるだけならば、「今、いないこと」を突きつけられるだけで、「思い出」を見続けたら「切なくなる」だけと分かっている。
もう一度、切なくなると分かっていても
「会いたい!」気持ちもよく分かる。
厚洋さんと話し合った時には、出て来なかった思いである。
明日、三回目が咲くように数本切り戻そう。
そして、10月になったら、厚洋さんが教えてくれた方法で、株分けをしたいと思った。
ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります