乃東枯と蛍狩り
時の流れは早くて、七十二侯のお話が追いついていかない。二十四節気の夏至の話も間に合わなかったが、乃東枯 (なつかれくさかるる)も完全に過ぎ去ってしまった。
6/21~6/25頃までだから…。
乃東とは、冬至に芽を出し夏至に枯れる
「夏枯草 (かこそう)」の古名で、紫色の花を咲かせる「靫草 (うつぼくさ)」の漢方名である。
ウツボグサは、日当たりの良い山野の草地に群生し、冬至の頃に芽を出し、夏至の頃に枯れるという。この枯れて茶色くなった花穂が「夏枯草 (かこそう)」で漢方なのだ。
この生薬を煎じて飲めば、利尿・消炎作用があり、煎液は、ねんざ・腫物・浮腫の塗り薬として、また、うがい薬にもなるという。
靫草は、これから夏の花たちが咲いていくなかで、季節を逆らうように枯れていくため、その珍しさから、季節をあらわす言葉となったらしい。
七十二侯のこの頃は、田んぼの稲も青々と美しく伸びて、風が渡ると竜が走ったように見える。
素晴らしい時期なのだが、今年は靫草だけではなく、我が家は夏の花もこの暑さで枯れそうだ。
この稲穂を見て思い出した。
蛍狩りに行かなければ、もうすぐ農薬散布で蛍もやられてしまう。
厚洋さんと一緒に見に行ったのに、もう何年も行ってないことに気がついた。
厚洋さんは、「三船山のふもと」によく連れて行ってくれた。
連れて行ってくれたというよりも、飲み屋さんで飲んでいる彼を迎えに行った帰りがてら、
「蛍でも見に行かないか?
三船山の駐車場辺りがいいらしいぞ。」
と、真愛に運転させての賜るのだ。
車の中で、雑学博士の蘊蓄が炸裂するのだ。
「もう、「ゲンジボタル」は終わってるかな?
「ヘイケボタル」は見られるぞ。
どうして源氏蛍っていうか知ってるか?
大きな方が勝った源氏。
負けた方が平家だな。
俺は、どっちかというと小さな平家が好きだが
飛び方は源氏蛍の方が柔らかで武士より、貴族
の飛び方だな。
姫蛍ってのはもっと可愛いらしいが、見たこと
はないな。
短い生命を恋のために己を灯して、飛び回る
良いよな。蛍狩り…。」
と言っておいて、麓に着くと
「混んでるな?!
我が家の近くの田んぼに行って見よう!
帰るぞ!」
と決まって言った。
我が家の近くの田んぼにもいた。
コンビニの駐車場に車を停めて、真愛だけが畦道を蚊に喰われながら探す。
闇の中にぽっと光る。
近寄るとすぅ〜と飛んでいく。
儚い光は、幻想的な世界に誘うのではなく
「頑張れ〜!
好きな人見つかると良いね。」
と思った。
小さい頃は、蛍を捕まえたのに大人になって見るだけになった。
しかし、厚洋さんと最後に蛍狩りに行った時は、稲穂の上を沿うように覆って1匹捕まえた。
コンビニで買った新しいタバコを吸いながら真愛を見ていた厚洋さんに見せたかったのだ。
まるで、蛍の火が灯るようにタバコの先が赤くなるのが見えた。
「ほら!」
って、そっと手を開くと、一つ光ってから闇の中に消えて行った。
「いいね。
元気に女を探しに行ったな!」
「うん。」
その時は、そう思ったが最近になって分かったのは、飛び回っていたのは雄で、葉の上に止まっているのが雌のようだ。
だから、あの時の蛍は雌。
男を探しに私の手の中から飛んでいったのだ。
それを厚洋さんが知っていたら、
「男漁りに行くのかな?」
なんていやらしい事を言ったのだろうか。
今年、見つけた蛍の雌雄の雑学は、
『闇の中を飛び回っているのはほとんどがオス。
飛び回りながら自分の相手を探す。
メスの蛍は地上や草、木の葉っぱの上で小さな
光を発しながらオスを待つ。
メスの小さな光を見つけたオスは、
強い光でプロポーズし、カップルになる。
このオスがメスの元に降りていく姿が、
火が垂れるかのように見えることから
「火垂る」の語源になったと言われる。】
であった。
すでに、6月が終わる。
今年も蛍狩りには行けないだろう。
毎年の季節イベントは、きちんとその日をメモして覚えていないと切ない話になる。
メモをしておいても、厚洋さんがいない蛍狩りには切なくて一人ではいけない。
ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります