見つけた二人の写真
大好きな厚洋さんとお揃いのグレーのセーターを着て、初孫を抱いている真愛がいる。
彼がなくなる1年2ヶ月前の土曜日のことだ。
恥ずかしがり屋で、写真を撮られる事が好きではなかった厚洋さんなので、真愛と2人で写っている写真が少ない。
更に、ビデオなんて、真愛の頼みで撮ってくれる事はあっても、自分が撮影されているものなど皆無だ。
彼は、20年ぐらい前に「トヨタのドリームプロジェクト」とやらで、「廃校になる学校を電飾で飾る」という企画に応募し、採用された。子どもたちとの学校生活の様子とともに「谷村新司さんが校舎に向かって“いい日旅立ち”をアカペラで歌ってくれた」2時間番組のラスト20分ほどが全国放映された。番組内で笑顔の厚洋さんが撮られていた。なった。
しかし、その番組を一緒に見る事も恥ずかしがった。番組から録画されたカセットも、私の知らないうちに処分してしまっていた。
こんな人だから、映像も画像も残っていない。
三回忌が過ぎ、彼の声、彼の動きを忘れていくようで悲しかった。
すると、探してくれたのだろう、お嫁さんが撮ってくれた画像を息子が送ってくれた。
数秒の動画を何度も見、聞いた。そして、「2人で写っている一瞬」を切り取って写真にしたいと願ったが、その方法を知らなかった。
ところが、最近、動画を静止画像(写真)に取り出すことのできるアプリを手に入れる事ができた。
8秒しかない動画から「写真」を取り出した。それが、見出しの写真だ。
↑真愛が
「どうちまちゅか?
じいちゃんのところに行きまちゅか?」
「行きません。」
と厚洋さんに突っぱねられている。
「嫌でちゅね。
ダメでちゅって!」
と赤ちゃん言葉の真愛ばあちゃんである。
8秒しかない動画から、写真を取り出した。
あの日の思い出が蘇り、堪らなく切なくなった。
戻らない時間を確認できる自分になっていたことも悲しかった。
彼が亡くなってから暫く、想い続ければ必ず彼に会える気がしていた。「亡くなった=2度と会えない。」となかなか思えなかったのだ。
今でも、次の世界では会えると思っているし、厚洋さんは真愛の側にいると思っているが、抱きついたり、髪を撫でてもらう事は出来ないと諦めるようになった。
時は戻せず、戻らない時間がある事を認められるようになったのだ。
ひょっとしたら、見る事が出来ないから「忘れられない」のかもしれないと思った。
(名優さんの奥さんなんて、旦那様に沢山会えていいなあ。)
と思った。
しかし、どの映像もお仕事のためであって、奥さんとのホームビデオではない。まして、モテる男の役なんかやられていたら…。
真愛だったら見たくない。
写真が少ないと言いながら、一枚宝物のように思っている方が幸せなのかもしれない。
先日、厚洋さんの所に逝ったチャーちゃんの
写真は、このスマホのアルバムの中にも、パソコンのhome page用の保存写真の中にも沢山ある。一月に5枚は撮っているので、5×12×10枚ほど残っている。
厚洋さんと一緒のもの。真愛と一緒のもの、チャーちゃんだけのもの。
たくさんあり過ぎて、どれを遺影にするか迷っている。
しかし、今は飾りたいと思わない。
猫と一緒にしたら叱られると思うが、厚洋さんが亡くなって暫くは、遺影の中に彼がいるのではなく、【真愛の近くに厚洋さんがいる事を感じていた。】
半年たって4月の10日に【真愛そのものが厚洋さんになった】
まだ、チャーちゃんは真愛の近くをうろうろしていると思う。
振り向いた時にテーブルの上にチャーちゃんが見えたり、床の上でゴロンとしているチャーちゃんが見えたりする。
真愛の視覚の記憶の中に動き回るチャーちゃんの残像があるのだろう。
見たくなったら、いつも寝ていた椅子の上をじっと見つめれば現れる。
まだ、真愛を心配して近くにいるのかなと思う。
新たな2人の写真を見つけて、喜んでいる真愛を厚洋さんとチャーちゃんが一緒に見ているのかなとも思う。
何と言っているのだろう。
あちらの二人で…。
いや、あちらにいる真愛に関わる多くの人たちと何を話しているのだろう。
確実に分かるのは、みんなで
「真愛の安寧と幸せ」
を見守ってくれていることだ。
ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります