見出し画像

誕生日

 お盆の迎え火を焚き、厚洋さんの好きなネクタリンを供えてから、お下がりを頂き誕生日の夕食を終えた。
 一人で迎える誕生日の夜に慣れてきた。
 20:21 突然のLINE電話。
「お母さん。
 お誕生日おめでとう🎉ございます。
 happy birthday to you❣️」
とカオちゃん(息子のお嫁さん)の明るい声。
「あら、ありがとう。」
と言った後、ママの後ろで泣いている孫の様子が気になり、
「どうしたの?泣いてるみたいだけど?」
「えっ。ええ、ちょっと。
 今ね。お家の玄関前にプレゼントを
 置いてきたんです。会えなかったって、
 泣いているのね。」
「・・・。待って!」
 スマホを充電器から外し、耳に当てたまま玄関に向かう
「来たの?いつ?えー?」
「あったわ。ありがとう。
 ごめんね。暗くて。お提灯を下げていて 
 チャイム鳴らせなかったね。」
何を言いたいのか自分でもわからなかった。
「会いたかったけど会えないから…。
 カード書きました。thuは自分で書きました。
 kaも書くって言うので…。」
声はとても明るく元気だが、会えない気持ちが泣き声になりそうである。
「駄目だわ。泣いちゃう。
 ありがとう。嬉しい。
 いっぱい入ってる。3枚も、他にも…。」
「お母さん、最近、
 白い色が好きって言ったたから
 白のバレッタね。」
「ありがとう。
 いつ来たの。今どこにいるの?」
「今、下の信号の所」
 あの子達は、今、500メートルの近くにいるのだ。走ったら、車を見る事が出来るかもしれない。
「会ったらいけないので、
 会わずに帰ります。」
 真愛の地域も彼らの地域も「緊急事態宣言下」
県を跨いでの異動は自粛しなければならない。
 50Km離れていて、10ヶ月も会えなかった愛しい子達が500mのこの地にいるのに
「そう。今日はどっかに寄って帰るの?」
「いや。このまま帰るよ。」
と運転席からの息子の声がする。
 日頃から、目の手術や感染症対策・ワクチン接種等々、会えなくても細かいことまで心配してくれる息子である。
 彼はワクチン接種も2回終わっているが、まだ1回目しか済んでいない母親を気遣ってくれている。
 この子達は、この可愛いプレゼントを届けるためだけに来てくれたのだ。
「お金がなくて、プレゼントは無いけど」
と、真愛の母が、ぎゅっと抱きしめてくれた12歳の誕生日プレゼントも嬉しかった。
 死の床に伏せていた厚洋さんが、
「ごめんな。何にも出来なくて。
 おいで!」
と、力の入らない腕で、優しく抱きしめてくれて、髪を撫でてくれた3年前の誕生日プレゼント。
 このプレゼント以上に嬉しい誕生日プレゼントは、もう無いと思っていた。

 手紙を読んでいたらLINEが入った。
「お母さん!!
 袋や封を開けたら手洗いと消毒だけ
 お願いします(🥺)!!」

「忘れて涙拭いちゃいそうでした。」
 急いで、消毒して手洗いもした。

「よかった💦 
 ここで万が一感染させてしまっては
 大変です。」

 私はなんと「幸せ者」なのだろう。
 電話では伝えきれない、上手く伝えられない感情だった。
「消毒して、手を洗って「写真」を撮って、
 お仏壇に供えて書いてます。
 電話をかけたら、きっと喋れなくなってしまう 
 ので書きます。
 今日の占いに
「自分にとって誰が掛け替えのない人か
 分かる日」
 とありました。
 私にとっての1番は、厚洋さんだと思っていたの
 です。
 亡くなっても…。
 でも、占い通りでした。
 掛け替えの無い人は、貴方達だったのです。
 上手く伝えられないのですが、
 拓君を産んで良かった。
 拓がカオちゃんと出逢えて良かった。
 thuちゃんが厚洋さんに会ってくれて良かった。 
   kaちゃんが生まれてくれたので、
 新しい家族の1人である事を
 実感させてもらえた。
 そして、今夜、一番幸せな誕生日をしてもらい 
 ました。
 コロナ禍なのに、こんなに幸せなおばあさんは 
 いないでしょうね。
 本当にありがとうございました。」 

「厚洋さんも見ていてくれたでしょう?
 真愛が幸せを独り占めしてごめんね。
 お迎え火を焚いた後の出来事だもの。
 絶対、見てるよね。一緒に。」
「見てるぞ。
 盆の入りに生まれて良かったな。
 会わずに帰るあいつらは、
          最高の家族だな。
 俺は、お前が幸せなのかが、一番気がかり。
 俺の分も幸せになって良いよ。」
と、写真の厚洋さんは笑った。
「元気に過ごして、
 コロナ落ち着いたらメシでも行こうなー」
と息子からのLINE。
「ありがとう。
 この幸せ感はずっと続くので、長生きしそう。
 すみませんが、
 100まで生きそうですので、
 宜しくお願いします。」
と返信した。

「一緒に楽しみながら生きていきましょう。
 喜んでもらえて、こちらこそ嬉しいです。
 お祝いさせてもらえることに
 感謝なのです。」
と、カオちゃんから

「ありがとう。
 事実は小説より奇なりです。
 真愛の周りには,素晴らしいドラマの主人公が
 いっぱいいることを実感しています。」
と返信。

 お墓参りは大雨で、墓石は泣いているように見えた。
 きっと、寂しそうな真愛を心配していてくれたのかもしれない。

 今年のお迎え火は、いつになく勢い良く炊き上げられ
「あら、速く来てくれるのかしら?」
と、雨空を見上げた。

「真愛の誕生日」と言うドラマは、コロナ禍の中、緊急事態宣言下で、誠実な家族でなければ味わえない「真心の幸せ」な話であったと思う。
 厚洋さんも、母も父も
 厚洋さんの父さん母さんも、
 カオちゃんの父さん母さんも、
 真愛に繋がる全てのあちらにいる方々が、いろいろな方法を駆使して、
「誕生日。生まれて良かったな。」
って言ってくれた気がした。
 小説より奇なりの「誕生日」だった。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります