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田舎〜の野焼き

 大寒の真っ只中。
 明日は10年に一度の大寒波が到来するらしいという日の午後1時。
 いつものようにスポーツジムに通う道に曲がると小さな炎が上がり、モウモウと煙が道を覆っていた。
 一昨日、灯油を買いに行ったのだが、キャップの閉め方が甘かったようで車内は灯油の匂いが残っている。
 少々寒いが空気の取り入れを車外からに切り替えているので、野焼きの煙と灯油の匂いが一緒になった。
 野焼きの煙ぐらいで引火することはないが、やや不安な思いで通過した。
 見晴らしの良い田舎道からは、そこここで野焼きをしているのが見える。
 まるで、狼煙のようだ。
「春よ!
 こっちへ来い。
 ここから春の始まりだ。」
って知らせているのかもしれない。

手前は野焼きの跡

 狼煙と書いて、「焼く」「焚く」なんて言葉を思い出した。
 彼が逝って120日が過ぎた正月2日。
 彼をあちらに送ってくれた若住職が護摩焚き法要をするからと呼んでくれた。
 信仰心の乏しかった真愛は、至近距離で見る初めての法要だった。
(永代に母の墓所があるので、お参りの帰りに 
 深川不動尊の護摩焚き法要を見た事があるが
 大人数だったので、結構な後ろからだった)

 護摩木の燃え盛る音と読経。
 立ち上がる炎の揺らぎに言葉にならない不思議な安らかさを感じた。
 お焚き上げの後、若住職が

 私たちの煩悩を焼き尽くして、清らかな心に
 なることで心願成就をお祈りするのです。」
 若住職は真愛の教え子さんなので、皆さんがお帰りになった後、
「先生。
 火というのは、
 全てを焼き尽くして新たなるものを生み出す
 のです。
 先生が話してくれたことを覚えていますか?
 物質不滅の法則です。
 旦那様のお身体は焼き尽くされてしまわれま
 したが、浄化された心は新たな姿になって、
 先生のお近くにいらっしゃるのですよ。
 浄化ではなく、思いが昇華されたと言っても
 よいのだと思います。」

護摩焚き

 護摩木は仏様へのお供えであり、一本一本に無病息災・心願成就等々のお願い事を書き焚き上げられたのだ。
 真愛の感じた不思議な安らぎは、燃やすことによって何かが浄化されたのだと思う。

TVで

「修二会」のお松明も二月堂に上堂する練行衆の道明かりとして灯されるそうだ。
 籠松明がグルグルと回りながら火の粉を撒き散らしながら進む有様は息を呑む。
🎶水よ清め 火よ焼き払えよ🎶
     この身の罪 この深き業   
 さだまさしさんが「修二会」で歌っている。 
 火というのは、不思議なものだ。
 いや、炎というのが不思議なのだろうか。

「焼く」「焚く」という事が、消し去り浄化することに絡み合って「野焼き」が神事のような感じた。

「焼く」
1 火をつけて燃やす。また、燃やしてなくす。 
 焼失する。

2 火に当てて熱を通し、食するようにする。
3 火で熱して製品などをつくる。
4 日光などに当てて変色させる。
5 写真の原板から陽画をつくる。

㋐患部に薬品を塗ったり、放射線を当てて治療
㋑薬品で皮膚の組織などを損なう。
㋒やけどをさせる。
7 悩んで苦しい思いをする。
8 あれこれ気を使う。扱いなどで悩む。
9 (「妬く」とも書く)嫉妬、しっとする。

10 CD・DVD・ブルーレイディスクなどに、
 音声・文書・画像などのデータを記録する。 
 書き込む。
11 (江戸前期、上方の遊里で)
 うれしがらせを言う。おだてる。

野焼き

「焼く」ってたくさんの意味があるのだ。
全て使っていたのに一義的な意味しか思い出せなかった。

 愛しい人の亡くなった事を受け入れられず、思い悩んで、毎夜身を焼いていた女であり、彼は本当に真愛を愛し続けてくれていたのかと猜疑心の中にもあったし、煩悩に絡め取られ身動きが出来ない状態だった。
 それが見えた若住職が、真愛に告げてくれたのだ。
 ひょっとしたら、あれは厚洋さんの言葉だったのかもしれない。
 野焼きの匂いが車の中にも入って来る。
 清められた空気は
     田舎の野焼きの匂いがした。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります