見出し画像

昔話法廷

 変な昔話と言うnoteを書いたことがある。
 桃太郎が鬼ヶ島に行って鬼を退治するのではなく、鬼を説得(宝物を返す様に…。)する。
 鬼は動物たちの騒音に困って宝物を返すという。 
 なんだかわけのわからない昔話を聞いた。
「自由と平等」は、生きていく上で、絶対的に大切であり、守られなければならないものだと思う。差別・暴力・虐め…。絶対にあってはならないものだと思う。
 セクハラ・モラハラ・パワハラ・ジェンダー・DV…。老々介護・ヤングケアラー
 桃太郎の話を変化させなければならない時代になったのか。
 過去のお話を否定する事に違和感を覚えた。

 
 そんな時、「昔話法廷」と言うタイトルに目が行き、思わずその番組を見てしまった。
 その時の法廷は猿かに合戦だ。
 どんなことをするのかと思ったら、猿が被告。カニの息子が原告。
 そして、弁護士が就ききちっとした裁判をするのだ。猿蟹合戦の猿が被告になって法廷で死刑判決が出るとは思わなかった。

 確かに、あの猿蟹合戦では、種を植えたカニは、甘い柿をとってくれと頼んだのに、登った猿は青い柿を投げつけて、カニを殺してしまったと言うのだ。
 だから、カニの子は、お母さん蟹の敵を打つために、臼や蜂を使って敵討ちをしたわけだ。 
 昔話では最後に猿が
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
と言って逃げていって終わりになる。
 しかし、現代社会は違う仕返しをされた猿は捕まえられて、法廷に出され裁かれることになるのだ。

 猿が犯したとされる罪を、検察官が述べる。
「被告人の猿は、
 何の落ち度もないカニの命を無残に奪った。
 事件当時20歳だった猿は、柿を取れずに困っ
 ていたカニの親子に出会い。 
 猿は『自分が取ってやろう』と言って木に登
 り、熟れた柿を食べつくし、そのことに、
 文句を言った母ガニに猿は逆上。
 まだ青くて硬い柿を執拗に投げつけた。
 何発も直撃を食らった母ガニと幼い娘二人
 は、体を砕かれ死亡した。」

 柿を投げつけた事によって起こった事件を、言葉を変えて表現すると、こんなにも酷い事件になるのだ。
「死んでしまいました。」の言葉と「死亡」と同じ事なのに…。
  猿は逮捕されるまでの8年間、逃亡をNHKの朝ドラでは「寅に翼」という司法界のドラマをしている。
 司法が難しいと感じる原因は「言語」だと思った。難しい言葉は「大和言葉」ではなく「漢語」なのだ。
 引っかかったのは「何の落ち度もない」という言葉である。
 人が人を怒られるのに「何の落ち度もない」事なんてあるのだろうか?
 検察官は言う。
「これは刑法第199条の殺人罪にあたります。 
 そして、この短絡的であまりにも残虐な犯行
 は、死刑が相当と考えます。」

被告人 猿

 猿は、検察官が述べた内容を全面的に認める。
 その上で、弁護人は、犯行に至るまでの猿の境遇に同情の余地があること、猿が十分に反省し更生していることから、
「死刑にすべきではない」
と訴える。

証人尋問

証人尋問 カニの子
検察官は、殺されたカニの長男である子ガニを証人に呼ぷ。
 子ガニは、突然家族を奪われた無念を語り
「母は、とても優しい人でした。
 父が亡くなった後も、いつも笑顔で、
 僕と妹たちを育ててくれました。
 母と妹たちは、何ひとつ悪いことをして
 いない!
 僕は猿を絶対に許しません!」
と訴える。
 事件当時8歳だった子ガニは、母と妹たちが殺される現場を目撃し
「猿は、『死ね!死ね!』とすごい形相で柿を
 投げつけていました。
 僕は怖くて動けなくて、ただ見ていることし
 かできませんでした…。」
 8年後、猿の居所を突き止めた子ガニは、「僕は母たちを見殺しにした自分を責め続けて
 きました。
 それを償うためには、この手で猿を殺すしか
 ないと思ってきました。」
 しかし、子ガニは、自ら手を下すことなく、猿を警察に引き渡した。
「殺しきれなかった不甲斐ない自分に代わって
 法律が猿に死を与えてくれると信じている」
と言うのだ。
 昔話の中には、仕返しを「敵討」として良いこととしているものが多い。
「恩返し」もあるが、「敵討」「討伐」も多い。それでいいと思って聞いていたから、この様に蟹の子どもの気持ちなんて考えたことはなかった。
 当然、猿の気持ちも臼や蜂の気持ちも考えたことはない。

弁護士

 弁護人が反対尋問
「あなたは、なぜ猿を殺すことができなかった
 のですか?」
 子ガニは、自分のハサミを猿の首にかけておきながら、切り落とすことができなかった。
 子ガニは
「家の壁に、猿の子どもが描いた絵が飾られて
 いて…。
 それを見たら、どうしても猿を殺すことがで
 きなくなりました…。」
と理由を言う。
「あなたは死刑を望んでいるが、
 本当は、猿の命を奪ってはいけないと思って
 いるのではありませんか?
 愛する人を奪われる悲しみを
 知っているあなただからこそ!」
と、子カニの「死」に対する深淵を抉り出す。
 みている真愛の判断がぐちゃぐちゃになってしまった。
 猿を被告なんて…。と思っていたが、愛しい人を殺されたら、復讐を誓う自分も見つけた。
「死刑」を望んでいるが、自分の手で殺したくないという嫌らしい考え方も持っている真愛も発見した。

猿の妻

証人尋問 猿の妻
弁護人は、猿の妻を証人に…。
 事件の少し後に夫と出会った妻は、事件のことは何も知らされていなかった。
「夫は、知り合った頃は口数も少なくてどこか
 影のある感じでしたが、子どもができてから
 変わったんです!
 夫は、生まれたばかりのあの子を抱いて、
 何度も私に『ありがとう、ありがとう』
 と礼を言いました。
 優しくて、本当にいい父親なんです…。」
 妻は、猿がひとりの父親として更生していることを訴える。
 そして、弁護人からは、猿が子ガニに対して毎月5万円の仕送りをしていた事実が明かされる。
「夫は本当に後悔しています。
 ですから、どうか生きて償わせてください! 
 息子から父親を奪わないでやってほしいん
 です!」

 反対尋問に立った検察官は猿の妻に
「あなたは『生きて償わせてほしい』と言いま
 したが、では具体的にどう償うつもりですか 
 毎月の仕送りも、償いではなく、
 ただ罪の意識を軽くするために行っていた
 のではないですか?
 あなたは、猿が後悔していると言いましたが
 ではなぜ8年間も身を隠し出頭しなかったの
 でしょうか?」
 うーん。
 検察官の女性がとても冷たい感じがした。 
 こんな書き方をすると、女性蔑視で偏見の見方だと言われそうだが、
(あんたは、人の思いを素直に受け取れないの
 か?愛する人への想いなんてわからんのだろ
 う?君は結婚しているのか?子どもを育てた
 ことがあるのか?なんてききたくなった。)

 検察官は、子ガニから家族を奪った罪が償いきれるものではないこと、猿が身勝手であることを訴えた。
 確かにそういう考え方もある。
 しかし、子どもを思う心は「身勝手」な事なのか妙な違和感も覚えた。

息子への猿の想い

被告人質問
 被告人・猿への質問
 弁護人
「あなたは、なぜ面識のなかったカニの親子
 に殺意を抱いたのですか?」
の問いに対して
「母ガニに…『ひとでなし』と言われたからで
 す。」
と、猿は自分の過去を話し始めた。
 猿が子どもの頃、猿の父親はDVだった。
 そんな父親に、母親がいつも泣きながら言っていた言葉が「ひとでなし」だったという。
 猿は父親を心から軽蔑し憎んだが、成長した自分は父親そっくりになっていたという。
「父のようになってしまうのではないか、
 強い恐怖を抱きました。
 でも、父のようになりたくないと思えば思う
 ほど、仕草も言葉づかいも似てくるんです…
 そんな自分自身に耐え切れなくなった…。」
 そして、事件当日
「あの日、当時交際していた女性と、ちょっと
 したことで口論になりました。
 その時、つい手を上げそうになったんです…
 その瞬間、私は『父になってしまった』と思
 い震えが止まらなくなりました…。」
 そんなときに、猿は、カニの親子に出会ったというのだ。
 幸せそうなカニの親子が苛立たしくて、木に登り柿を食べつくすと、怒った母ガニに…。
 猿が一番言われたくなかった、
「ひとでなし」だったのだ。
「私の中で何かが切れてしまいました。
『だまれ!だまれ!』という気持ちで柿を投げ
 続けました。
 それだけは認めたくなかったんです!
 本当に…申し訳ありませんでした!」
 猿は、子ガニのほうを向きなおり、深々と頭を下げるのだ。
 ただの「さるかに合戦」だが、被告人の背景を語られるとそちら側に動いてしまう。

 検察官が、反対質問をする。
「あなたは、父親に似ていく自分に嫌悪感を
 感じて追い詰められていたのかもしれない。 
 しかし、そんなことは、カニの家族にとって
 は何の関係もないことです。」
 そりゃそうだ。
 全く知らない状況での一言に反応されて殺されたのでは敵わない。
「母ガニの何気ない一言に逆上したあなたは、
 硬い柿を執拗に投げ続けた。
 ひとつは、胸を貫通し、
 ひとつは目をそぎ、体は粉々に砕けました。
 さらに、あなたは、母ガニの側の幼い子ども
 たちがいたこともわかっていましたね?
 つまり、あなたは、逃げようとした幼い子ど
 もたちまでもねらった!
 ただ、自分の気持ちを静めるためだけに!
 命ってそんなに軽いものですか?」

 正論である。
「命とはそんなに軽いものではない。」
 しかし、「死刑」という刑にも似た様な考えを持ってはいけないのだろうか。
 しかし、愛する人の命を奪われたら、ハムラビ法典ではないが、「命には命で償うのか。」わからなくなった。

見つめる裁判員

 最終弁論最後に、検察官と弁護人がお互いの意見を述べる。
 検察官は、
「猿は、極めて残虐な方法で、親子3人の命を
 奪いました。
 その動機は、あまりに自己中心的です。
 遺族の処罰感情も強く、もはや死をもって
 償うしかありません!」
と訴える。
 弁護人は
「本件は、精神的に追い詰められた末の衝動的
 な犯行であり、計画性はありません。
 さらに、猿は十分に反省し、一人の父親とし
 て更生しています。
 これらは、死刑を回避するのに十分な理由で
 す。命を奪った罪は命でしか償えないもので
 しょうか。
 猿は生きて償うべきです!」
と訴える。

 猿を死刑にするか、死刑にしないか。
 裁判員は、ひとつの命をめぐる判断をくださなければなりません。

悩む!

 真愛が裁判員だったら、どんな判決を良しとするのだろうか。
 悩んでしまった。
 ただの昔話だが、『法廷』という場で、双方から語られた見方を聞いて、どうして良いかわからない自分がいる事に愕然とした。
 事実には、様々な見方がある事。
 もちろん、情報にもそれぞれの見方があって、その見方で語られているのだ。
 全てのことを鵜呑みにしないで、ちょっと待って考えたいものである。
 NHK・Eテレの『昔話法廷』
 この番組の目的も何なのか、考えてみたがよくわからなかった。
 裁判員になった時の研修か?
 死刑についての考え方か?
 平等に考えるということはできないと言うことが?
 面白い番組で、録画をし見返しながらnoteを書いたが、《分からない》という自分の思考のいい加減さを痛感して終わった。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります