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子育てパニック 熱が出た。

 朝から冷たい秋雨が降り始めた。この時期の雨は、心も体も寒くなる。
 昨夜息子から
「Kちゃんが寝込んだ。風邪みたいだ。
 今日は、残業なしで早く帰る。」
 いつも、元気で頑張り屋の嫁さんの具合が悪くなったのだ。
 コロナ禍・緊急事態宣言解除で孫も保育園に行き始めた。丁度半月が過ぎようとしている。
 ワクチン接種は2回終了。抗体もできた頃だと思うが心配である。
 子育てをしている中で、一番のパニックは
「子どもが病気になる事。」
「育児をする人が病気になる事。」
であって、そのどちらが上位と言えない。

 誰が病気になっても、身の置き所がないほど心配になる。
 まして、まだ自分の意思が伝えられない幼児が病気になったら、パニックである。
 いつも、煩く走り回って困らせていた子が、グッタリしていたら、
「異変だ。」
 まず「熱を計る。抱き抱えただけで、ムアッとした熱気が体に伝わって来た時の恐怖感は忘れられない。
 子どもの平熱は高いのだが、熱を出した時のその高さも半端無い。
「高熱が出た。」
真愛は、即、厚洋さんに連絡をとった。
「どうしよう。熱が高いの。」
 直ぐに病院に連れて行けば良いのだが、息子が熱を出すのは決まって夜だった。

 なんでだか分からなかったが、真愛の学校の仕事が忙しくなった時の夜だった。
 今なら分かる。
 保育者が忙しくなれば、その影響をいち早く受けるのは子どもだ。息子にゆとりを持って接しられないから、子どもにもストレスが溜まる。
 小さいながらも、いや小さいからこそ、親のストレスをダイレクトに感じていたのだと思う。
 早く早くとせかされたり、食べないなら片付けますと言われたり、いつもならたくさん抱っこもしてもらえたのに、切ない思いや我慢を強いられていたのだ。
 ストレス→免疫力の低下→体調不良→ストレス
の悪循環である。
「どうしよう。熱が高いの。」
オロオロする真愛に厚洋さんが落ち着いていう。
「何度?
 吐いた?
 脈と呼吸回数も数えて。
 子どもの高熱は、よくある事。
 まず、脇の下と首の後ろと冷やしてやろう。
 股のところも嫌がらなかったら冷やして。
 氷ではなく、氷水で冷やしたタオルが良い。
 温まったら取り替える。」
と言いながら、必ず手足を触っていた。
「手が冷たければこれからまだ上がる。
 手足も熱っていれば、上がり切った。
 2時間やっても、熱がもっと上がるようだった
 ら、夜間病院に連れて行こう。」

 落ち着いて話してくれる厚洋さんのお陰で、真愛自身のパニックも収まり、夜通し冷やす事になる。
 冷やされながら、傍にママがいるのだから、気持ちが良くなって寝てくれる。
 痙攣も無ければ、嘔吐もない。
 発疹も出なければ、激しく泣くこともない。
(ああ。忙しいからかまってあげられなかった
 ね。ごめんね。)
と思うと不思議と熱が下がった。
 翌朝、病院に連れて行くと、
「風邪ですね。熱が下がらないで続いたら
 必ずまた、来てくださいね。
 水を飲ませてください。
 食べたがるようだったら、
 柔らかいものを食べさせてください。」
そして、座薬を処方してもらって帰ってきた。
 息子は熱を出すとプリンを食べたがった。
 厚洋さんは、自分が熱を出すと「桃の缶詰にアイスクリーム乗せ」を食べていたらしく、息子にはプリンアラモードにして食べさせていた。
 息子も熱を出すと好きなものが食べられるのは覚えたようだ。(笑い話である。)
 しかし、子どもの病気・怪我には本当にパニックになった。
「家庭の医学」っていう本を買ってもらって、その度に読んで、自分の心を落ち着かせた。
 なんらかの心の拠り所となる知恵が欲しいものだ。 

 今日は、ママが熱を出したのだ。
 パパは、仕事で休めない。おばあちゃんは遠くて行ってあげられない。
 こうなると,どうして良いか分からない。
 まず、チビ助達だけでは、何もできない。
 洗濯をせず、掃除もしなくて大丈夫。
 問題は、食事である。
(調理をしなくて良いものを…。)
と考えたって、必ず起きて何かをしなくてはならない。
 だるい体を無理して起こし何かを作る。
 熱がある時に水を使う仕事は、身の毛がよだつほど冷たく感じる。
 そんな時は、惣菜パンでもスナック菓子でもなんでも食べさせておけば良いと思う。
 パパが帰りにテイクアウトの何かを買ってきてくれれば良いのだが…。

 問題は、この元気の良い2人だ。
 真愛のように一人暮らしの者が具合が悪くなったら、じっと寝てれば良い。
 自力で病院に行ければ診察してもらい、薬を貰えば安心する。
 自力で行けなくなるほど大変ならば、救急車やSECOMにご厄介になれば良い。
 厚洋さんもいないし、ニャンコもいない。誰も世話をしてくれないが、世話をする必要もない。
 ー ひたすら養生する事が出来る ー
 しかし、小さな子どもがいる母親が具合が悪くなったら大変だと思う。
 真愛は、母親が近くにいたので「幸せ」だった。自分の具合が悪い時は、母親・夫が子どもの世話をしてくれたのだ。
 いや、厚洋さんの教え子さんのお母さんにも世話をしてもらった。
 だから、そばに頼る者がいない嫁がどうしているか。
 心配でならない。

 ふと、ヤングケアラーの事を考えた。
 世の中には、ママが病気になり、ママの代わりに子育てをしたり、おじいちゃん・おばあちゃんの介護をしたりして、学校に行けない子どもがいるという。
 いざとなったら、真愛が遠くの息子の家に行き、家事一切をすれば良いのだから、嫁の所は救えると思うのだが、世の中の「保育者が倒れた」家庭はどうしたら良いのだろうか。
 パニックになり、ストレスになり家庭が崩壊してしまう。
 昨夜、新総理が立派な夢をテレビで喋っていたが、まず小さな家庭での安全安心の生活ができるようにしてほしい。
 最小限の個人の集合が家庭で、その家庭が集まって地方社会を作り、地方社会の集まりが国を形成していくのだと思う。
 まずは、核となる家庭を、それも小さな誰かが手を貸さなければ困っている家庭を大事に出来る政治をしてほしい。
 この10年で、日本の経済格差は何十倍にもなったという。金持ちはもっと金持ちに、貧乏人はもっと貧乏に…。
 とんでもない国を作ってしまった。
 ママが熱を出した時に、パニックにならない国にして欲しいものだ。
 また、話が飛んだが、
 ママが具合が悪くなったら、パニックだ。
 どうして良いか分からない。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります