【感想】WE ARE LITTLE ZOMBIES その1

青井在子です。
カクヨムで「私が溺れた川」という不倫小説を連載中です。

映画「WE ARE LITTLE ZOMBIES」を見てきたので、感想を書きたいと思います。ネタバレを含みますので、ご注意ください。

https://littlezombies.jp/

どれだけ寝ても疲れが取れず、今にも閉じそうな瞼の奥から睨んだ朝の情報番組。その新作映画コーナーで特集されていたのが、「WE ARE LITTLE ZOMBIES」だった。

両親を亡くした四人の中学生が火葬場で出会い、バンドを始めるというストーリー。
暗い映画&音楽好きな私としてはその設定にももちろん興味を持ったのだが、何よりも惹かれたのは劇中バンドの演奏シーン。

https://www.youtube.com/watch?v=2qjOEQattO4

「先週、僕の両親はバス事故で死にました。それで作った曲です。WE ARE LITTLE ZOMBIES」

主人公ヒカリの語りで始まるその曲の、レトロさのあるエレクトロポップ感と、あどけないけれど不安定で切なくなるような歌声。
聞き終わってもずっと「ウィーアー、ウィーアー、リトルゾンビーズ!」のコーラスが頭から離れなかった。

ので、仕事終わりに見に行ってみた。

それで、見終わったあと。
私は音楽も好きなので、街を歩くときは大抵イヤフォンで音楽を聴きながら歩いているんだけど、映画館を出て、イヤフォンを耳に刺して、

何の曲を聞けばいいんだろう?

って手が止まった。
どんな曲にもこの映画を見たことで沸き起こった感想とか感情を上塗りされなくなかったんだと思う。

先述の通り、この映画の主人公である四人の中学生の両親は揃いも揃って死んでいる。
そして四人の十四歳は、誰も両親の死に対して泣けなかった。

映画が始まる前、また冒頭部分を見ている間は、このことに対して「とがってんなー」とかせいぜい「悲しみが追い付いていないんだろうね…」としか思っていなかった。

四人の日記(もしくはインタビュー)形式で映画は物語は展開していく。

まずはボーカルの眼鏡の男の子、ヒカリ。
CMクリエイター(と呼ぶのかわからない職業)のパパと新聞記者のママの死因は、バス事故。
夫婦で出かけたバス旅行の道中で事故に遭って亡くなった。
ヒカリはバス事故のニュースを自宅のリビングでゲームをやりながら見ていて、まさにその時に警察から両親が亡くなったとの電話を受ける。

リアクションは「……まじかよ」の一言。

ヒカリは一人で遺体安置所に行き、ドッキリ番組であることを少し期待しつつも、そこで顔に白い布を被せられた二体の遺体が両親のものであることを確認する。

葬式の間も「退屈だ」と感じるだけで淡々としているヒカリ。
退屈すぎて、息子が寝ていると思い込んでいるママが語り掛けるシーンを思い出してしまう。
「ママとパパが別れちゃったらさ、ヒカリはどっちと暮らしたい?ママは一人で自由に暮らしたいかな。なんてね、うそうそ」

共働きで忙しく満足に息子にも構っていられない夫婦、なのかと思っていたら、どうやら夫婦仲も冷え込んでいたらしい。二人でバス旅行へ行くくらいなのだから、もう少し仲が良いと思っていたのだけれど。パパには不倫相手がいるようだった。
一人で自由に暮らしたい、なんて思わず本音を零すママ。気持ちはわかるけれど。そしてそれを聞いてしまったヒカリ。

両親に愛されていない僕、がすっかり出来上がってしまっていたようだ。

通夜告別式のあと、出棺の前に棺を覗いていたヒカリが伯父に呼ばれてあまりにもあっさりと、というか乱暴に小窓を閉めるのも印象的だった。
死んでしまったことに興味がないというか、「勝手に死にやがってクソ」とか思ってそうな雰囲気。

ドラム担当でぽっちゃりの石くんの両親は、ガス爆発で死亡。私の中では彼が一番の切なさ担当だ。
パパとママの死の当日を振り返る前に、一つ印象的なシーンがある。
火葬場で遺体が焼けるのを待つ間、弁当を食べているのだが、米を箸で掬って口に運び、「あれー?」と首を傾げているのだ。親戚の男性が石くんに「やっぱり食欲無いか」と声を掛けている。
そのときはあまり意味が分かっていなかったのだが、その後火葬場を抜け出し、ヒカリの家で、ヒカリがいつも食べていた冷凍のスパゲッティを食べる。

石くんはやっぱり首を傾げるのだ。
「うーん、味しない」
郁子がすかさず言う。
「添加物の味めちゃするよ?」

そして両親が事故に遭った日の回想が始まる。
石くんの実家は中華料理店。学校から帰ってくるとカラオケで歌っているのか演説しているのか分からない酔っ払いの客に絡まれる。
どうやらこれから習い事の空手に行く予定みたいだが、気が乗らないらしい。店の外でパパと座り込んで話す。

「やめたらいいじゃん。自分で決められる人のことを強いって言うんだよ」とパパ。おっ、なかなかマトモなのか、と安心しかけたところで、

「パパは昔、すごくタイプな人とママと同時に付き合ってたんだよ。で、ママが妊娠しちゃったからママと結婚したの」的なことを言い出す、なかなかクズなパパ。

店も兄が継がなかったから仕方なく継いだらしく、つまり何も自分では決めてこなかったとのこと。

そんなパパのことを反面教師にしたのか、空手に行くことにした石くん。
パパは息子に煙草を勧め、吸い殻を指で弾いてポイ捨てした。そう、ポイ捨て。ここは料理屋の裏です。もうこの辺りで「あー」となる。

空手の練習後の着替えで白いブリーフを履いていることを馬鹿にされ、強くならなきゃいけないんだ、と言い聞かせつつ、帰路に就く石くん。
商店街から真っ赤な夕日が見えた。

……って夕方の時間じゃない。

回想は終わり、現在の四人が石くんの実家の焼け跡で駄弁るシーンへ。
ここの石くんの台詞が、ちょっと泣きそうになっちゃうくらい切なかったんだけど。

「いつもさ、帰ってきたらチンジャオロース食べるの。多分、ママがさ、僕のチンジャオロース作ってるときに、その火がどこかに燃え移って、火事になっちゃったんだきっと。一生、チンジャオロース食べたくないわ。あれから、何食べても味しないんだよね」

僕のチンジャオロース作ってるときに。
の一言が、まるで責任を感じているかのようで。

一生チンジャオロース食べたくないわ。
たぶんママが作って待っていてくれるチンジャオロースが大好物だっただろうに。

何食べても味しないんだよね。
ここで火葬場の弁当とヒカリ宅の冷凍スパゲッティの場面の意味が分かる。味覚障害が出ていたんだ。
涙は流れなくても、身体は悲しい反応をしていたんだ。

石くんが一番、子供っぽく両親が亡くなったことに対してダメージを受けているような気がして、そこから四人の陰に隠れている(隠そうとしている?)脆さが垣間見えて、冒頭の「とんがってんなー」っていう印象は塵となって消えたのでした。

ベースの竹村の両親は借金を苦に自殺。
彼に関してはまず一言言わせていただきたい。

竹村役の俳優さん(奥村門土さん)色気ありすぎ…!
本当に十五歳なのか…!?と疑いたくなるほど(wikiが無かったのですが、2003年生まれという情報を見た)、目つきに色気がある。というか雰囲気?
ただそこにいるだけで、台詞がなくても存在感があって、静かだけど見逃せない魅力があるような…。これからの活動が楽しみ。

竹村の家庭環境は、この四人の中で一番酷かったように思う。
車のエンブレムを作る工場を経営しているが、破綻寸前で借金の取り立てに追いかけられている。兄と弟と妹の四兄弟。パパはDV男。

家に帰るとママが頬に痣を作っていて、見かねた竹村がパパに文句を言いに行って返り討ちに遭う。演技だと分かっていても、まだ線の細い少年に大の大人が(しかも父親が)馬乗りになって殴り続けるというのは、見ていて胸が潰れそうだった。

血を流しても泣かない竹村と彼を殴ったことに対する動揺も見せずに淡々と話を続けるパパ。これが彼の家庭の日常なのだと、伝わってくる。

キーボードの郁子の両親は不審者に殺された。
ハンサムなパパと美人なママ。郁子もアンニュイで儚げだけど生意気そうで、それがまた魅力的な美少女。

郁子の家庭で印象的だったのは、パパの「郁子さ、大人になったらパパと結婚してよ」という冗談交じりの台詞と、ママが郁子の髪を切り、顔の半分だけに化粧をする場面。それから郁子が後々三人に語る「無差別恋愛」のことば。

ここは推測でしかないけど、ママは女として郁子に嫉妬をしていたんじゃないかな。あまりにも美しすぎる自分の娘。自分から生まれたはずなのに、彼女はどんどん美しくなる一方で自分は年老いていく。たぶん、パパも郁子に恋愛感情を持っていたんじゃないだろうか。そしてママはそれに気づいていた。

顔の半分だけ化粧をされた郁子と、完璧なメイクで笑うママ。あのシーン、なんかぞっとした。郁子の女性らしさとか美しさを損なわせたかったんじゃないだろうか。

そしてピアノの先生も、郁子に歪んだ…ある意味真っすぐ過ぎるのか?な恋愛感情を抱いていた。「今度の誕生日、欲しいものある? なんでも願いを叶えてあげるよ」そのあとの郁子の台詞は聞こえなくて、口元の動きだけが映し出されていた。…なんとなくなんて言ったかは、想像できた。

そんなこんなで四人は家族(といっても両親以外の親戚)から逃げ出し、辿り着いたのはドリームランドというラブホテル。

そこでヒカリはクラスメイトにいじめられていた夢を見る。
彼は家庭だけじゃなく、学校でも居場所が無かったようだった。
自分の人生に価値が無いという台詞も、重みを増す。どうやったら彼に「人生は明るいよ」なんて教えられるだろうか?

お金も尽き、いつまでもホテルに泊まっていられるわけもなく、ゴミ集積場へ向かう。

どこからかボールを見つけてきてバスケをする石くんと竹村。と片隅でポケげをするヒカリとそれを見ている郁子。

竹村がヒカリに言った「レーシックすれば?」という台詞に対して、ヒカリはこう返す。

「親が唯一与えてくれた愛情がゲームソフトだったからさ。それのせいで悪くなった視力だったからさ。パパとママとのつながりが、この近眼なの。だから、レーシックしないの」

三人はヒカリのこの一言を聞いていなかったようだが、皮肉だとしても切なくなる。

ごみ集積所に暮らしていた浮浪者たちのビッグバンドの演奏が始まり、郁子は貧血でぶっ倒れる(ぶっ倒れ方も綺麗だった)。
目を覚ました郁子は何かを悟ったかのように、三人にバンドを始めようと提案(命令?)する。

ここで四人はようやくバンドを始める。
石くんは実家の焼け跡から見つけてきた鉄鍋をドラムに、竹村は兄のエレキベースを、郁子は浮浪者たちが使っていたキーボードを。ヒカリのポケゲをアンプに繋ぐと、たちまち楽器に。

歌詞はヒカリが書いたものだ。

郁子は集積場の警備員に動画を撮らせ、「LITTLE ZOMBIES」となった四人は演奏を始める。

「先週、僕のママとパパはバス事故で死にました。それで作った曲です」

…長くなりすぎたので、この辺りで一度切ります。

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