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10. 愛

『母子の秘密』


    卓は艶々とした母の顔をみるたびに胸に大きなしこりがあるような心地になった。卓は母を女としてとらえて肉の恋に身を焼いていた。母の熟し過ぎた果実のような甘ったるい生臭さが卓を悩ませた。ビジネススーツを着ていても家で寛いだ格好をしていても、衣服に閉じ込められたからだはじつに窮屈そうで、少しでも締めつけを緩めたらぶるぶるとこぼれ出そうだった。母が笑ったり歩いたり日常の動作をするたびに、そのからだがみちみちと弾ける音が卓には聞こえていた。何気ない仕草や目線までもが蕩けていて目に見えない汁を滴らせていた。卓には母の一挙手一投足すべてが痴技であり肉沼への誘いだった。卓は仕事が手につかず夢想に耽ることが増えた。

    父が生きていることを知っても卓自身の心境には特別変わらなかった。物心つく前に分かれた人物を父といわれても何も響かなかった。写真を見せられても初老の白髪の男性としか認められず、言葉だけでは嫌悪や喜びといった感情も湧かなかった。それよりも卓は母の変化に驚かされ、知らず知らずのうちに影響を受けていた。明らかに母は朗らかになった。キャリヤを積んだ社会人らしい行き届いた立ち居振る舞いはそのままだったが、ふと気を緩めたときの様子がこれまでとは違った。はっきりいって可愛らしい表情が多くなったのだ。卓に向かっても男性のハートを鷲掴みにするようなチャーミングな顔を見せた。本人にはあまりそういう意識はなかっただろう。今まで隠していた父のことを初めて家族に打ち明けられて安堵したことによる反動は確かにあるだろう。卓は母のコケットリーという言葉がぴったりくる愛嬌のよさが父との頻繁な交渉によることを確信していた。愛に堕ちたもの特有の嗅覚で卓は母の変化が表情だけではないことを敏感に察知していた。

    このところ母の帰宅は遅かった。十二時を回ることも珍しくなかった。帰宅した母は「ああくたびれた」と大儀そうな仕草を見せたが、そのわりには表情にハリがあり、振る舞いは不思議なことにむしろ軽やかだった。これまでは午前様も仕事が忙しいときは仕方がないと考えて気にも留めなかった卓だったが、今は母の奇妙に満たされた表情に疑念を抱くようになった。母が帰宅前にどこで何をしているのかをいぶかしく思った。その疑念と母のからだの充実具合とが結びつき毎日のようにどこかで誰かに抱かれているに違いないという結論に達すると、嫉妬と羨望が嵐のように湧き上がって興奮とともに胸を詰まらせた。まるで溺愛する恋人を寝取られた男のようだった。母がある男の情けに満たされて帰宅し、それをじっくりとからだに染みこませて肉の照りと張りを育んでいると思うとやり場のない怒りで目頭が燃えた。卓が父に対して抱いた初めての感情だった。

    仕事明けで朦朧とした卓が二階から降りると出勤する母と鉢合わせした。

「おはよう、卵は焼いておいたからチンしてね」

うつむき加減から顔を上げこちらを向き切る寸前で視線を外した母の襟元からまた甘酸っぱい香りがした。ファンデーションではなく女の萌した時の体液の匂いだと卓は思い込んだ。母の瞳は潤み下瞼から頬にかけてほんのりと朱が射していた。チークのせいだけではなかった。だいたい母はふだんから化粧が薄かった。

「うん、大丈夫、いってらっしゃい」

卓はからだにまとわりつくような母の挨拶の響きに慄いて慌てて返事をした。そのとき三和土に降りて靴を履こうとした母が何かの拍子で少しよろけた。あっとバランスを取ろうとして傍らにいた卓の手をつかんだ。母の重みに引きずられて卓も前のめりになったがこらえて母を後ろから抱えるようにして支えた。母の脇から手が入って胸をがっしりとつかむ格好になった。後ろから抱きすくめられた母は苦し気に振り向いた。母の後れ毛と頬が卓のくちびるに擦れ合った。襟足にはそばに寄ったものだけが気づく濃く危険な香りが渦を巻いていた。卓のくちびるはまだ母の頬の熱を感じられる距離にあった。卓はクリームのような肌の感触と咽るような母の体臭に一瞬で酔った。二人はそのまま凍った。卓は空いた手で母の顔をそっとおさえて唇を奪った。母は一瞬ためらいそして流れに身を任せた。互いの気持ちが通じた。卓の無茶な動きにも母親は積極的に応じた。激しい口づけが二人のからだに強い脈動を一つ送った。母も子も熱く湿ったものがからだに溜まり始めるのを感じていた。

「だめ、今は。帰ってから」

卓がくちびるを放すと母は顔を背けてつぶやいた。そして口の傍を指でぬぐい髪の乱れを気にしながらすばやく靴を履いて立ち上がった。母はぼう然としている卓を振り返らずに「いってきます」と小さくいうと玄関から出ていった。口づけのねっとりと糸を引くような余韻を扉の閉まる音が断ち切った。残された卓の口には母のせわしなく動く舌の感触が残っていた。いたずらな舌だった。母の言葉をかみしめると卓は目覚めないまま別の夢に堕ちてゆく心地がした。卓の男はもう猛っていた。

    今朝の裕美は目覚める前から男の記憶がからだの奥に蠢くのを感じていた。いやその燻りの熱で目覚めたのだった。ああ、もうこんなに、そうつぶやきながら濡れた下着を確かめた指が奥へと進むのを抑えられなかった。目覚める直前まで淫夢におぼれていた。その夢で裕美は卓に圧し掛かられていた。卓は獲物を見つけた若い獣の不敵な眼差しで裕美を射止めた。裕美は自分が催淫性の香気を放っていることをうっすらと自覚していた。しかしそれがここまで若者を狂わせるとは思わなかった。卓の視線が裕美のからだを貫きその熱で爛れた肉を焼いた。卓のからだの重みを感じ剛直な男の根に股座を圧迫されるうちに神経を揉みしだかれるような喜悦の拍が脈打った。裕美は喘ぎながら全身を解いてその強直を受けとめ粘り気のある年増の腰遣りで送り返したものだ。今、目覚めた裕美は下着を脱ぎ捨てて剥き出した女の芯を自分の手指で押し広げていた。愛にこなれた柔肉は難なく握った手を咥え込み、裕美はウロボロスの究極の愉悦に魂を蕩かせていた。繊維を引き千切るこぶしの侵入は冷えた刃が切り込むような衝撃で裕美を絶頂の極みへと送り込んだ。蜜を撒いて裕美は吼えた。蜜は柔肉の隙間からあふれ出てシーツを海にした。言葉にならない喘ぎとともに二度三度と潮は噴き上げられた。腰から広がった痺れがからだ中に広がると涙と唾液にまみれた顔の火照りも引き潮のように去っていった。
    しかし目覚めて鏡に向かうと再びからだの芯に疼きが訪れた。恭治に火を点けられたとはいえこんなに敏感で貪欲になるとは自分でも驚きだった。鏡を見ながらキャミソールの上から乳房にそっと触れただけでまた潤ってくるのが分かった。とにかくあの場所をいっぱいにして激しく刺激したいという欲望が一気に強まった。男がペニスを扱いて達するように女のあの場所を徹底的に嬲って登り詰めたかった。陰核を千切り取るほど強くつまみあげたいと考えただけで頭の後ろに何かが刺さったような気になった。手が下着に伸びそうになるのを懸命に堪えたのはこの欲望に安易に身を任せたらきっと心が崩壊するだろうという予感があったからだ。恵美との切実な交歓と恭治との不倫の邪恋とのはざまで裕美の心には余裕はなかった。なのに、その心境とはうらはらに、からだがひたすら充実してくるのを止められなかった。肉がからだの枠を超えてこぼれ落ちそうだった。指先で突いただけで饐えた汁が滴って止まらなかった。裕美の女は花弁を麻酔性の露にまみれさせて獲物を渇望していた。

    玄関で卓と交錯したときに裕美が夢中でささやいた言葉はその場を切り抜けるためのものではなかった。本音がこぼれ出たのだった。恵美が研修出張で不在なことが昨日から裕美の心に何度も甦って、今日しかないこの夜しかないと語りかけてきたのだった。手近かの機会を淫蕩な目的に利用することにためらいがない自分が怖かった。しかしそうやって性の衝動を解放する以外にまともな自分を保つ方法が思いつかなかった。裕美は何者かに駆り立てられていた。敏感になっていたからだに卓のふれた途端に女の性が皮膚を突き破ってしまったのだ。裕美はバスに揺られながら失禁した時に似た震えが駆け上がるのを感じていた。今夜だわ、今夜いよいよ、わたしはあの子の妻になるんだわ、そう考えると高揚感で眼が眩みそうだった。真っ黒な欲望の濁流が自分を押し流していることはその流れの生暖かさと甘さのせいでほとんど意識しなかった。

    卓は母の帰宅に気づいていた。しかしどう母に話しかければいいのかが分からず部屋から出ることができなかった。卓は仕事を続けるふりをしながら息を呑んで階下の様子に耳をそばだたせていた。くびれたウエストとぴっちりと張りつめたスーツの生地が描き出す美妙な丸みのイメージがまぶたに熱かった。張り出した尻を力いっぱい鷲づかみにしたかった。白々と胸元からあふれでる乳房を咬んで柔肌に紅花を咲かせたかった。今の卓にとっては裕美は母でも親でもなく若い情欲をこれでもかと挑発する一匹の発情期の雌だった。しかしそれでも卓の心の奥底には母の無償の愛をひたすらに浴びてその乳房にすがりついた頃の記憶があり、それが血の滾りとともに脈動する雄獣の情欲に哀しみ色の彩りを加えていた。母の愛に抱かれたいという泣きたいような思いが沸騰した男の血の蒸気の陰にあった。

    何かが卓の夢想を破った。小さなノックの音だった。

「はい」

卓は返事の声が震えないように気をつけたせいでかえって震えてしまいそうになった。

「開けていい?」

もちろん母の声だった。

「いいけど」

卓は必要以上に不愛想になってしまう自分がもどかしかった。扉が開いた。伏せ目がちに一歩部屋に入った母の姿を見て卓は眼がくらんだ。母は透けた薄紫のロングキャミソール姿だった。秘所をおおう小さい下着も濃い紫色だった。真っ白な脚は輝くようにそのボリュームと存在感を主張していたが、立ち姿全体としてはどこまでもたおやかで可憐だった。緩く巻いた髪が頬に揺れ、寝化粧のルージュが甘く光った。二人は黙ったまま見つめ合った。絶縁体を通して過電流が流れ込む寸前だった。

「するんでしょ?」

母は片方の人差し指を内緒話のようにくちびるに添えて艶然と口角を上げた。大胆すぎる挑発の言葉と自然な科が見事に調和していた。口火を切られた卓は一気に苦しくなった。のどが渇きが強まった。ファンデーションの甘い香りが部屋の色を変えたようだった。ねじれた夢想はぐっと力強く提示された現実の前に吹き飛んだ。する、したい、母さんとしたい、卓は絶叫しようとしたが一言も口から言葉が出なかった。汗だけが頬を伝った。

「下に来て」

かすれ声でそういうと母は紫のリボンが交差する背中を見せ肩越しにまつげと流し目の余韻を残して扉の外に去った。ほとんどおおわれていない臀部が左右を互いに押し合うように揺れて消えた。鉈を振り下ろすような誘惑だった。卓はしばらく動けなかった。そして次第に怒りがこみあげてきた。音を立てて椅子から立ち上がった。いやらしい格好で迫ってきやがって、俺が犯してやる、と卓は牙を剥いた。怒りしか立ち向かう術がなかったのだ。
    階段を駆け下りるようにして大股で廊下を進んだ卓は母の寝室の扉をその勢いのまま開いた。布団が敷いてあった。そこに膝を崩した母が卓を見上げた。気だるげな振る舞いとは裏腹に視線が燃え上がっていた。

「きたのね」

可憐なルージュが言葉とともに蠢いた。卓は胸を動悸で上下させながらシャツを脱いだ。ジーンズを脱いだ。トランクスも蹴るように剥いだ。母の卓を見上げる視線は卓の燃える瞳とがっちりつながった。うるんだ瞳から卓の眼に熱いものが注ぎ込まれた。母は視線をゆっくりと下していった。男がそびえていた。母のぼってりとしたくちびるから唾液で光る舌が覗いた。母はわずかに卓に這いよった。赤黒い拳のようなそれは眼に収まらなかった。それは母の心の成り立ちを根こそぎにした。母は何もかもを奪われたかった。期待と怖気が交じってからだを揺すった。それでも、怯えたような風情ながら主導権は母にあった。卓は母のからだのヴォリュームに圧倒されていたからだ。うずくまった腰の薄絹は信じられないほど張り切っていた。白く蕩けそうな両腕で抱えた胸にもみしみしと音を立てそうなほど匂肉が盛り上がっていた。寝化粧だけでなく熟れたからだそのものが咽るような匂いを放っていた。つまんだだけで饐えた蜜がしたたるようだった。卓は種馬のように奮い立った。

「きた」

卓の声がかすれた。股の筋肉が引き締まった。

「抱いて、あなた」

母の狂ったセリフに卓は飛び込むように真正面から母につかみかかった。

    二人がからまる動きの中で卓はキャミソールを引き裂いてしまった。母はそんな荒々しい振る舞いにも悩まし気な媚態で応じた。頬に赤みが差し吐息とともにゆるゆるとかぶりをふった。柔々と拒む仕草とからだを卓にすり寄せて尻をうねらせる姿に矛盾はなかった。卓が乳房をかき分けて乳暈にしゃぶりつくと母は突き上げるような快感を覚えた。そしてためらいなく息子の股間に手を伸ばした。母の指と掌は陰茎をふわりと包み愛おしんだ。卓はクリームのような乳房の感触を堪能しつつ母の緩やかな扱きによる腰の痺れを味わった。葡萄のような乳首が卓の口の中でぶるぶると踊った。母は声にならない声を上げて仰け反っていた。それでも手はペニスを放さずゆるゆると扱き、細い指は切なげに射精を求めて蠢いた。卓は名残惜しくもその手を振りほどき母の紫の下穿きを皮をむくようにくるりと剥ぎ取った。そして太腿を抱え上げて何の知らせもしないままにペニスを女の部分に押しつけた。キャミソールの破れが広がった。母は浮かせた尻を人妻らしく器用に動かした。抱かれ弄ばれ慣れた女の無意識の技だった。二人は露まみれの粘膜を互いにすべってあっという間に絆で結ばれた。熱い肉にとらわれた卓の下半身は毒の酸の沼に沈んで溶け失せてしまった。しかしなくなったはずのペニスから吐きそうなほどの脈動がこみ上げてきた。その脈動が喉元を越えて脳に届くと卓は気が狂ったようにからだを叩きつけ始めた。母は歓喜に嗚咽とともに卓の背中に爪を立てた。遺伝子にからだを操られた二人はすさまじい勢いで駆け上った。汗が滴り流れて母の腹の窪みに溜まった。二人のオスティナートが鈍い響きでシーツを打った。犬のように腰をふった卓は食いしばった歯を放して火のような息を吐くと同時に果てた。波立って音を立てていた女の沼も沸騰して潮を噴き上げ卓を襲った。母はフルートのように細く高い音を喉から搾り出しながら足を踏ん張って背中を反らせた。垂れた乳房が踊った。何度も弾ける火花で眼を眩ませつつ母は痙攣して背中を布団に落とした。
    すごくいい、こんなにいいものなの、と裕美は切れ切れの意識の中で感動した。息子の男に蹂躙される喜びが母に二十歳のころに初めてからだに響いたものを呼び覚ましていた。長年男から教わった肉の喜びの履歴を一息でたどり直すような一撃だった。両腕を突き立てた卓はふくらはぎの攣りを散らそうと膝を伸ばして腰を母の腰に密着させた。汗と愛液が隙間をうめた。母は頬についた髪を払いのけて卓を見つめ少し開いた口から舌をちらつかせた。卓が近寄ると食虫植物の触手のような舌がからみついた。舌は二匹の敏捷ななめくじのように互いの頭を貪ろうと追いかけあった。母の舌のまさぐりに応えて卓の男は女に埋もれたまま力を取り戻した。べとつくからだを厭わずに卓は腰をぐいぐいとおしつけて奥へ奥へと侵入した。

「ああ、また」

母は苦し気にうめいた。うめきながらしゃくりあげるような動きを見せる腰だった。余韻にひたる間もない攻撃に母の女は充血したまま激しい摩擦に晒されてまた蜜をあふれさせた。透明だった蜜は熱に白濁していた。甘酸っぱい香りに生臭さがあった。母は息子の背中で足首を組んだ。乳房は息子の胸でつぶれた。また溶けたと卓は感じた。母の嬌声が息子の嗜虐に火を点けた。ひいひいよがりやがって、淫乱な中年女だ、そうやって自分の橋頭保を確保しながら翻弄されるままに漏水するのを必死にこらえていた。柔肉をねっとりとからませて卓を追い込む母はなかば無意識ではあったがさらに女の手管で早く果てさせようとしてふしだらな言葉をささやいた。それもただささやくのではなく一言一言の反応を見て言霊を操り男を追い込んだ。言葉を送っては耳を甘噛みするのも忘れなかった。卓は猛った。剛直はさらに腫れ上がり女のからだを猛烈な勢いで押し広げた。母の白いからだがまた赤みを帯びてきた。乳首が石のように固まった。卓はどうにでもなれとピッチを上げた。その時母は頭でからだを支えるようにして背中を反らせた。

「うん、あっ」

母は射精するような勢いで一声叫んで跳ね上がった。その姿勢のままか細い喉音を立てたかと思うとどさっと落ちて、壊れた操り人形のように手足を広げて痙攣した。卓もすぐに追いかけて二度目の精を注いだ。一注ぎごとに唸りながら腰を押しつけた。

「もうこわいわ」

片腕で顔を隠すようにして母がつぶやいた。胸と腹は汗と体液でぎらついていた。二人はからだの側面を押しつけ合うようにして倒れていた。

「なぜ」

無口な卓が珍しく相手をうながした。射精の後の虚脱感のせいで何かにすがりたかった。手は母の乳房を求めてさまよっていた。

「離れられなくなりそうで」

母は胸だけ起き上がって卓を見下ろした。体液にまみれ髪を乱した鬼女のような中年女のまなざしが雌の喜びに輝いていた。年齢は欺かなかった。それなにのこの上なく美しかった。

「いいじゃない、それでも」

卓は母を抱き寄せてくちびるをさぐった。
    二人の舌がまたからまった。唾液が往き来し、歯がぶつかった。母はまた卓の男に手を伸ばした。これなの、これがいい、母は息子のそれにふれて慄いた。二度の交合でそれが自分のからだに形も動きも完全に符合していることに気づいた。女が受け入れることで男が女の形を変えることはあるがこういう風に初めから合うことは稀なはずだった。卓の男は母の女を完璧にとらえていた。挿入した瞬間に絶頂を極めることができた。その合致以上に生きる意味を今は見いだせなかった。だから怖かった。卓も自分をまさぐり続ける母に欲望に従順な理想の女を見出していた。こういう互いの利害、嗜好の一致を悦び合い、それを継続させようと努めることを愛というのではなかろうか、と卓は思った。朝はまだ遠かった。もう一度くらい挑んでみてもいいと思った卓は母の胸から顔を上げてそう伝えた。母はけだるげにうなずいた。卓はからだを離して腰を下ろした。母は起き上がるとそのまま倒れて卓の男をつかみ口に入れた。強さをよみがえらせる儀式にしては母の仕草は飴をしゃぶる子どもじみていた。音を立てて吸い上げては指の輪で小刻みに根元を扱いた。亀頭を強く舐められると卓は腰に心臓があるような動悸がして眼が眩んだ。ひとしきり舐め終わると母は卓の強さを確かめるでもなくただただ自分の都合で卓に尻を向けた。そして赤黒い部分を見せるように背を反らして鼻を鳴らし結合をせがんだ。隆々たる臀部を突き出した白く光る無毛の獣だった。ただ牝の獣にしては声音が甘かった。なによりその声に卓はまた猛った。がっちりと尻肉をつかむと打ち据えるようにして男を中心に突き立てた。女は舌なめずりをするように男を迎えて煮えたぎる肉の沼に沈めていった。

「ああん、またなのね」

母の鼻にかかった鳴き声が高まった。いやいやとかぶりを振りながら甘い吐息を惜しげなくまき散らし卓の運動に合わせて太尻をゆっさゆっさと往復させている。その貪欲なさまは見るものすべての興奮を煽っただろう。肉と肉が爆ぜる音が大きかった。二人とも太腿まで汁にまみれていた。絶頂はたやすく訪れそうだった。卓の男は母の女を絶妙の位置と呼吸でとらえていたからだ。卓は母の脇から手を入れて尻とは微妙に異なるリズムで揺れる乳房を鷲掴みにして勃起した蕾を指でひねりつぶした。女はきぃっと歯噛みして髪をふりながら仰け反った。ああいくいく、もういくわ、と母は叫んだつもりだったが獣のような咆哮になっただけだった。放屁のような音をたてて白濁した液体が噴き出した。亀頭は母の中で倍くらいに膨らんだようだった。そして母の嬌声は一オクターブあがった。卓の下半身がまた泥沼に沈んだように感覚が一瞬なくなった。次の瞬間強い動悸と脈が突き上げた。卓は乳房にしがみついたまま歯を食いしばって腰を尻に押しつけた。肉がほぐれ切って三度目の射精は母の子宮をまっすぐにとらえた。ああきたわ、きっとわたし、これで妊娠するんだわ、母は夢見心地だった。卓は断続的に精を放ちながらもむずがゆさを堪えて遮二無二責め立てた。あまりの攻めに弱々しい喘ぎ声を漏らしながら脱力した母は膝を伸ばして俯せていった。肘をついて肩を揺らす息が荒かった。二人はしばらくそのままの重なった姿勢でいたが男が力を失うと尻肉の厚みによって卓の男は押し出されてしまった。そして蝶番が開いたように大きく横倒しに仰向けた卓を母は横目で満足げに眺めた。そして卓に這い寄ってよじ登り卓の肩口を咬んだ。もう離れられない、こんなにいいなんて、わたしはこの子の女になるんだわ、と母は思って紅潮した頬を緩めて心からの笑みを浮かべた。卓は母の指が淫液にまみれた男をまた弄び始めたのに気付いた。

    けたたましいヘヴィメタル調の音楽が高鳴った。画面は暗転し、中近東風の複雑な模様のアイコンが画面に一つまた一つと表示されていった。仇敵を倒した戦果に対する恩賞だ。すべての表彰が表示されると音楽のヴォリュームは少し落ちた。ゲームソフトは次の操作をうながしている。しかし肝心のプレイヤーは画面に向かいながらもまるで別のことに頭を使っていた。女の姿態がよみがえると目の前の映像をかき消してしまうのだった。手は自然に G パンの前に降りていった。一差し指をフロントボタンとファスナーの隙間に差し込み親指でボタンの上の布を抉るように動かすと簡単にボタンははずれ、すでに憤っている男のものに持ち上げられたファスナーもつまみを爪で押すとするするとすべって開くのだった。おなじからだを共有するものとは思えないほど熱を持ったそれを掌でおおいゆっくりと揉むとそれはさらにきりきりと嵩を増した。卓は椅子の浅い位置に腰かけ直して目を閉じ天井に向けてそれを突き立てた。女のぷるんとしたくちびるがそれの先端にふれる、くちびるは割れそれは柔らかな口窟へと呑み込まれてゆく、温めた油を浴びたようだった、吸われ締め上げられたそれに小さな蛇のようなものがまとわりついてさらに悪戯をしかけた。卓は我知らず奥歯をかみしめていた。柔皮で包む間もないほど呆気なかった。つやつやと腫れ上がった先端から命の素が気まぐれで可憐な泉のように噴き出てTシャツとマウスパッドを汚した。だって母さんが、母さんがそんなことをするから。駄々っ子のようにかぶりを振りつつ卓は腰を反射的に突き上げて二弾、三弾を吹き上げた。命の素は力にあふれてシャツを越えて首筋にまで飛び散った。なぜかその状況は懸命なのに滑稽だった。生命へつながる聖なる行為にしてはか弱く無防備で惨めだった。くそっ、あの女のせいだ、あの女のからだのせいだ、許さない、犯してやる、汚してやる、卓は自分の制御の及ばぬ興奮を恥じるあまりにそれを埒もない怒りで糊塗してすべてを母に押しつけた。理不尽に押しつけられた母のからだはきっと限りない柔軟性と吸いつくような湿り気で卓をしっとりと押し返すだろうと思うと再び背骨に電気が走るように奮い立った。卓は自分を握りしめるのだった。命を放っても力を失わずに赤黒く立ち尽くすそれの無暗な力強さは、若い男らしい自尊と恥辱が混然となった見当違いの怒りそのものだった。

    卓との激しい交情は裕美のからだに燻っていた熱い衝動をひとまず抑えたようだった。親子で踏み入ってはいけないところに踏み入ってしまった、獣になってしまったという後悔や慙愧の念は不思議なほどなかった。川が地形に合わせて低い方へと流れるように裕美の愛も自然に流れて滝壺へと落ちていっただけだというのが実感だった。なぜ息子を愛する気持ちのまま交わることが許されないのかと反問したい気持ちすらあった。世間は禁忌を破ることを恐れるのではなく見栄や体裁を保てないことを恐れるだけではないかと、やや挑発気味に考えたりもした。裕美はなかば狂っていた。しかし、それは自分の行為を正当化することに躍起になった挙句というわけではなく、裕美が禁忌を犯せば生殖不全を起こして健康な子孫が残せないという事実に無知なわけでもなかった。裕美には自分の考えや行動を正しいものとして世間に認めてもらいたいという気持ちはまったくなかった。裕美はすでに自分と愛を交わしたもの、交わすもの以外との人としての関係をほぼ失っていた。何より大切なのはその愛を交わすことによる関係性を妨げられずに育むことであり、その目的のためだけに世間との交渉を保っていた。いわば敵を知るために社会にとけ込んでいる姿の見えない革命家だった。アナキストだった。裕美が恐れているのは自分自身だけだったともいえる。自分の欲望の奥深さにだけは怖気を覚えた。ふとした時に愛するあまり頭から幼児を貪り食った怪物が自分に棲んでいるのでは、いつか飛び出すのではと思って気が狂いそうになった。唯一の救いは卓と肌を合わせて深く愛し合った時にそういう気持ちにはならなかったことだった。あの時の激しい行為の結末には愛児とのふれあいともやや異なる奇妙な救済感が訪れて深く静かな癒しを感じた。二人の愛の運動が同期したときに、からだの中の乱れた振り子の動きがゆっくりと正しい動きに戻ってゆくような気がした。それは生活の中で乱雑になった事柄を正しい場所へと配置し直していった。嵐のようなセックスがすべてをバラバラにしたのではなくこの世の物事を新しい秩序、枠組みへと変化させたような気がした。

    その新しい秩序は時として現世の生活規範とは相容れず、例えば卑近には、卓との行為の残像が突発的に呼び覚ます性的な気分の高揚が裕美を悩ませることになった。作業中にそれに襲われれば中断して休憩を取り、用談中でも中座せざるを得なかった。深呼吸や飲み物を摂るだけですむことはほとんどなく、多くの場合は個室に入って短時間の自慰で気を晴らすしかなかった。ありとあらゆる痴態を盛り込んだ濃密なファンタジーを短時間にフル動員させる能力に自信はあるものの、その忙しなさそのものがまたストレスになった。衝動的にトイレで化粧を直していた部下の手を握って個室に引きずり込みそうになったこともあった。裕美は耐え忍んだ。下着を膝にひっかけて中腰のまま懸命にスポットを刺激する中年女の哀れな姿を思い描くと涙が出そうだったが、それでも刺激に応えた甘い殴打のような衝撃が二度三度と下半身を襲うとあらかじめ片手に握りしめていたハンカチーフを強くかみ締めて声を抑え、その愉悦に涙を流して浸り込むのだった。そして扉を開けて外に出ればそういった気配を一切見せずに普段通りの怜悧で気配りのできる管理職として振る舞った。部下の提案や議論に静かに耳を傾け的確にアドバイスしている上司がその意識の半分では息子や愛人との愛欲の記憶を反芻して舌なめずりし、下着を濡らしているとは誰も思わなかっただろう。また、そう想像することでぞくぞくする背徳感をさらに自らを煽動して欲望を燃やし続ける燃料とする要領の良さもあった。何にせよ退社して通勤電車を降りる頃にはもうすっかり準備は整っていた。あの日からいつも「抱いて、愛して」という言葉が口からこぼれ出る寸前で帰宅するのだった。

 裕美は外出先から直接戻って恵美が帰宅していないことを知ると上着を脱ぐのももどかしく階段を駆け上がった。卓の部屋に転がるように飛び込むと仕事に手がつかずにベッドに寝ころんでいた卓に躊躇なく迫った。卓はその襲撃のような勢いに圧倒された。かじりついてきた母をなんとか受け止めたが、裕美はからだを卓にもぐり込ませるような勢いでしがみついて、あごといわず首筋といわず舐め廻した。息が甘く荒かった。ブラウスの下の乳房がずっしりと卓の胸元に押しつけられた。母の舌はさんざんに卓をくすぐって、ようやくくちびるにたどりついた。母のキスはガールフレンドたちのついばむような愛らしいものではなかった。それは舌と舌との性交だった。前戯ですらなくもう直接の行為だった。欲望のままに快楽をむさぼるという表現がぴったりだった。母の舌は卓の口中をさんざんにいたぶり弄んでいた。唾液は顎から首筋を伝って落ちていた。片手を卓の頬にあてながら母はもう一つの手でスカートの裾を捲り上げてストッキングのゴムに指を差し入れ尻をなでるようにして引きずり降ろした。両足で地団太を踏むように膝をすり合わせて下着を下げ、蹴りとばした。

「もう、がまんできないんだから」

母は卓のくちびるを舐めまわしながらも鼻息荒くそうつぶやき、卓のジーンズの前ボタンを外し始めた。外しながらも膨らみをぐいぐいと押し込んだ。

「早く入れないとお母さんおかしくなっちゃうわ」

ジーンズの前を開くのももどかしくトランクスと腹の間に手のひらをすべり込ませてきた。そのまま手のひらを返すとペニスがぶるんと音を立てて剥き出しになった。

「おお、これよ」

母はそれをがっちりと握ったが、力任せはそこまでで、そこからは加減を熟知した緩やかなストロークで扱きが始まった。亀頭への刺激で卓がうめくと母はうれしそうに「感じるの、かわいいわね」とほくそ笑みストロークのピッチを上げた。そうしながらもくちびると舌は互いに絡み合い二人で唾液を交換し合うのだった。ちゅばちゅばとすさまじい音を立てる口唇愛撫と扱きのせいで卓はあっさりとダウンしそうだったが舌の猛攻の間にかろうじて「ねえ、しゃぶってよ」とささやいた。

「だめよ、最初は入れて」

母はそういってパッと飛びのくと布団に膝をつき獣の姿勢を取って背中を反らせた。たしかに真っ白な腿と尻の間の赤黒い裂け目から内臓がはみ出しているようだった。母はさらに尻を持ち上げて足も広げ肩越しに振り向いて「ねえ、xxxx、見て」といった。白く豊かな尻の中心に白濁液にまみれた色の濃い陰唇が口を開いていた。体液はすでに腿を伝っていた。そして陰唇の上には行儀よくすぼまったアヌスがあった。卓は吸い寄せられるように跪き母のセックスに口づけをした。

「あんっ」

母は敏感に反応した。

「すごいよ」

卓はあまりのぬめりに思わずそうつぶやいた。こんなに濡れるのか、と思った。

「もうずっとなの。会社で下着を汚したわ」

卓はそのぬめりを呑み尽くそうとして猛然と舌を使って母のセックスを愛撫した。母親は背中を引き絞って小刻みな嬌声をもらした。卓の行為は結局焦らしになった。早く入れてほしいと思いつつも今の快感も手放したくない母は迷いながらさらに乱れるだけだった。ついに「ねえ、もう入れてください」とささやいたときには茹でたように顔が紅潮し涎が唇から糸を引いていた。獣になっている母にこれ以上の前戯は要らないと判断して圧し掛かった。母の鳴き声は甘ったるくうれしそうだった。つながると同時に母の尻のグラインドが始まった。亀頭が口から見えかかるところから股関節が母の腿に食い込むほど深くまでを勢いよくなめらかに大きなストロークで往復する運動だ。二人とも先日の交合でタイミングをつかんでいて今日は興奮に拍車がかかっても焦りはなかった。頃合いをみて卓は仰向けに倒れた。濡れそぼったペニスが外れた勢いで自分の腹を叩いて音をたてた。母はきゃっと声をあげると鋭く振り向き、卓を追いかけてその胸にすがりついた。

「いやだ、急にいなくならないで」

母は不平を漏らした。

「ほら早くのって」

母はけだるげに立ち上がると卓にまたがり、腰を落としながらその動作だけで手を使わずにペニスをとらえた。卓はずるっという感触で母のからだに戻った。

「これ、違うのよ」

腿をぴっちりと寄せて位置を整えた母が指を咬んで品を作った。妙に愛らしい。

「いやなの?」

卓は怪訝な顔をした。

「ううん、違うところがいいの」

そういうとまた勝手に動き出す母だった。腰を浮かしたまま小刻みに上下させる技術があった。卓はそのまま放っておいた。母は上下動の範囲を次第に大きくしていった。揺れる髪先が頬を隠すといらついたように汗を飛ばして振り払った。小刻みにつく鼻息とともに声が漏れた。卓のからだに母の重みがリズミカルに落ちてきた。水面を平手で叩くような音が高まった。卓の胸で支えた手の爪が立って刺さった。母は突き抜けた。

「ああ、ああ、ああ」

母は仰け反って絶頂の印をわかりやすく晒した。断続的に吐息を漏らすたびにびくっびくっとからだを震わせた。卓の腰に沿わせた腿のけいれんが伝わった。からだを揺らしながらまた指をくわえて腰を震わせている母が愛らしかった。卓はその母の極まりを見て悪戯心を起こした。二人のつながりに手を伸ばして剥き出されている陰核を親指の腹で押し込みぐいぐいとこすった。反応はよかった。母はひぃっと声をかすれさせてさらに仰け反った。刺激が強すぎたのだ。つながりの隙間から音を立てて液体が漏れ出てきた。失禁したようだった。卓はかまわず腫れ上がった陰核を弄った。

「それはだめ、いまは」

母は拒絶しながらも卓を追い出すように勢いのある流れを止められなかった。何より拒絶の声が鼻にかかって甘かった。きついルージュの吐息は熱く生臭かった。卓は憤然とした。またいかせてやると決めて今度は自分から動いていった。

「ああっ、だめになる」

息子の企みを知り母はからだが欲の軛から逃れられないことに眉根を寄せて苦しんだ。苦しみの中にも外にも愉悦の薔薇色が散らされてその矛盾が母を狂わせた。実際苦しげな表情なのに腰の動きは肉でできた機械だった。緻密に正確に動いて快感を量産し続けた。卓の下半身もあっという間に母の沼に沈んで溶けた。知らぬ間に目の前に来ていた母のくちびるを貪った。再会した舌が互いを犯そうと絡み合った。そして暖かく甘い肉の扱きを堪えに堪えていた卓が喚声を上げて母に精を打ち込むと母もそれを知って最後の一滴まで吸い上げるつもりで柔門を締め上げた。それは情痴ではなく子作りに励む新婚の妻の素直な技だった。卓は母の尻をわしづかみにしたまま果てた。引き絞った弓が弾けたように脱力して気が遠くなった。母の体重を感じた。

 裕美は知らないうちに眠っていたようだった。はっと目を覚ますとその眠りが一瞬だったのか長い間だったのかがまったくわからなかった。卓のからだにふれようとして手が宙をさまよった。一人だった。そのとき遠くから甘い痺れが襲ってきた。

「卓」

母は呼びかけるというよりも独り言のようにつぶやいた。返事はなかった。ただ甘い痺れが血の鼓動とともに送りこまれてきた。母ははっと肩越しに足元を見た。誰かが裕美の太ももをつかんでいた。母はこの痺れが卓の愛撫であることにようやく気づいた。

「あっ」

つんとくる刺激が襲った。母はその刺激を知っていた。成長した恵美が思い出させてくれた刺激だった。若い頃、秀一との濃密な愛の日々の中でついに互いにタブーはないと実感したときのあの刺激だった。あの時秀一にうながされるままに裕美は美しい屋外の湯殿で浴衣をまくり上げて野良犬のように糞尿を垂れ流したのだった。虚飾はおろか人としてのすべての装いをはぎとられて、獣の優れた危機管理の力もないままに剥き出しの踏み石の上に自分の匂いをすりつけた。自分を捕食する獣がいれば間違いなくそれを挑発したはずの行為だった。そして秀一にしたたかに尻を鞭打たれながらからだ中からあらゆる水分をほとばしらせて心は法悦の境地をさまよったのだった。そして汚辱を洗い流した後に呆然と座り込んだ裕美を跪かせ秀一は無防備な排泄口を惜しみない愛と技巧で慈しんだ。濡れた浴衣をまとわりつかせたまま這いつくばり尻だけを空に剥き出して秀一の愛撫を受け入れた。おぞましさは歪んだ快楽へと変わっていった。毎夜のように丹念に育まれたそこはやがて乳児の記憶を確実に呼び覚まし女の部分に勝るとも劣らない感度を備えるという成果を見せた。その感度と背徳に軋む心と本来の被虐嗜好のブレンドが彼女の精神に何物にも物おじしないしなやかさを与えた。そのしなやかさは当然ながら外面にも表れて裕美はいよいよ艶やかに花開いた。彼女は性愛のシュードラであり性愛のシヴァだった。

 卓はそうやって培われた母のアヌスを弄っていた。すでに舌による準備はすませて今や二つの指がなめらかに母の排泄器官を性具へと切り替える作業を始めていた。裕美は目が覚めると同時にすでに愉悦の波が胸を襲っていることを知った。酸素不足の魚のように口をあけて声にならない声を上げて喘いだのだった。この子は知っているわ、すごい、からだの中が涼しい、ねえ止めないで、もっとして、母のからだは自然にうねり始めた。そのうねりは刺激に合わせて尻を突き出すような動きへと収斂していった。

「母さん、これ好きなんでしょう」

卓は指の抜き差しを止めないまま母に返事をさせようとした。
 母は筋肉の支配を明け渡すかどうかの瀬戸際でもがいていた。身もだえるような愉悦の信号が本能と理性の二重のガードをバラバラに打ち砕く寸前だった。実際には彼女の筋肉はとうになすがままになっていてかろうじて奥の院への荒々しい侵入を拒んでいるだけだった。そして知らず知らずのうちに直腸へといざなうような動きすら見せ始めていた。無色の腸液がとめどなく流れ落ちた。

「好きよ、どうして知ってるの」

裕美はろれつが回らなくなりそうで気をつけてゆっくりと返事をした。

「これ、見つけた」

卓は腿の向こうからのぞくように顔を出すと紫色のボトルを持ちあげてラベルを母に向けた。そういう人々の行為をなめらかにするための大切なローションだった。

「お姉ちゃんの部屋にあった」

母の胸に一瞬の悪寒が走った。卓は姉の秘密に気づいているのだろうか、いやそんなはずはない、と思いが錯綜した。裕美は言葉を失いながらもその状況を最悪ではないと考えた。しかし余計なことをいわないように自分をコントロールするには状況はあまりに過酷だった。卓にアヌスを柔々と吸われて、隠し事を吐けと迫られたら、裕美はしとどに腸液にまみれた尻を振って負け犬のようにきゃんきゃんと謡っただろう。母は顔を伏せたまま背中を波打たせて卓の愛撫を受け入れる仕草をつづけた。

「母さんと姉さんがしてるのを見た」

悪寒が辛くなった。卓は打ち明け話をしながら母の出口に四つの指を揃えて差し伸べていった。広げられたアヌスは無限の柔軟性を見せて指先どころか掌までを呑み込もうとした。そのために裕美は筋肉を弛緩させるための呪文のような喘ぎを巧みに繰り返した。ねえ、もっとさわって、ママの中を、ママの汚いところをいじめて、裕美は胸の中で絶叫していた。

「ものすごく驚いたよ。刺激的だった。女性同士が愛し合うのを見たのは初めてだったから」

卓の言葉がすぐには呑み込めなかったが、自分と恵美をレズビアンと見なしていると気づくと、卓を不用心に傷つけずにすんだことに安堵した。裕美は顔を伏せたまま微笑みすらした。そして、母の愛のこういう受け止め方を姉と共有することが卓にとっての長年の望みだったことにも気がついた。それならばためらうことはない、わたしはこの子にだって惜しみない愛情を注ぐのだから、と裕美は奮い立った。

「ねえ、もっとして、xxxxも虐めて」

母は顔を上げると演技とも自然とも自分でもわからない甘えた口調で卓の攻めをうながした。
 卓の手指が乱暴に陰唇に分け入ったところで最初のオルガズムが裕美を襲った。頂点のとば口で閾値を彷徨っていたからだが一気にそこを乗り越えたのはスポットを激しく刺激されたせいだった。母はまた潮を吹いた。卓はアヌスに出入りさせていた指を丸めて打ち込んだ。すでに熱と愛液で緩んでいたそこは難なくこぶしを呑み込んでまだ余裕を見せていた。卓の腕が動くたびに肉の帳はなめらかに追いすがった。母の嬌声が打ち上げ花火のように寝室に舞い上がり漂い落ちていった。

「そこに、ねぇ、そこにほしいの」

裕美はついにむずかるように鼻を鳴らして卓にそうせがんだのだった。卓はさっきまで腕を呑み込んだ筋肉がするすると閉じて愛らしい渦巻き模様に収まるのを驚愕の眼差しで追いかけていた。女体の神秘だった。女は硬い骨から作られたのではなく獲物を呑み込み放り出しまた深々と呑み込む原始の軟体動物から進化したものに違いなかった。卓は我知らずふたたびそこにくちびるを寄せて、乳濁し半固形化した蜜液の塊を丹念に舐めとっていった。渦巻きの筋肉はゼリーのように赤く腫れあがってつやを放っていた。すっかり起き上がった裕美はぐっと背を反らせて両手で尻たぶを開き、卓の愛撫をせがんだ、そのふしだらな仕草すら卓には愛らしかった。

「口移しで。ローションをね。キスしてちょうだい、そこへ。全部ほしいから」

くなくなと尻を振る母の要求は明快だった。卓はローションの口を含みケースを絞った。糖質の交じった少しだけ粘り気のある液体が卓の口腔を満たした。そしてそのまま母の肛門に口づけしながら強く吹きこんだ。押しつけが十分ではなかったためかなりの量が外へこぼれてしまった。それでも母の喘ぎ声は跳ね上がった。

「ああ、入ってくる」

口腔でやや温まったとはいえまだ冷たさの残る液体が内臓を駆け巡るぞくぞくする感触に裕美は悶えた。卓は口元をぬぐってもう一度同じことを繰り返した。二度目はこぼさずにほとんどを母のからだに注ぎ込むことができた。

「大丈夫」

卓は思わず口にした。

「ああ、このまま入れてくださいぃ、お尻に、ね、お尻でいきたい」

母は哀願した。欲望をはっきりと伝えろという秀一の調教の成果は女に楚々とした装いをかなぐり捨て異常な性癖だけを際立たせることにためらいをおぼえさせなかった。鶏姦の呼び覚ます快感に狂い果てたいという妄執を女は何に羞じることもなく曝け出し、自ら尻を開いて男の股座に迫っていた。会陰から肛門にかけての肉はすでに赤々と腫れ上がっていた。
    卓は母の足元に跪きペニスを扱いた。母のまっすぐな欲望成就の姿勢に圧倒されながらも、最後はこの剣で果てさせるのだと決めて丹念に磨きをかけた。女は顔を敷妙にうずめ白く盛り上がった腰を高く掲げて処刑を待った。渦を巻く筋肉は捕食動物が獲物の眼を逸らすカモフラージュをするように不敵な薄笑いを浮かべていた。卓の極太の心棒が触れたとき、肉の輪は抵抗を見せることなくその先端から茎までをずるずると吸い上げていった。母のからだは小刻みに奮え、断続的な喘ぎが引きつけたように喉から漏れ出た。卓は女陰との感触の違いに驚いていた。そして急激な締めつけが起こった瞬間に奸計に嵌ったことを知った。ワギナはどこまでも優しく卓を受け止め、抱き締め、追いすがっては柔窟の形を変化させてそぼ濡れて泣きじゃくったが、アヌスは卓の剛直はおろかからだまでもを丸呑みにして消化しようとしていた。内臓は腸液の分泌以外は何ら積極的には動かずただただ括約筋だけが獲物を捕らえたイソギンチャクのように中へ中へと帰れない旅を促す蠢動を繰り返した。

「きたのね」

母は確認の言葉をつぶやくとぐったりとした。彼女もまたみずから律動せず邪筋の捕食運動にすべてを委ねたようだった。卓は焦った。このままでは何もしないままに肉に縊られて衝動のままに精を放つそことになりそうだったからだ。卓はとにかく自分で動いてみようと決めた。今まさに最深部まで吸い込まれた強直を取り戻す時だった。卓は母の尻たぶをつかみぐいっと一気に腰を引いた。その急激な動きに母は絶叫で応じたのだった。唐突な引き抜きに母は内臓をそのまま抜かれる悍ましい幻想にとらわれた。実際アヌスは強直に追いすがって外側へと口を突き出したのだった。卓は間髪入れずに容赦なく今度は剛直を奥へとたたき込んだ。この深く大きなストロークはあっさりと母の理性を干した。何回かのストロークで母は自ら尻を前後に激しく振り始めた。二人の運動の周期はみるみるうちにシンクロした。摩擦は熱を産み、熱は愉悦に直結した。痺れる快感に母は我を忘れて高ぶった雌馬のように尻を振り立てて泣き叫んだ。

「ああっ、そんなにしたらいっちゃうわ、いくっ」

裕美は背中を猫のように高く丸く突き上げて脚の筋肉を引き攣らせた。からだを痙攣が走った。膣口から失禁したかのように愛液が激しく迸ってシーツを濡らした。大きな塊が裕美のからだを通り抜けていた。裕美が自分が分解しないように必死でこらえていた。その見えない塊は裕美の大きく開けた口から熱い吐息とともに抜け出ていった。アーチのように高く持ち上がっていた裕美のからだが緩み始めた。

「すごいね、母さん、よかったの?」

ばったりと胸をついて倒れた裕美の背に寄り添った卓も肩で息をしていた。声がかれていた。

「ええ、でも、もうダメ」

息も絶え絶えだった。眼を閉じたままかろうじてつぶやいた。しかし、愉悦の余波がまだからだを洗っていた。それは不気味なほど優しく甘く裕美の尻を襲い、裕美は再び蕩けるような快感に浸された。

「でもまだなんだ」

卓はそういって伏臥位のまま自重でやや厚みを失った母の尻の上からピストンを打ち込む動作を再開した。母は敷布に押しつけられるたびに軽く顎を上げて反応していたが、再び次第に喘ぎが強くなってきた。

「ねえっ、またなの、もう死んじゃう」

母は再び卓の動きと同期を取ったうねりの中へと沈められていった。腸液と愛液にまみれた結合部はきらきらと照りを放った。汗が散った。

「あっ、見ないで、出ちゃう、出ちゃうのっ」

卓が勢いよくペニスを引き抜くと母は強烈なフラジオレットとともにローションの名残を激しく宙に吹き上げた。裕美の張り切った白尻はぶるぶると震えてシーツに沈んだ。恥ずかしい、でもうれしい、見てほしい、裕美はからだが一気に冷えるような絶望と突き抜ける開放感を同時に味わった。ああ、くる、まだくる、快楽の波はからだの芯から次々と押し寄せてきた。

    しかし卓はまだだった。三度卓は母の後門を貫き、数度の往復の末ようやく自分の樹液を母の内臓に振る舞った。その暖かな贈り物に母は最後の力を振り絞って反応を見せた。虚脱感と充実を一つにしながら卓はからだを反らせて何度も精を放った。

「ああ、出たのね、あなたの。全部わたしに頂戴」

貪欲な母だった。もう力は残っていないのに見えない何かを求めてからだを波打たせるのだった。仰向けに返って倒れた卓に母はそっとすがった。まだ下腹部に痺れがあった。母の舌の探索は胸から腹へ、やがて鼠蹊部へと進み力を失いながらもまだ屹立するペニス、自分の腸液にまみれたペニスをさも愛おしそうに清めるのだった。

「母さん」

言葉にならなかった。火花が散り、卓は失神した。

「嫌いにならないでね」

母は卓の額の髪をそっとすきながら頬に鼻をおしつけた。しどけなくも恋人らしい慈しみを見せる仕草だった。嵐のような交尾のあと母は今、息子の女だった。

「どうして」

卓は母の訴えの趣旨は分かっているつもりだったが誤解のないように語りたかった。

「だってあんなこと」

母は改めて頬を赤らめて、常識や世間体を超えた欲望の成就に身をささげたことに戸惑いを見せた。しかし、じつは戸惑い続けることが彼女の精神的な安全弁であり、それがあるからこそ大胆に軌道のない世界へと飛び込めるのだった。その戸惑いが情欲の煉獄に心置きなく遊ぶための免罪符だったのだ。戸惑い、振り返り、躊躇い、乗り越え、やがて溺れて貪婪な原始生物の生殖へと堕ち、再び恥じらいとともに天上へと昇るのだった。

「父さんに教わったの」

母は無言でうなずいた。それは誕生と排泄と性交と死を一つのステージで味わい尽くすというテーマに基づいた巨大な計画だった。

「目が開いた気がしたわ、生きることの意味について」

嘘はなかった。虚飾を捨て去るための徹底した行為を経た夜明けの清々しさは何物にも代えがたかった。精神と肉体の隅々にまで曙光が射しこむのだった。新しい生が始まるような気がした。

「だったらそれでいい。ぼくは母さんを愛している」

母は起き上がって息子を見つめた。二人は静かにくちびるを合わせた。二人のからだに愛の新芽がまた萌出で始めた。父の存在はここにはなかった。二人だけだった。

「すごい」

卓のペニスがまたもゆっくりと立ち上がるさまに母は感嘆した。母はまた息子のからだの地図を読みながら一歩づつ進んでペニスにたどりつき白魚のような指を添えた。包んだ掌で熱い血が脈打つのを確かめてから卓に向けて艶めかしい眼つきを送ると再びゆっくりと手淫の技巧を見せ始めた。好きよね、これ、ねえ、あなた、裕美は若い夫に向けて声にならないつぶやきを送った。規則的で丹念な動きに乳房も揺れた。ペニスは裕美の手の中できつく引き絞られ、胸を張った。

「若いのね」

その眼差しといい仕草といい言葉遣いといい、神に仕える最上級の娼婦の風格があった。神のペニスからその種を絞り出す技巧を我が息子に惜しみなく捧げるつもりで母は乳房をふるわせ大きく足を広げて卓を迎え入れようとした。母子は飽くことなく番い続けた。

    母子の熱狂は二月余り続いた。退いたのは卓だった。恋人とからだを結び合うことに余計な考えが差し込む最初の中断期が来た。精神が行動をリードすると考えたがる知的な人間の悪癖を取り除いて素朴に分析すれば、それは単にからだを結ぶことで欲望を達せられなくなっただけのことだった。飽いたのだった。生殖以外の生活へ一度軸足を戻せという自然からの要請だった。しかし飽いて退くのはましな方だった。飽いたことに気づかず欲望も失われているのに行為に耽りたがることの方が現代では一般だった。母はそういった男や恋愛の生理をよく理解していた。裕美は今が好機と考えた。

「このままでいいのかな。僕らは親子だし」
「そういう負の感情は人生には不要なの。でも、まずそういう気持ちになれるのはすてき。母さんを大切にしてくれてるのね」
「母さんを愛してるんだ」

言葉に偽りはなかった。しかしそれ以上に若者はからだがなかなか思うようにならないことをなんとかして糊塗したかった。裕美には息子の未熟さがただただ愛らしかった。

「よく自分の心を探るのよ」
「....」
「動きながらね。止まって探るのは難しいの。そう、コマは回りながら安定するでしょう、あれに似ているわ」
「あなたが長年育ててきた欲望は解消されたのかもしれない。だからもう縛られちゃダメよ」
「でもそれじゃあ、僕は身勝手な男になってしまう」
「それは正しさの基準を何かに依拠して、それで自分を正当化しようとしているでしょ。それは要らないの。自分が独り立ちしてどう生きるか、それがすべてよ。愛はそこから生まれてくるの」

母がこういう風に子どもに説諭するのは珍しかった。若々しい反骨の心は常に蠢いていたが、それでも息子は不思議なほど落ちついて母の言葉を受け止めていた。自分を自然を計る物差しだと思えばいい、とも母は言った。母は慈しみあふれる眼差しで息子を見ていた。恋は去るが愛は去らない、息子たちへの愛は注ぐ海のない川のように常に穏やかに流れ続ける、裕美は理屈でなくからだでそういったことを理解していた。卓は心の底で吹き荒れた欲望の嵐から抜け出たようだった。これからどこへ向かえばいいのか、母は動けといったが難しかった。しかし卓が動かない間に世界は動いていた。

11. 世界」に続く

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