守り人

大きく豊かな愛に包まれてこの世に生まれた君は十年余りで壊れてしまった。壊れた君は少しでも破片が落ちないようにゆっくりと歩んでいたに違いない。それは辛い努力だっただろう。自分を守るものを欠くことができずまたそれゆえに守られないと生きられない自分にうんざりして守り人にすらも冷たく辛く当たることも多かっただろう。焦りやいらつきはやがて憎悪に近いものになっただろう。憎悪は時おり心を席巻する嵐になったはずだ。ただ一つ幸いなことに君にはその胸の内を形に変えてゆく力があった。君の言葉や仕草がどんなに他人に通じなくなってしまっても君が生み出す形はあらゆる人に受け入れられ時には賞賛を浴びただろう。人にはいろいろな生き方がある。君も君の生き方で生きていた。誰が何を言おうと。ただ君の中の憎悪だけはうまく形として外に顕せなかったのではないか。君の生み出すものを褒め称える人々も君の中に隠されたその材料については深い思いを馳せなかった。
君は最後にはある意味望み通りに自分をこなごなに打ち砕いてこの世を去っていった。守り人の心もその取り返しのつかないことに対するいいようもない無力感と最後まで君のガラスでできた魂を突き通せなかったことへの悔悟の高波に襲われてそれこそ散り散りに砕けた。どの守り人も守っていたものを失う時には虚ろな気持ちになる。しかしそこからまた守り人は復調してまた誰かを守り始める。砕けてしまった守り人も時間をかけて破片を拾い集めながら歩きだす。自分の破片だけではなく君が幼い頃に落としてしまった心の欠片をもいつまでも探し続ける。それが守り人だ。君が感謝の気持ちを抱いて去っていったと信じたい。

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