コンテンツ展開の戦略性とオードリー若林さんの活用に見るテレビ各局の隆盛の見通しとは?
YouTubeで今1番面白い番組の切り抜きは何か?
ダウンタウン後の覇権を取らんとする千鳥の『チャンスの時間』
大悟さんの指示通りにノブさんが楽屋挨拶に対応する『ノブの好感度を下げよう』や、
ツッコミ芸人が躍動する『バーニングツッコミ』など、傑作企画が多数
「ホンマにおもろいな〜」というホットな余韻を残しつつ、動画の最後に千鳥から
・番組をフルで見られるのはABEMAであること
・プレミア会員なら過去の配信も見られること
がしっかりと宣伝され、リンクが案内される。
Netflixへの入会を焚きつける『全裸監督』の如き強力なコンテンツの力と、明確な導線により、
ABEMAの思惑通りに「プレミア会員になろっかな〜」と心が動く。
ABEMAを主として運営するサイバーエージェントの決算発表で示されるABEMAの成長に係るKPIは、
⚫︎ アプリのダウンロード数: 5,900万
⚫︎ 週間アクティブユーザ数: 1,211万
⚫︎ プレミア会員(有料)の登録数: 84万
(2020年9月時点)
と表現されており、
各メディアを通じたPRからの
→アプリのダウンロード
→視聴
→プレミア会員への入会
という視聴者の誘導線と、
事業のKPIとがしっかりとリンクしている。
また、最重要指標である「プレミア会員」が、
誘導線の終着点となるように明確に設計されており、コンテンツ制作方針、PR戦略にブレがない。
PRと事業方針との一貫性を通じて、ABEMA、そしてサイバーエージェントの強かさを感じた。
では、テレビ局はどうか?
好調なTVerの他にも、各局、定額動画配信サービスや見逃し配信のプラットフォームを展開しているが、自然体のいち視聴者としては、各局がどのプラットフォームでどういったコンテンツを配信していくのか、という思想を実感できてはいない。
事業方針としてはどうか?
各局、コンテンツ展開におけるの明確な方針が打たれているのだろうか?
本日は、在京5放送局のコンテンツ展開の現状と経営方針を俯瞰の上、若林さんの活用状況も踏まえ、各局の今後の隆盛を占って行きたい。
1. 各局の展開状況
各局のコンテンツ展開のラインナップとIRから見える経営方針、若林さんの活用状況は以下の通り。
① テレビ朝日
⚫︎ 放送事業(2020年度)
売上高: 2,132億円
営業利益: 111億円
⚫︎ 定額動画配信
①TELASA : 旧ビデオパス(KDDI)
・運営: TELASA (KDDI50%, テレ朝50%)
・月額618円(税込)
②ABEMA
・運営: AbemaTV (サイバーエージェント55.2%, テレ朝36.8%, 電通5%, 博報堂3%)
・月額960円(税込)
③ logirl : アイドル番組等
・運営: テレビ朝日
・月額990円(税込)
⚫︎オンデマンド(無料/課金)
④テレ朝動画(テレ朝見逃し)
⑤TVer
⚫︎ YouTube
『動画、はじめてみました[テレビ朝日公式]』
(65万登録、2.5億視聴、2019年〜)
『tvasahi』
(41万登録、3.5億視聴、2006年〜)
『ANNnewsCH』
(198万登録、20億視聴、2009年〜)
『TELASA テラサ』
(0.7万登録、0.1億視聴、2015年〜)
『AMEBA【アベマ】公式』
(155万登録、3.6億視聴、2016年〜)
『logirl【テレ朝動画公式】』
(1.2万登録、0.01億視聴、2020年〜)
⚫︎ コンテンツ展開の方針(決算発表時)
『テレビ朝日360°』と銘打ち、コンテンツを価値の源泉に据え、テレビ・ネット・衛星等の多角的展開を経営計画の軸としている、
⚫︎ 若林さん出演番組
○しくじり先生
○激レアさん
✳︎ ◎コア番組、○主力番組、●撤退要望番組
⚫︎ 総括
自社の競争力をコンテンツ制作と整理の上で、サイバーエージェントやKDDIといった配信力のあるプレイヤーとの積極的な提携により、コンテンツ展開の量/面を取りに行く姿勢が明確。
配信プラットフォームは乱立させており、コンテンツの棲み分けは進めつつも、各プラットフォーム間の連動はなく、戦略的なポジショニングは不明瞭。
② テレビ東京
⚫︎ 放送事業(2020年度)
売上高: 1,114億円
営業利益: 50億円
⚫︎ 定額動画配信
①Paravi
・運営: プレミアム・プラットフォーム・ジャパン(TBS31.5%, 日経16.6%, テレ東14.9%, WOWOW14.9%, 電通14.8%, 博報堂7.3%)
・月額: 1,017円(税込)
・スマホアプリDL数: 1,000万超(2021年4月)
②テレ東BIZ : 経済番組
・運営: テレビ東京
・月額550円(税込)
⚫︎オンデマンド(無料/課金)
③ネットもテレ東
④TVer
⚫︎ YouTube
『テレビ東京公式TVTOKYO』
(118万登録、4.2億視聴、2005年〜)
『テレ東BIZ』
(107万登録、7億視聴、2016年〜)
『Paravi』
(7万登録、0.4億視聴、2018年〜)
⚫︎ コンテンツ展開の方針(決算発表時)
配信とアニメを軸とした明確な成長戦略を描き、「全コンテンツ・全配信」を統括する組織を組成の上、定額動画配信とオンデマンドの一体での戦略立案、収益管理の一元化を推進していく方針。
⚫︎ 若林さん番組
◎あちこちオードリー
○日向坂で会いましょう
●ソレダメ
●どうぶつピース
⚫︎ 総括
TBS等との提携によるParaviの展開に加え、自社の強みである経済番組の定額動画配信の強化を進め、アニメを中心としたコンテンツと配信の戦略的な掛け合わせを推進していく意思が見られる。
③ 日本テレビ
⚫︎ 放送事業(2020年度)
売上高: 2,268億円
営業利益: 不明
⚫︎ 定額動画配信
①Hulu
・運営: HJホールディングス (日テレ, Hulu,LLC, Zホールディングス, 東宝, 讀賣テレビ, 中京テレビ)
・月額1,026円(税込)
⚫︎オンデマンド(無料/課金)
②日テレTADA
③TVer
⚫︎ YouTube
『日テレ公式チャンネル』
(63万登録、1.7億視聴、2009年〜)
『[公式]日テレNEWS』
(33万登録、3.7億視聴、2019年〜)
『Hulu Japan公式』
(12万登録、0.4億視聴、2012年〜)
⚫︎ コンテンツ展開の方針(決算発表時)
Huluを中心とした、コンテンツの強化・マルチプラットフォーム展開の拡張を志向。
⚫︎ 若林さん番組
○NFL倶楽部
●スクール革命
●ヒルナンデス
⚫︎ 総括
Huluをコンテンツ配信強化の中心に据え、テレビとの連動も含め、展開の軸は明確。
一方、HuluのPR力が不足する中、全社の総合力を駆使してHuluの発展を図るまでの工夫と姿勢は見られない。
④ TBS
⚫︎ 放送事業(2020年度)
売上高: 1,681億円
営業利益: 不明
⚫︎ 定額動画配信
①Paravi
⚫︎オンデマンド(無料/課金)
②TBS FREE
③TVer
⚫︎ YouTube
『TBS公式YouTuboo』
(54万登録、2億視聴、2012年〜)
『TBS NEWS』
(61万登録、5.2億視聴、2009年〜)
『Paravi』
(7万登録、0.4億視聴、2018年〜)
⚫︎ コンテンツ展開の方針(決算発表時)
在京5放送局でトップである無料見逃し(TVer, TBS FREE, GYAO)の再生回数と、Paraviの成長を、コンテンツの力により推進する方針。
⚫︎ 若林さん番組
なし
⚫︎ 総括
ドラマを中心としたコンテンツの強さをテコにParaviの強化、TVer等による広告収入の拡大を図るコンセプトはシンプル・明瞭であるが、配信に関して独自性のある展開は見られない。
⑤ フジテレビ
⚫︎ 放送事業(2020年度)
売上高: 2,176億円
営業利益: 51億円
⚫︎ 定額動画配信
①FODプレミアム
・運営: フジテレビ
・月額976円(税込)
⚫︎オンデマンド(無料/課金)
②FOD見逃し無料
③TVer
⚫︎ YouTube
『フジテレビ公式』
(29万登録、1億視聴、2006年〜)
『FNNプライムオンライン』
(89万登録、6億視聴、2011年〜)
『FOD』
(0.8万登録、0.03億視聴、2013年〜)
⚫︎ コンテンツ展開の方針(決算発表時)
視聴率の向上と広告収入の拡大を最重要課題に据え、コンテンツや知的財産権を核に多様な収益を得る事業構造を目指す方針。
プラットフォームとコンテンツサプライとをバランス良く展開していく意向。プラットフォームは競争環境の中での投資回収可否を見極める。
⚫︎ 若林さん番組
●潜在能力テスト
⚫︎ 総括
唯一他社との提携なしに定額動画配信プラットフォームを展開する垂直モデルを志向。
FODによる定額動画配信・無料見逃しの展開は一貫性があり、視聴者に対してのメッセージが明確であるが、
経営課題は今だに視聴率・広告収入に向いており、プラットフォーム展開には強い覚悟は見えず、IRからは撤退の可能性を示唆しているようにすら映る。
2. 各局の比較
今後のコンテンツ配信における飛躍の可能性を感じるのは、以下の順番。
①テレビ朝日
②テレビ東京
③日本テレビ
④TBS
⑤フジテレビ
● テレビ朝日はサイバーエージェントとのABEMA展開をはじめ、多少とっ散らかってでも新たな枠組みを試し、時流に乗っていくという気概を感じる。
多様な経験を積み、パートナーからのノウハウの吸収も含め、自社としてのコンテンツ展開の目指すべき姿を見出すのは早いと感じる。
● テレビ東京はコンテンツの力は比較して弱いものの、強みの経済番組を活かした配信サービス化、弱みを補う他社との提携等、全社として戦略性と知恵を絞って成長していこうとする姿勢が感じられ、今後も拡張の可能性を感じる。
● 日本テレビはHuluを軸とした展開は整理されているものの、Huluをどういった姿に飛躍させていくのかまでのストーリーを感じるには至らない。
● TBSはシンプルに強みのあるコンテンツを軸とした展開を標榜するが、配信に合わせたコンテンツ制作に取り組むといった連動的なシナリオを感じるには至らない。
● フジテレビは、経営が前近代的なポジションに留まろうとする雰囲気を醸し出しており、停滞の危険性を感じる。
今やコンテンツに特別強みがあるわけではない中、単独での覚悟なきプラットフォーム展開が継続できなくなる場合には、次が見えなくなる。
コンテンツ制作は職人の世界である一方、配信はビジネスの領域であり、各局、元は不得手である中、手探りで正解を模索している状況であるが、向き合い方により差が生じ出しており、今後更に広がっていくと感じる。
ビジネスの切り口から放送事業に参入したサイバーエージェントは、ビジネスモデルを中心にABEMAの配信、PR、コンテンツの調達・制作をデザインしており、
視聴者の裾野を広げる為のエッジの効いたコンテンツ制作、ストーリーのあるPR施策やKPIへ落とし込む連動性を含め、事業体としての力を感じる。
既得権を持たない中、サイバーエージェントは多くの犠牲を払ってきたが、ビジネス面における在京5局との力の差は歴然としており(✳︎)、テレビ朝日の力を借りながらコンテンツ制作の力も付けてきている。
(✳︎)サイバーエージェントは、藤田社長が放送事業に完全コミットの上で、競合含めあらゆるメディアに自ら目を通し、コンテンツ・ユーザビリティの向上に注力している。
地上波放送という既得権益が薄まる中、主戦場となるネット上はコンテンツ制作の力とピュアなビジネスの力での勝負となり、気がつくと放送事業者でABEMAだけが別のステージにいる、ということになるのではないか。
様々なパラメータで語られる在京5放送局の隆盛の見通しであるが、コンテンツ展開の戦略性は、そのままビジネス展開の力を表わし、ビジネスにおける収益力が制作費に跳ね返り、中期的なコンテンツ制作の質として表面化してくる。
各局が今見据える将来像と備える実行力が、将来的なコンテンツの魅力を見通す鍵となる。
さて、各局の若林さんのコア/主力番組の展開数は
テレビ朝日、テレビ東京: 2本
日本テレビ: 1本
TBS、フジテレビ: 0本
図らずも、若林さんの活用という面においても、各局のコンテンツ展開の勢いが表れた形となった。
この見えない因果関係が表層化される日が来るのであろうか。
3. 若林さんは何と言うか?
「ん〜番組で言うと、テレビのオンタイムで観たいものもあれば、TVerでゆっくり観たいものもあったり、配信の方法とコンテンツに相性があるのは、俺なんかでも分かるんですよ」
「あと、演者と配信の相性ってのもあって、ネットでも観たい人とネットにまでは観にいかない人ってのも結構明確に線が引かれるのよ。若林は前者でTVerとかでもやっぱ回るんだよね」
「それは結構嬉しいですね〜。まぁ佐久間さんには『あちこちオードリー』でオンラインライブにもぶち込まれたり、違った配信も楽しませてもらってますしね」
「まぁあれはお遊びみたいなもんよ」
「いや、何がお遊びなんですか笑、俺らの『本音』を勝手に売りものにして稼いで。こないだのライブも視聴者6万人ですよね?1人2千円で1億2千万円、ボロ儲けじゃないですか。ちゃんと稼いだ分こっちにも回してくださいよ笑」
「いや、それはテレ東さんと話してよ、俺はしがない雇われプロデューサーだからさ笑」
「でもホント佐久間さんは上手いですよね、テレビのトーク番組でもラジオでも出さない『本音』を雑談形式にして、オンラインライブという配信にはめるってのは。noteとかも、やっぱ個人単位だから、人との雑談の中で出てくるものとは違いますし」
「うーん、まぁたまたまなんだけどね〜。これ切り出したら面白いんじゃねって。まぁせっかくだからもっと褒めてよ、がははははは」
「この自分の笑い声で持ってこうとするのがなければ、もっと佐久間さん褒めたくなるんですけどね〜笑」
横並びに見える各局のオリジナリティが、コンテンツ以外からも見えてくるようになると面白いですよね。