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リサイクルから生まれるモノに「想い」を込めて。

1714年創業以来、砂型鋳造技術を受け継いできた(株)金森合金様。金属の溶解から最終製品まで一貫して行うというスタイルを昔から続けています。
使用済みのアルミ素材を新たな製品に再生し、地域に還元する」ー24代目の高下裕子さんにお話をうかがいました。

金森合金24代目、高下 裕子さん(右:事業継承中)と現当主の23代目、金森和治さん(左)
©わらいふ2022年冬号掲載

(株)金森合金とはどのような会社でしょうか?

1611年 (慶長16年) 加賀藩主前田利長に技術を認められ、御鋳物師七人衆の一人として高岡鋳物の礎を築いてから400年。

私たちは、金属廃材を精錬・溶解して製品化まで行う循環型ものづくりを継承してきました。現在は、非鉄金属を取扱い、アルミ合金、銅合金、錫、鉛などを製造しています。

2019年に藩政期の屋号「釜八」を復活させたブランド「KAMAHACHI」を立ち上げるまでは、自動車部品やロケット部品素材など産業用機械部品をメインで製造してきました。

必要なものを必要なだけ生産する多品種少量生産のため、15 年に一度しか製造しない部品もよくあります。当社は金属廃材の自社内精錬を続けていることから、時代によって供給される素材が違うことで、作るもの・求められるものも異なってきた経緯があります。

1911年に富山県高岡市から石川県金沢市に移住してから、地域の新聞社が廃棄した素材を製品に活用してきました。「鉛活版」から「アルミ刷版」にシフトした頃に、私たちもアルミ刷版を原料に使うようになりました。

新聞社から出た使用済アルミ印刷板。切断して炉に入れ溶かしていく。

地元のホテルから出るアルミの空き缶からテーブルウェアを作っているそうですね。

地元のホテル「ハイアット セントリック 金沢」様から「レストランで使用している陶器の箸置きを壊れないものに変えたい」との要望があり、アルミ製箸置きを製作したのが最初でした。

その後、当社がアルミ廃材から箸置きを作っていると知った同ホテルの方が「毎日出るアルミの空き缶を使ってはどうか」というお話を頂きました。
各地のハイアットホテル様ではお客様にアルミボトル缶の水を提供しており、金沢だけでも年間数万本の空き缶が出るそうです。それまで当社では原料に空き缶を使用していなかったのですが、箸置きの原材料に使用済み空き缶も使うようになりました。

その後もホテル様とのご相談させていただいており、お皿やエッグスタンドなど、製作品が徐々に増えています。「無駄なものを作らずにすみ、在庫を抱えることもない」ことができれば良いと思っています。

ホテルで提供されている水のアルミボトル缶。
箸置きの素材となる。
砂型鋳造で作ったアルミの箸置き。
シミがついても削れば美しく蘇る。

2025大阪・関西万博のプロジェクトにも参加されるそうですが、それについてお聞かせください。

2025大阪・関西万博のCo-Design Challengeプログラム(*)の中で、2024年1月1日の能登半島地震で出てしまった「災害廃材」を使用し、会場に設置される「サインスタンド」を作る事業者に選ばれました。

災害で壊れてしまった建物には持ち主の思い出が詰まっています。能登地域は何世代にも渡って守ってきた酒蔵や朝市のお店も多く、それらの建物の記憶が無くなってしまうのは悲しいですよね。

「サインスタンド」つまり会場案内板です。「サイン」という言葉には「方向指示」と「刻印」という意味があります。サインスタンドに震災の廃材を使用することで万博のレガシーになると同時に、元の持ち主や石川県の人々の記憶を刻み、残していければいいと思っています。

現在、この企画に共感してくださる被災者の方々に、アルミ廃材のご提供をお願いしているところです。

*注釈
「大阪・関西万博を契機に、日本全国それぞれの土地で “これからの日本のくらし(まち)をつくる”」ことをコンセプトに、「1.万博を機会として、新しい「何か」をつくること」、「2.共創の取組であること」、「3.デザイン視点で取り組むこと」、「4.大資本でなくても取り組めること」、「5.地域への誘客に取り組むこと」の5つの特徴を持つプログラムのこと。
https://www.expo2025.or.jp/news/news-20240528-02/

潰した空き缶を炉で溶かす
アルミ缶がゆっくりと溶けていきます
完全に溶け、アルミ鋳造の原料に
溶解した素材を砂型に流し込んで形にしていく「砂型鋳造」

今後はどのような活動に取り組まれていきますか?

私がやってみたいのは、一般家庭から出る金属廃材をものづくりの循環に回すことです。例えば、近所の方から不要になったアルミのフライパンをいただいて、それを箸置きと交換するとか。

金属素材は経済情勢によって価格が変動したり、あるいは入手できなくなる可能性があります。現在使っている素材も今後変化していくかもしれません。また、私たちは家庭からでた金属ゴミを資源として分別しているはずですが、その行き先が見えにくいと感じています。

近所から原料を回収できるのはとてもありがたいことです。捨てるはずであったモノが食器や自動車部品、あるいは災害復興のために役立つアイテムなどに生まれ変わる。このような行き先が見えると、リサイクルに対する考え方が変わってくるのではないでしょうか。

これからの時代は「無理なく、無駄なく」が大きなポイントになっていくと思います。大切なのは、無理な負荷をかけずに、地域で出た廃材をまた地域に戻していくこと。そのためには私たちが柔軟な考え方で原料を回収して、いろいろなものに再生していくようにしていきたいですね。