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理系大学院生がアカデミアラストイヤーにして初心に立ち返った本〜「科学の考え方・学び方(池内了)」


みなさんご無沙汰しております、修士論文に追われるあるみです。
今回の記事は読書記録です。
「科学の考え方・学び方(池内了)」という本を読んだ感想を書いておきます。
この本の著者は宇宙物理学を専門とする教授です。
この本はジュニア新書なこともあって、子ども向けで平易な文体で書かれていますが、
科学の歴史から考え方、科学を考える上で必要な素養についてなど
科学の本質が書かれた本です。
理系を専門とする私が、改めて科学に対する姿勢を振り返るきっかけとなりました。



一、私にとっての科学

第1章では著者がどのように大学入学〜アカデミア人生を歩んできたかが書かれています。著者は理論家なので、機材がよく壊れる(よく壊す?)実験系の私にとっては、比較的自分のペースで研究が進められて少し羨ましい笑。

理工系ブームの時代、量子力学を応用した科学技術が発展した頃が目に浮かぶようでした。あの有名な湯川秀樹先生の門下生・林忠四郎先生に学んでいたとは尊敬です!まさに「生きる科学の歴史」だ〜

二、科学の考え方

ここでは「仮説と理論」「時間と空間」など科学を扱う上で重要な概念が説明されています。著者の専門が物理なこともあって、馴染みのあるワードがちらほら出てきて、学部生時代に学んだ基礎物理を懐かしく思いながら読み進めました。
座学で学んだ頃には脳内に「???」が浮かんでいた「対称性」「保存則」なども、実験や教科書学習を通して数年かけて骨身に染み込ませてきました。
その科学の概念のフレームワークを改めて振り返ることができたように思います。

マクスウェル方程式が好きです。この4つの式で電磁波が予言できるのは驚き。

三、科学はどのようにして生まれたか

この章では自然に対する「なぜ?」の問いかけを思考や実験によって解決しようとした古代、キリスト教の圧迫を受けながら「〇〇術」として水面下で科学が発展した中世、国家と結びついた近代〜近世という、科学の歴史が説明されています。今となっては国家の支援や共同研究などのチームワークが必要な科学も、元々は自然に対する個人の営みであったことがよく理解できました。
歴史を経るごとに社会にとっての「科学」の重要性・解釈が変わっていったことがとても興味深かったです!中世ヨーロッパで地動説を唱えた人々をテーマにした漫画「チ。-地球の運動について-」が読みたくなりました。

四、現代の科学と科学者を考える

この章では当時の最新科学について解説した章です。当時はコンピュータによるシミュレーションが科学の世界に応用されつつある黎明期で、当時の様子を知ることができて、とても興味深かったです。
(2024年のノーベル物理学賞はまさかの機械学習関連のトピックだったし、今となってはAI、ITは社会生活と切り離せない!)

最も心に残ったのは「科学者の責任と倫理」の章。「オウム真理教」「もんじゅ事故」など当時に注目を浴びた、科学に関連する問題を取り上げつつ、科学の問題点を浮き彫りにしました。

科学に関わることで「絶対」はないのです。

p165

(オウム真理教にのめり込んだ理系大学生は)「科学オタク」のまま、自分が何をしているかを客観的にみたり、他人の心を推し量る想像力に欠けていたと思うのです。

p172

(科学者の倫理で)最も重要な点は、やはり、「自分は、真理に忠実であるか」を問い直すことではないでしょうか、

p173

私は修士論文を提出し卒業してしまえば、科学から遠ざかる身ではありますが、実験データの誤魔化しや剽窃など科学に対する不道徳な姿勢がないよう、最後まで真摯に謙虚に向き合おう、と改めて決意させられる、そんな一節でした。

まとめ

2年間かけて研究した成果・修士論文もいよいよ大詰め。
そんな時期にこの本を通して、科学の基本姿勢に立ち返ることができて
良かったと思います。

社会と共に発展してきた科学。そんな科学と誰一人無関係でいることはできません。
現在ものすごいスピードで技術が発展していますが、その是非を判断し「諸刃の剣」である科学の発展の方向性を決めるのは私たちであり、
そんな私たち一人一人が、責任とモラルを以て科学の発展を絶えず見届けなければいけないのです。

物理系理系の人はもちろん、科学にあまり馴染みのない人にもぜひ読んでほしい一冊です。
さてと、読書記録がアウトプットできたことなので、修論頑張るぞ〜。

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