オンラインに足りないモノ:時間・空間・声
リタ・シャロンは、コロンビア大学の医学部で学生に次のことを考え、経験する機会を提供している。オフラインでないと得られないものばかりだ。
1.時間(主観的時間感覚)
正確に時を刻む時間(クロノス)だけではなく、ひとり一人の主観的な時間感覚(カイロス)がある。文学や小説の読解を通して学ぶ。
2.空間(Space)
言葉によって意味づけられると、場所(place)は空間(space)となる。空間は、静的ではなくて複数の要素が交差する動的な場所といえる。
3.声(多声性)
誰が誰に向けて語っているか。声によって一方から他方という志向性が生まれる。また、どの立場から語るかによって一人の人間が複数の声をもつこともある。聴き手は、自分たちの印象に基づいてさまざまな異なる意味を経験する。
育成される能力:抽象思考、文脈判断、洞察、覚悟
リタ・シャロンは、医学生に向けて患者の人生を全人的にとらえるための教育をしている。その取組は「ナラティブ・メディスン」といわれ、学生はつぎの能力が備わるように学習を進める。
1.抽象的思考
2.テクスト的な判断(文脈によって判断する)
3.心理学的な洞察
4.患者の世界観に身を委ねる覚悟
これらは、言葉による「意味づけ」のプロセスに必要なものだといえる。ひとり一人の体験は言葉によって意味づけられることで「経験」として蓄積される。
オンラインに足りないモノ:時間・空間・声
いま、打ち合わせや授業など、人との面会の多くはオンラインで行われることが多くなった。この数ヶ月の体験からいえることは、何かが足りないという感じがすることだ。
オンライン式に移行して、場所に縛られなくなったメリットは確かにある。しかしその一方で、時間は時計が刻む客観的なものとなり、みんなと過ごす「あっという間」の主観的な時間感覚を味わいにくくなった。空間は、間仕切りで区切られた場所になってしまった。声は、複雑な複数の声で語るものから、一人ひとりが順番を守って話すものになった。
オンライン化によって失った時間・空間・声は、私たちに「何かが足りない」感覚を残している。言葉による「意味づけ」を忘れないようにと伝えているのだとおもう。
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